灰色の春
@yamaaayama
第1話(田中一)
ヒーターの前でモルモットを温めたのはいつだっただろうか。
僕は×大学に通う2年生の田中一、趣味も特にない、しょうもない男だ。
人生で初めて彼女ができたのが大学一年目のこと。まさか自分がここまで人を好きになるのか、と思うこともあるが、きっと皆んな思っていることなのだろうとも思う。
そんな彼女の実家は、大学から900kmも離れていて、時たま離れ離れになることがある。そんな時、僕には周りの女性が輝いて見えてしまう。
その輝きが本物だったかわからないが、僕は同じサークルの後輩で、彼女の穴を埋めようとした。
「しっかり自炊してた?」
彼女の声は、久々の再会の嬉しさで明るい。
「ぼちぼちね」
後輩と出前を取り続けていたことを彼女が知る由もなく、僕は嘘をつく。
「今度どこ旅行行く?」
旅行好きの彼女から、プレッシャーを早々にかけられた。
「どうしようか」
と、言いながらも、居心地の悪さは隠せない。終わりだと、僕は気づいていた。
やはり、僕らの恋は長くは持たなかった。きっかけは、旅行中のいざこざだった。
彼女は、最後まで僕を好きだったのだろう。別れの際、泣いた彼女を横目にかける言葉があったのだろうか。寒い冬の日、ヒーターを前に慣れない部屋で、僕は体を丸めて何度も考えてしまう。
彼女は、別れて四度目の春に結婚することになった。
とてもおめでたいし、嬉しいことだ。
いや違う。本心は違うはずだ。
僕はずっと自分に嘘をついて生きてきた。こんな時も癖は治らないのか。驚きと呆れが同時にくる。
きっと僕は、モルモットを殺したあの日から何も変わっていないのだろう。母親が、私の部屋の移動をさせたことを言い訳に、自分は殺していない、自分のせいじゃないと言い聞かせたあの日。モルモットだった小さな躰をヒーターで温めようとした朝。あの時、私の心の時間は止まってしまったのだ。
涙がなぜか出てきた。僕は自分の未練も、殺してしまっていたと気づく。
昔掘った墓の隣に、僕は穴を掘り、そして埋めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます