蛇口をまわして

USHIかく

蛇口をまわして

 蛇口をまわして


 蛇足だ。

 私は蛇足だ。

 命が蛇足だ。


 産まれ落ちた時が既に私の人生のピークだったかの様に思う。


 雨が降る。

 響かなくなったリラックス音楽が、どこからもなく流れては窓の向こうに逃げてゆく。

 愛が逃げてゆく。

 命が逃げてゆく。


 物事というのは、キリの良いところで終わらせるべきだろう。

 このアーティストももう蛇足だ。

 人生に明くる翌る訪れる要素が蛇足だ。


 真夜中、街灯を通り過ぎてゆく。

 空っぽの瓶を投げ捨てた。

 小雨がぽとぽとと降りかかり、コロコロと飛んでいった蓋を乗っ取ったかの様に、落ちた水滴が直下の水溜まりに音を立てる。

 雨が止めば、酔いも醒めるだろう。


 寝静まった夜。どこからか赤子の鳴き声が響き、またどこからか配達バイクのエンジン音が空に届く。

 苦しいのは私だけだというのに。

 命は蛇足だ。


 真夜中、ゴミ箱を通り過ぎてゆく。

 空っぽの瓶を投げ捨てた。

 涙がぽとぽとと降りかかり、コロコロと飛んでいった蓋を乗っ取ったかの様に、落ちた血滴が直下の残滓に音を立てる。

 陽が昇れば、狂いも醒めるだろう。


 蛇口の水は赤い。

 堕ちゆく意識が自宅の空いたドアから雨が入り込む錯覚を送り込む。

 壊れていく世界。

 涙も雨も、頬を濡らした。

 濡れる、塗られる意識。


 まわせ。

 閉じてもいい。

 開けてもいい。

 世界線は捩れ続ける。

 あるがままに任せてしまおう。


 春前の雨。

 どこか寂しい気分が太陽が昇る前、降りゆく土砂と共に流れる。

 残り続ける私が、明けない朝と、止まない小雨の様に心象の迷路に彷徨い続ける。


 蛇足だ。

 夢も蛇足で、恋も蛇足だ。


 私に本篇をつけてほしかった。

 貴方になら出来ただろう。


 そう、空虚の真っ暗に塗りたくった空に呟く。

 また、未完成の私の様に、求めて達しない稚拙な情緒を振り翳し、練度の低さが曇った空模様を移している気がした。



 音楽が床に放ったイヤホンから微かに出続ける。

 蛇口の水は赤い。

 血が滴る。

 心の蛇口が止まらない。

 水を飲みたい。

 私を止めて欲しい。

 音楽が聴きたい。


 窓から雨が降る。

 入ってくる。

 直せたはずだ。直せただろうか。

 私自身を変えられたはずだ。

 流れ出るダイバージェンス。

 運命戦もまた発散し、終焉に収束していく。


 血がポタリと滴る。

 静かな都市に私がいる。

 苦痛は私だけだろうか。

 悲鳴を上げたい。

 青春を運んだ音楽にヘイトなど向けるなんて。情け無い。

 落ち着かないのは私なのだ。

 苦しいだけなのは、私だけではないのだ。

 なにも、もうわからない。

 弾け飛ぶ、ギターの音色のようだった。


 精神と共に肉体も崩壊していく。

 救ってくれ。

 嘆きも、小雨の音に消される。


 頭が真っ白になり、意識が途切れていく。

 雨が一滴降った。

 蛇口から血が滴る。


 まわして。

 もっと命をまわして。


 陽はまだ昇らない。

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