霊士(Aura X Travelers)

@mukuo

第1話

パタ村は、漁業で生計を立てる小さな村だ。


「今日は海へ出るのにふさわしい」


ある老人が海岸に立ち、穏やかな青い海を眺めながら言った。


突然、見渡す限りの海面に小さな点が一つ浮かび、老人は注意深く眺めた。

視線の先の小さな点はだんだんと大きくはっきりしたものになった。老人のぼんやり霞んだ目では、三十センチほどの距離になってやっとそれをはっきり見てとることができた。


「水…、水をくれ!」


痩せこけた少年が力なくうつ伏せてそう頼んだが、言い終わったところで気絶した……。


∗∗∗∗∗∗


スープの香りが部屋に漂っている。


ベッドに横になっていた少年は目を開け、香りを辿ってやって来て、テーブルの上のおいしそうな肉入りスープを見ると迷わず手に取った。


(ごくごく)


一瞬にして皿が空になった。


唇を舐め、先ほどの後味を味わった少年はやっと目に前のおじいさんに気が付いた。


あたりを見回すと見知らぬ場所にいたので、少年は驚いた。


少年の反応を見た老人は真っ先に口を切った。「起きよった!意識を失っていたから、わしのような古い者は本当に驚いたんじゃ」


少年はそれを聞き、故郷を離れいかだに乗って海へ出たことを思い出した。海で方向を見失い、水も食べ物もなく漂流するしかなかったが、今はこのおじいさんに助けられて上陸したようだ。


そう考えたところで少年は礼を言った。「おじいさん、本当にありがとうございます。あなたがいなかったら僕は海で死んでいたかもしれません。ホヤと申しますが、ここはどこですか?」


ホヤの問いを聞き、老人はドアを押し開けて外へ出ていった。


ホヤも出てきて、果てしない海を見た。その反対側の景色は長く続く山々だった。彼はこの時、自分が住んでいた島を離れて、新しい大陸に来たことを知った。


「ここはパタ村。小さな漁村じゃ」老人は海を見ながらそう答えた。


ホヤがあたりを見まわすと周りにはいくつか家があったが、窓にはほこりがたまり、長い間人が住んでいないようで、街に人影は一つもなかった。


そこで、彼は不思議に思い訊ねた。

「おじいさん、どうしてこの村はこんなにひっそりしているの?」


老人はため息をついて言った。「もともとここは確かに村じゃったが、数ヶ月前に山に山賊が来て村から財産を奪い、なんとか生活していた村人たちを困難に陥れたんじゃ。最後には村人たちは皆去って、わしだけが残った」そう言いながら首を横に振った様子は、このことをとても悲しく、不満に思っているようだった。


しかし、彼は振り返ってホヤに言った。「久しぶりにまた人に会えてわしは嬉しいんじゃ。少ししたらお前はここを離れなさい。さもないと、山賊がまた来てお前も危害を受けるからの」


ホヤはおじいさんを見て訊ねた。「それじゃああなたは?みんなについて行かないいんですか?」


老人は首を振って言った。「わしは半生をここで過ごしてきて、離れ難いんじゃ。皆をわしのような年寄りのために困らせるわけにもいかない。お前は行きなさい」


「山賊のこと、僕が解決するよ!」


老人の寂しそうな表情を見て、同情か命を救われた恩からか、ホヤは心の中で決心を下したのだった。


それを聞いた老人は慌てて言った。「山賊はたくさんいる、お前一人で行くのは危険じゃ!」


「安心してください!僕は強いんですよ!」


それでもホヤは少しも恐れず、左手の親指を上げ、自信に満ちた様子で言った。


そして一人で山の中へ向かって行ったのだった……。


∗∗∗∗∗∗



山賊を討伐すると言ったとはいえ、情報を全く聞かなかったホヤには何のあてもなく、森の中をさまようしかなかった。


どうしたらいいのかと考えていると、近くから気配を感じ、黒い服を着たポニーテールの男を見つけた。腰には桜の模様の鈴をつけており、何かを探しているようだった。


山賊だ!


