酒癖百態

All Kinds of Drinking Habits

　カウンターの端っこに座ってるあの子、可愛いなぁ。

　ワンピース、似合ってるわぁ、きっと何を着ても似合うわぁ。

　一人で来てるみたいだなぁ、俺のタイプだわぁ。

　あ、同期の山田がネクタイを解き始めた。

　こいつ、酔っぱらうと直ぐ脱ぎたがるんだよなぁ、男の裸なんか見たくねぇってのっ。

　営業の木村の目が座って来たぞ。

　あいつは酔うと矢鱈と説教を垂れるんだ、上司であろうとお構いなしだもんなぁ。

　厄介な酒癖ってあるよなぁ。

　笑い上戸とか泣き上戸なんかは序の口で、自慢話を繰り返す奴、人生哲学とやらを延々と宣う奴、喧嘩っ早くなる奴なんて最悪だわ。

　でも、キス魔は大歓迎。勿論、カウンターに座ってるあの子みたいな人限定だけど。あのコはどんな酒癖があるのかなぁ、お持ち帰られ癖があったりしてっ。

　それにしても、さっきから顔色一つ変わんないなぁ。結構お代わりしてるみたいだけど、ウワバミって奴かなぁ。飲んでもまるで変わらないってのも、それはそれでつまんないねぇなぁ。

　あっ、課長。はい、楽しんでます、楽しませて頂いております。あ、お注ぎします。結構、飲まれてますね。はい……そうですね……お気持ちお察しします……えぇ……仰る通りで……ウチも同じです……カミさんという奴は……亭主族は皆苦労しますですっ……あぁ、お嬢さんはもう中学生ですか、早いもんですねぇ……それは反抗期って奴ですねぇ……もう彼氏ですか……なるほどぉ、気苦労が多いですねぇ…………。

　は～、課長は言わば愚痴上戸だな。酒が入ると途端に弱気になって、どんだけ自分が辛いかと力説し始める。

　ウチの課はどいつもこいつも病院で診て貰った方が良いレベルだな。ほんとに困ったもんだ。

　あれっ、女の子が居ない……と思ったら、まだ居るか。いつの間にか俺も酔いが回ったみたいだな。透けて見えるし……どうせなら服だけ透ければ良いのになぁ。

　あぁ……完全に消えちゃった。

　幾ら可愛くても死人じゃなぁ、俺の幽霊が見えちゃう酒癖もどうにかならんかなぁ。