第16話 最後の戦い(前編)
宿屋にまで攻め込んできた敵はオルセインという名の女性。
魔剣騎士である。
「グリム……頼む……【絶望】……【絶望】だ!!」
『ああぁっー!!? 主!? 絶望!! 絶望するうぅっー!!』
「なに……? なにをしているの……?」
俺に【破滅】スキルを放たとうとしていたオルセインが立ち止まる。
俺は目を閉じた。
そして、イメージする。
絶望を……!!
『主、来ます来ます。これはヤバいのが来ますよ!』
「ああ、来てくれ……! 俺の……【絶望】スキルッ!!」
俺が叫ぶと、グリムから黒い光が放たれた。
そして目の前の空間が裂けていく。
「な、何よ、コレは……!?」
驚くオルセイン。
「こ、これは……」
俺も驚いている。
突如として開いた時空の穴から何かが飛び出してきたからだ。
それは……巨大なドラゴンだった!!
「グリム……すごいのを呼び出してしまった……」
『はい、主』
俺は呆然としていた。
その大きさに耐えられず、宿屋が崩壊していく。
バリバリッとかメキィッという音を立てている。
黒い竜は、視界に入った魔剣騎士を食べようとしている。
「なによ……なによ……これ……」
逃げるオルセイン。
宿屋はさらに崩れ、王都の夜空に飛び立つドラゴン。
その巨大で真っ黒なドラコンは、羽ばたきながら王都を旋回している。
すぐに王都の民が気づく。
「ド、ドラゴンだ!」
「聖騎士様を呼べー!! ブレスが来るぞ!!」
「なぜこんなところに!」
聖騎士が応戦するようだ。
「こ、このスキルは大丈夫かな……? ドラゴンって、危険過ぎるだろ……」
俺が思い浮かべてしまったのだが。
『だから嫌だったんですよ……。もう少し主と平和に旅をしたかったのですが……』
「え? もう少し? いずれはこうなるってこと?」
『まぁ、魔剣騎士ですから……」
「そ、そうか……。って、え? どういうこと? なんなんだよ、魔剣騎士って……!?」
『主! 危ないです!!』
「へっ!?」
突然、背後に回ったオルセインが俺に斬りかかってきた!
逃げたと思わせて攻撃とは……!!
「その魔剣……強いわね。まさか【絶望】まで使えるとは。あれじゃあ聖騎士たちも簡単には退治できないでしょ。……これで王都を追い込めるかも。あなたの手柄ね。……せめて私は、その魔剣をいただくことにするわ」
「え!? 俺の……手柄!? こんな破壊行為がなんで手柄になるんだよ!? どういうことなんだ!? しかもこんな状況になっているのに、まだグリムのことを狙うなんて……!! 一体どうして魔剣を狙うんだよ!?」
「ふっ……そんなことも分からないのね? やはり所詮はでくの坊ということね! 哀れだわ……」
「うぐっ……!」
悔しいけど言い返せない。
って、そんなことはない。
そんなに俺は身長が高くないぞ。
「でくの坊ではないけどさ。哀れに思うのであれば説明してくれよ」
「そこまで言うなら仕方がないわね。……いい? 私たち魔剣騎士は魔王の奴隷なのよ!」
はぁっ!?
俺たちが……奴隷?
なんか真実っぽいことを話しているぞ!?
彼女の目は真剣だ。
「ま、まさか……グリム? どういうことだ!?」
『主! 聞いてはいけません! 早くドラゴンを元の世界に戻しましょう! そしてドサクサに紛れてこの人から逃げましょう! 聖騎士達にこの人を押し付けて!』
「私たち魔剣騎士は魔王の言いなりよ! 魔王の命令どおりに、この世界を滅ぼすの! そして私は元の世界に帰るのよ……!!」
……ん? 俺の目的は異なるぞ。
俺は異世界転移して魔王に魔剣をもらってハッピーライフを過ごす目的なのだが……。
魔王の奴隷という認識もないしね。
「バレてしまったようだな……」
「魔王!? なぜあなたがここに……!!」
魔王!? 魔王だって!?
オルセインが動揺している。
『ま、魔王さま……』
グリムまで!
た、確かに新たに現れたこの女性は魔王かもしれない……!!
偏頭痛のときに思い浮かぶ魔王の姿だ……!
うん、間違いない……崩れゆく宿屋に魔王が現れたぞ!
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