友人?
「変な子よね」
教室の右端、黒板と窓から一番離れた席に座る僕に、前に座る女子は皮肉めいたイントネーションで呟いた。
ブックカバーのされたラノベに目を落としていた僕は顔を上げて声の主を見やる。
ミディアムショートのつやのある黒髪をした細身の女の子。痩せ型なのになぜか胸はふっくらしてる。瞳が大きくてどこか颯爽としてる、そんな印象の女の子。
高島ひとみ。
それが彼女の名前だ。ひとみはつんと唇を尖らせて僕を見つめていた。
「なにが?」
「なにが、じゃないわよ、あの子よあの子。一言も喋らない不思議な子」
顎で左手の方をしゃくるひとみ。その方角、僕とは反対の窓際に座る女の子、昨日告白してきた子がいた。
薄桃色の髪をした真っ白な肌の女の子。絶対に交わられない、相容れない桜と雪が混同したようなその子は桜井由希。
由希はひたすらスマホに指を滑らせ、たまににやついたり、悲しそうな顔したりする変な子で今も現在進行形でスマホをいじっている。
「なにしてるんだろっ、ほんと変な子」
ひとみはふてくされたような表情でそんな事を言う。
なんでひとみがそんな表情をしてあの子に言及するんだ?
僕に告白してくれた子を非難するもんだから僕も同じフレーズを使った。
「なに言ってるの、君だって変な子だよ」
ぴくっ。
ひとみの目尻が吊り上がる。刹那、肌色の何かが頭に落ちてくる。
でしっ。
「いったぁ~」
痛みはさほどない。でも額を押さえてわざとらしく呻いた。
「なにするんだよう」
「なにするんだよう、じゃないわよ、誰が変な子よっ!」
手刀を己の顔前にひとみの双眸は完全に吊り上がってる。やばい、怒らせた。
でも手加減をしてくれたのは仲良くしてる友達のよしみじゃない。僕を好きだからだ。ひとみは僕を好きでたまらない。だって、
「君も僕に告白したんだもの」
唇をひん曲げて言ってやった。するとひとみは口をぱくぱく開閉させて、
「さっき君もって言った!?やっぱりあいつに告白されてたの!?」
「あいつって言うな」
僕は冗談交じりにひとみを睨む。それもとびっきりイジワルな微笑を湛えて。
(やっぱりそうか)
誰かに見られていたような気がしたが案の定そうだったようだ。
僕が彼女にラブレターを下駄箱に入れられ踵を返す事になった僕は誰かに付けられてるのを感じた。背後から、足音を限りなく殺しているが空気を押し込む音だけは若干残ってたからだ。それにめざとく気付いた。
だから僕はひとみをイジる。
「ううう……でどうしたの、あれは振ってたの?」
呻き声を漏らしながらひとみは僕を睨み返す。僕は意地の悪い表情を消すと、そっぽを向いた。
ぷいっ。
「まさかイエスっ!?」
「僕はそのつもりだけど」
眼を剥いて愕然とする彼女に僕は照れくさげに呟く。頬を染めて。
「ーーふぐっ、うあーんッ!!ひどいあたしの時は振ったくせにーッ!!」
ひとみは瞳を潤ませて僕を糾弾する。泣き叫ぶ。手刀が何度も僕のおでこに振り下ろされる。ぶつかるぶつかる。
いてっいて。
さっきよりも段違いに込められたその威力に僕の頭は上下する。
やめてくれ、恥ずかしいじゃないか。周りのやつらがめっちゃ見てる。
僕は頬をさらに赤くして俯いた。痛みに瞼を閉じて、でも緩く微笑を描いて。
僕はひとみに告白された時の事を思い出していた。
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