第三話『仄音更生計画Ⅱ』

 仄音は睡魔に打ち勝ち、なんとか昼夜逆転を改善した。健康的な生活への第一歩を踏み出し、清々しい気持ちで日中からギターを弾いていた。リズム良くピックを振るってコードを弾いたり、時には指で弦を弾いてソロギター奏でたりと好調だ。

 隣人は留守なのかいつもの壁ドンがない。ロトに聴かれる事にも恥ずかしがらず、仄音はギターの世界へ導かれるようにのめり込んでいく。


「ちょっといいかしら……」


 そんな時、先程から紙に何かを書き込んでいたロトは仄音に話しかけた。

 丁度曲のサビの部分を弾いていた仄音は弾きたいという気持ちを抑え、ギターをスタンドに掛ける。


「これを読んで頂戴」


 びっしりと文字が書かれた紙を差し出され、受け取った仄音はさっと目を通す。気分的にはチラシに目を通す感じだったが、内容は想像を絶するものだった。


「えーっと、なになに……仄音更生計画ねぇ……ナニコレ?」


「その名の通り仄音を更生するための計画を纏めたのよ。ほら、貴女って引きこもりのニート、つまりヒキニートじゃない」


「ひ、ヒキニートの何が悪いの? わ、私はこの生活を満足しているよ」


 いつものように虚勢を張った仄音に、ロトは呆れて溜息を吐いた。


「働きアリの法則って知っているかしら? 二割は良く働き、六割は普通に働く、二割は怠けるっていう法則なのだけど、仄音は二割の怠けるに該当、その中でも最低クラスよ。もう暗黒大魔界ランキング最下位よ」


「うぐ……」


 ぐうの音も出ない仄音は心に槍が刺さったような痛みを負った。


「暗黒大魔界ランキングってなに……? いや、それにしてもこれはないよ……」


 聞きなれない単語が気になったが、仄音は話を戻し、再び丁寧に纏められた紙に目を通す。そして、ああでもないこうでもないと小首を傾げながら反芻して、なお不服そうにロトを睨んだ。

 紙の内容を理解出来ていないからではない。そもそも更生というのは元々聞いていたので吃驚でもなく、今になって反骨精神を抱いた訳でもない。

 それでは、どうして仄音は動揺しているのか?

 答えは計画の内容に原因があり、そこに記されている事は仄音にとってあまりに残酷だった。


「今、仄音は昼夜逆転を正そうとしていて――いやもう治っているといってもいいわね。ステップⅠはクリアよ」


「それじゃあ次はこのステップⅡの食生活の改善と生活必需品の買い出し、それと部屋の掃除?」


「ええ、そうよ。インスタント食品ばかりの生活を止めて、きちんと朝昼晩栄養満点の物を食べましょう。生活必需品はまあ服とか色々ね。制服とパジャマだけでは普通の生活は出来ないわ。後は掃除だけど部屋の隅に積まれたゴミは私が処分したから、単純に整理ね」


「なるほど……で? このステップⅢは何?」


 紙にはフォントと言われても疑わないような綺麗な文字が羅列しており、そこのステップⅢを指して仄音は食い気味にロトに聞いた。


「何って就職よ。いつまでも親の仕送りで生活するなんて情けないでしょ?」


「なんで!? そんなの聞いてないよ!?」


 仄音は声を荒げて、炬燵を両手で叩いた。

 バンッ! という大きな音が響き、注がれたお茶は短い波を打つ。


「更生なんだから働くのは当たり前でしょう? 社会経験になるし、親の負担も減らせるわ」


「そ、そうかもしれないけど……」


 ニートである仄音は楽だ。劣等感という感情はあるが、社会的責任を伴わないため、ある意味精神衛生は良かった。言わば、今までぬるま湯に浸かっていたのだ。それ故に働くとなると途轍もない不安感に駆られた。脳裏には妄想という名の社会の闇が蔓延り、就職=死の方程式が出来上がっている。


「何も正社員になれとは言わないわ。最初だから週一のバイトでもいいのよ」


「うん……」


「よく考えてみて……いつまでも親の仕送りで生活して、特に何もせずにずっと親の脛を齧ろうと思っている人間と、仕送りを受けつつもいつか自立しようと夢を頑張っている人間。どちらが格好良いかしら? 当然、後者よね」