ホヤからすればこの場所に現れたということはその可能性しかなく、男の冷酷な表情からも彼は善人には見えなかった。ホヤはこう考えてそっと近づくことにしたが、それは意外なほど難しいことだった。


「死ね、山賊め!」


ホヤは軽く飛び跳ね、どこから出てきたのか手には棒を持ち、黒い服の男に向かって突撃した。


男の反応がそこまで素早いと誰が思っただろうか?彼は一瞬で腰の太刀を抜き攻撃した。


「お前は誰だ?」


二人は距離を開けた。黒い服の男は突然の攻撃に、ホヤを見て眉をひそめて訊かずにはいられなかった。


奇襲は成功しなかったが、ホヤは未だ気力を失わず、男に向かって棒を向けて言った。「憎い山賊め!あんなに優しいおじいさんをいじめたお前たちに、僕は復讐するんだ!」


ホヤの発言を聞いて男は頭を悩ませた。なるほど、こいつは俺を山賊だと思ったのか。そして説明した。「私は山賊ではない」


「ああ!そうなのですか?それじゃあ僕の間違いです、ごめんなさい」自分の誤解を知ってホヤはすぐに謝り、こう言った。「ホヤと申します。おじいさんの復讐のために山賊を探しています」


「分かればいいんだ」


人を勝手に山賊と思いこみ、今は容易く自分を善人だと信じたホヤに男も言葉を失くし、この少年を変人と捉え、すぐに離れていくだろうとしか思わなかった。


しかし黒い服の男はしばらく歩くと足を止め、後ろのホヤを振り返って言った。「私についてこないでくれないか?」


自分が相手にされていないということを聞いてもホヤはつらく思わず、逆に近づいて行き、笑って言った。「あなたは私がここに来てから会った二人目の人です。名前は?」


ホヤの問いを受けた男は答えたくなく、どうせついてくるのなら構うのも面倒だと思い、自分の道を歩き続けた。


「言いなよ、言いなよ〜?」


しかししばらくして、黒い服の男はホヤの煩さに耐えられず言った。「私は草津だ。ついてくるな」


しかしホヤは依然としてしつこく言い続けた。「草津って言うんですね!一緒に旅する仲間を探してるんだ。ここで会ったんだし、仲間になりませんか?」


そんな問いを草津はもう相手にしたくなく、早く自分の目標を達成し、このうざったい男を振り払いたいだけだった。


しかし、草津は彼の目標を叶えられず、朝から昼までホヤに邪魔された。


草津は座る場所を見つけ、昼食にしようと胸からパンを取り出したが、自分の手にしたパンをじっと見つめていた。


ホヤは思わず出てきた涎をぬぐって言った「食べなよ」


ホヤの渇望している様子と彼の腹のグーという音で、草津は忍びなくなってパンを半分に割り、ホヤに分けた。


これを見て、ホヤは草津の気が変わってパンを取り返されることを恐れて、パンを一口で飲み込んだ。そして唇を舐めて言った。「へへ、急いでいたから食べ物の準備を忘れていたよ。草津さんは本当にいい人ですね」


そして、自分の服から桃を取り出して言った。「これは僕が故郷から持ってきたものなんだ。こんなにおいしい桃は最初の仲間と分け合いたかったから、今まで食べられなかったんだよ」


そして桃を草津に渡した。「仲間になってあげる!」


ホヤの勝手な主張に草津はどうしようもなくなり、手にした桃を見て何か言おうとしたが、そう遠くない場所から聞こえてきたとどろきがそれを断ち切った。


大きな揺れが二人の注意を引いた。彼らが疑問の中にいた時、周囲の草むらが一斉に動いた。


(スースースースー)


その時、赤い鱗を持ったたくさんのニシキヘビが四方八方から出て来て、2人をぐるりと取り囲んだ。


これが、ホヤの冒険で初めての危機だった……。

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