第23話 恋と夢
落ちぶれて日々を過ごしている私にも季節の変化は訪れ、春から初夏のかけて山里は活気に満ちる。
なんとなくのこの先のビジョンとして、仙人のように生きるのが夢だったが。
具体的にどうなれば仙人のように生きられるのかは分からない、漠然とそんな事を思っている。
山里は沢山の花々がとても鮮やかで賑やかだ。そんな中に忙しく働いているのがミツバチだ。
彼らはたった一匹の女王蜂のために必死で働く。自分の彼女や家族などは必要ないのだ。
もちろん一つの巣が家族なのかもしれないが、不思議な集団だ。
この山里で見るのは日本蜜蜂だ、黒くて小さくて可愛い。
隣の町の養蜂家からたまに蜂蜜を買ってくるのだが、結構高価だ。
しかし、日本蜜蜂の蜂蜜ははるかに高価な値段らしい。
普通、養蜂家が飼っているのは輸入された蜂らしい、蜜を集めるのが有利なのだとか。
それに対して日本蜜蜂は蜜が少ない上に、気分が悪いとさっさと巣を捨てて出て行ってしまうらしい。この気まぐれでわがままな感じは、嫌いではない。
私は恋愛に不器用だった、気になるとその子ばっかり見てしまう。
まっしぐらになってしまうので、相手に迷惑になってしまう事が多い。
そんなわけで今回、日本蜜蜂に恋してしまいそうなのだ。
危険だ、まだ外で働かないといけない、しかし日本蜜蜂の養蜂をやりたくなってしまいそうだ。
日本蜜蜂は巣に入ってもらえればあとは何もしないのだそうだ。
その代わり、もらえる蜜は少ない。
味はとてもフルーティらしいのだ。
そして、彼らはスズメ蜂にも負けないらしい。
輸入された蜂は天敵がいなかったので、対処できず、たった一匹のスズメバチで一つの巣全部がやられてしまう事もあるらしい。
しかし日本蜜蜂はスズメ蜂が来ると一斉にくっつき押しくらまんじゅうを始めるらしい。
囲まれたスズメ蜂は蜜蜂より熱さに弱い、だから早く限界に達して死んでしまう。
感動的だ、私はますます好きになってしまった。
これから先は少しづつこの山の自然を知り、いつかは日本蜜蜂と対話できるようになりたい、そう思った。
昔、息子が訪ねてきて「おやじ、俺はワルを学ぶ」そう言った。
返事に困った私は、「どうやって学ぶの」そう聞いたら、まずは恰好から入るので、革ジャンを買う、そうおっしゃった。
私はどう言って良いかわからず、「頑張って、」と言ってしまった。
今、私は仙人になりたい、そう言ってまずは日本蜜蜂を飼いたいと言っている。
息子とあまり変わりはないような気がした。
夢と言うのは何と漠然としている物なんだろう。
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