 ロトは何も親の仕送りを受ける事自体が悪いとは思っていない。改善させようとしているのは仄音の姿勢であり、後者であって欲しいと思っていた。


「うん、分かったよ。覚悟しておくよ……」


 怖くて今にも身体が震えだしそうだが、それ以上にロトの言う通りだと思った仄音は腹を括った。


「それで次のステップⅣは? 何も書いてないけど?」


「そこでは仄音に夢を追ってもらおうと考えているけど、具体的な方法を確立していないから何も書いてないわ」


「最後のステップⅤは……」


「私に殺されてあの世行きね……」


 ご愁傷様と言った風に手を合わせて拝んでくるロトに、仄音は苦笑いを浮かべる。激しい喜怒哀楽は感じられず、ただ引いているような感じだ。

 てっきり罵倒でもされると思っていたロトは目を細めた。


「一年で死ぬというのに仄音は冷静ね。ショックじゃないのかしら?」


「勿論ショックだよ? ただ、もし明日死んでしまうとか、世界が滅ぶって言われても、実感が湧かないし、それならそれでもいいかって思ってしまうかな……」


「そう……」


 一年で死んでもいい。そう思っているという事は現実を楽しんでいない表れであり、ロトは少しだけ悲しくなる。


「で、今日からステップⅡをしていくの?」


「そうね。当分の間はステップⅡで身体を馴らして、落ち着いてきたらⅢに移行かしら……」


「ステップⅡかぁ……と、取り敢えず掃除でもしようかな……」


 引きずった笑みを浮かべた仄音は掃除をしようと動き出す。

 ステップⅡの項目を実施していくと決定したのはいい。しかし、服を買おうにも、食生活を改善しようにも、店へ出向くのが基本だ。つまりは外に出ないといけない。

 正直、買い物はネットで済ましたかったがそれでは駄目だ。ロトも許してくれない。だから嫌な事は後回しにして、消去法で掃除になった。


「先ずはゲーム関連……いや、その前に押入れ? いや、そこまではしなくてもいいよね……」


 掃除なんて仄音にとっては古の文化であり、思い出しながら手を動かしていく。

 散らかっていた物を元の場所へ戻し、炬燵用の掛け布団、寝床の布団と枕を日干しして、はたきを使って上にある埃を下に落とす。そして、落ちた埃を吸うため部屋全体に掃除機を掛けた。

 埃が所々に積もっており、よく分からない小さくて黒い虫が湧いていて、想像以上の汚さに仄音は慄然としていた。


「こんなところに住んでいたと思うとなんかやだなぁ……」


「なら定期的に掃除をするようにしましょう」


「うん、そうするよ」


 ショックだった仄音は素直に頷いた。

 そして、後悔を拭うように更に掃除に没頭する。トイレ掃除に、お風呂の浴槽を掃除。その後は拭き掃除へ移行し、部屋の至るところを磨いていく。炬燵、机、床、キッチンのコンロ周り。一生懸命、雑巾でゴシゴシと力強く擦る。

 人が変わったかのように働く仄音を、背後から見ていたロトは驚嘆して、目をパチパチとさせていた。


「て、手慣れているわね。本当にヒキニートの仄音?」


「一応、学生時代は一人でこなしていたからね。大体の事はできるよ」


「意外ね……でも頼もしいわ。私も何か手伝いましょうか?」


「え? うーん……」


 手伝うと言われ、仄音は何を任せようかと手を動かしながら考える。

 現在、仄音はキッチンの頑固な汚れと格闘しており、これが終われば拭き掃除は大体終わったも同然だ。そうなると残っているのは――


「後は整理整頓と洗濯だけかなぁ……」


「じゃあ洗濯をするわ。整理整頓は私では無理でしょうし……」


「そうだね。なら洗濯は任せるよ」


 仕事が減ったことに仄音は笑みを浮かべ、洗濯機へと向かったロトを見送った。

 しかし、それはナンセンスだっただろう。手間が省けると、目先のことしか考えていない仄音は全く気づいていなかった。





 何事も無くキッチンを磨き終え、後は整理整頓だ。

仄音は保管していた調味料や冷蔵庫の中、棚に並べていた食器類を整理する。


「うーん……カップ麵ばかり食べていたから冷蔵庫は飲料水以外空っぽ。置いてあった調味料の殆どが賞味期限切れ。しかもほぼ使っていないし、勿体ないなぁ……」


 取り敢えず、賞味期限切れの物は段ボールに詰め、端に追いやっておく。後でロトに相談するつもりだった。


「それにしても食器が少ない。いや、それだけじゃないよ。歯磨き粉、シャンプー、洗剤、ああ挙げればキリがない……ロトちゃんが住むなら色々と買い足さないといけないし……」


 仄音はロトが言っていた生活必需品の買い足しの重要さを認識した。今、家の中には一人暮らしが出来る最低限の物しかなく、そこに二人で住もうとしているのだ。

 ロトは「天使は風邪を患わない」と言って炬燵で寝ているし、今着ている服以外を持っていない。バスタオルだけでなく、歯ブラシだって一本しかない。

 許容範囲を超えており、劣悪な環境だろう。


「……兎に角、今は整理整頓に集中しよう」


 あと少し、と意気込みを入れて仄音はリビングへと戻った。

 刹那、視界の隅に黒光りした生物を見てしまった。見つけてしまったのは幸いなのか、災いなのか。唐突の出会いに思考停止している仄音だが、生物の正体だけは理解した。


「う、うにゃああああああああああああああッ!」


「ど、どうしたの!? 中学生の時に書いていた黒歴史っぽい中二病ノートでも出てきたの!?」


 猫の鳴き声、否、女性の叫び声だ。

 何事かと駆けつけたロトが見たのは、部屋の隅で真っ青になって身体を震わしている仄音の姿だった。


「そ、そこに……地獄からの使者がが……」


「なに? 特殊な蜘蛛でも現れたの?」


 取り乱している仄音が指した場所は壁。いつもなら何の汚れも無い、新品同然な真っ白の壁な筈なのに、一点だけ黒い染み。まるで穴が空いているように見えるが、凝視すると幾つもの紐が生えている。


