パワーでゴリ押す昔話

ののあ@各書店で書籍発売中

第1話:さるかに合戦


 昔々のお話です。

 お母さん蟹といじわるなお猿さんがいました。


「なあ、お母さん蟹よ。その持っている大きなおむすびと柿の種を交換しないか? この種を植えればすぐにたくさんの柿が手に入るぞ」

「あらあら、それは悪くないわね。では交換しましょうか♪」


 柿の種をもらったお母さん蟹は、早速イイ感じの地面に種を植えました。続けて、少しでも早く美味しい柿が実るようにと秘技・成長促進の呪文を唱えます。


「はーやく芽を出せ柿の種♪ 出ないとハサミでちょっきんだ♪」


 すると……《ぴょこん!》と小さな芽が出ます。

 それを見たお母さん蟹の顔面が大変濃ゆくて圧の強いものに変わります。


「足りぬ! 足りぬぞ!! うぬはその程度で満足する器か!? 違うというのであれば、我の前にてその真価を見せるがよい!! 無理ならばこのグレートチョッキンバサミでバラバラに――もといこの場で朽ちよ!!!」


 パースが狂ってると誤認されそうな程、巨大化(して見える)お母さん蟹のハサミが振り上げられます。

 するとどうでしょう。柿の芽がブルブル震えたと思った瞬間、超スピードで成長促進! あっという間に大きく立派な柿の木が爆誕したではありませんか!!


「わー、お母さんすごーい♪」


 これには子供蟹たちも大喜び。

 明らかにお母さんのビジュアルがおかしくなっていますが全く気にしてません。子供たちにとっては日常的な光景だからです。


「ふふっ、お母さん頑張っちゃった♡」


 さっきまでのイカス低音ボイスはどこへやら。お母さん蟹が年齢の割には大変キツ――こほん。可愛くて茶目っ気たっぷりに笑顔を振りまきます。



 その様子を近くの茂みから眺めていたいじわるなお猿さんは「あばばばば」と震えっぱなし。カチカチ鳴る歯の音が止まりません。


「あ、あんなのから柿の木を奪って独り占めにするとか無理だろ!? 柿をぶつけたところで効かないだろうし、数秒後には俺の首が柿の代わりにもがれるわ!」


 一目散に逃げ出そうとするお猿さん。

 しかし、そのままでは話が続かないので《メタ的な不思議な力》によって、ずりずりと柿の木がある方へと押し出されてしまいます。


「い、いやだーーーーーーー! あんなのとさるかに合戦なんて無理だってーーー!!?」


 蟹の超パワーを目の当たりにしたお猿さんの悲鳴は、どこまでも響き渡ったとさ。




 めでたしめでたし


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