「ってなによ、ただのゴ……」


 壁にある点の正体はGゴキブリだ。生えている紐のようなものは所謂触角と足であり、それらは彼らが生きていく上の能力。しかし、人間にとっては不快を与える物にならない。

 そんなGが出た、という事実にロトは固まった。まるでパソコンがエラーを起こしたかのようにビクともせず、俯いている上、仮面を付けているので表情が分からない。


「ろ、ロトちゃん? ど、どうしたの?」


 しかし、表情が分からなくとも、様子から異常だと察せられる。

 無理もないだろう。

 Gとは世間一般では、すばしっこくて、しぶとくて、汚くて、気持ちの悪い害虫だ。水一滴あれば三日は暮らせ、脅威の繫殖力を持ち、虫というカテゴリの中では高度な知能を持つ彼らを見つけた時のインパクトは計り知れない。漆黒の身体は大きくて十センチを超え、そんなのが自分の部屋に潜んでいたと思うと恐怖で頭がおかしくなり、極めつけに一匹見たら数十匹はいるとも言う罠。

 Gという人類の敵と言っても過言ではない超生物と対峙している恐怖、それでいてロトの様子を懸念する気持ち。その二つに支配された仄音はその場でオロオロとするしかない。


「こ……こ……」


「へ? な、何?」


「殺す……一匹残らず……ぶっ殺す!」


「えぇ!? ちょ、その気持ちには賛成だけど! だ、駄目だよ!」


 豹変した鬼のようなロトは肩や首を回して柔軟し、両足を大きく開いた。召喚したムラマサを右手に握り締め、その刃先をGへ向ける。宣戦布告という奴だ。


「ギルティよ!」


「ギルティ!? 中二病っぽくてダサいよ!? って、ダメだって!」


 有罪という意味の英語を言い、コスプレのような格好で、ムラマサぶれーどという刃物を向けている。傍から見たら中二病だろう。刃は輝きを放ち、Gに怒りの鉄槌を下そうとしている。

 明らかに過剰過ぎる力で、周りの被害が心配な仄音は咄嗟に止めに入った。


「落ち着いて! ロトちゃん! 殺虫剤ならあるから! ね!?」


「待てないわッ! 本能が殺せと訴えかけているのッ!」


「ちょっ! やめてバカ!」


 仄音の手を振り解き、ロトは綺麗な太刀筋でムラマサぶれーどを振り下ろした。が、その騒ぎで警戒していたGはカサカサと何処かへ逃げていく。

 結果、轟音と共にアパートが揺れ、頑張れば大人一人が通れそうな穴が壁に空いてしまった。


「あばばばばばば! ろ、ロトちゃんやりすぎだよ!」


「大丈夫よ。奴を倒したら私が修復魔法で直す。貴女にとっても都合が良いでしょう?」


 そう言ってロトはもう一度ムラマサぶれーどを振り下ろ――す前にGは壁に空いた穴へと逃げてしまった。


「勝ったわ……やっぱり天使は最強ね」


 ロトは勝利の余韻に浸り、自慢げにウインクして身も蓋もない事を言った。


「負けだよ! 壁にこんな大穴を空けてる時点で大負けだよ! お隣さんにどう説明したらいいの!?」


「落ち着きなさい」


「落ち着けないよ! Gを追い出してくれたのは有難いけ――んむむ!」


「いいから黙ってみていなさい」


 ロトは右手で仄音の煩い口を防ぐと、左手を壁の穴へと翳した。

 すると、まるでビデオの巻き戻しのように砕け散っていた残骸が独りでに壁へと戻り、最初から穴なんて無かったかのように直ってしまった。

 目の前で破壊された筈の壁が元に戻る工程を目にしたのだ。仄音は目を丸くさせ、これが俗に言う魔法なのかと実感して息を呑んだ。


「えぇ……壁が戻ったのは修復魔法だっけ? 凄いと思うけど……」


「そうでしょう? 天使は凄いのよ」


「でもGが……」


 仄音の視線の先は修復された壁であり、お隣さんを不憫に思ってしまう。今は留守のようだが、仮にそうじゃなかったら……元々、仄音の家にいたGを退治する筈だったのに、何故かその役目を隣人に押し付けてしまう結果になった。

 申し訳ない気持ちでいっぱいになった仄音は心の中でお隣さんに謝っておく。ついで、日頃の騒音についても謝った。心の中で、だ。


「大丈夫よ。隣人は引っ越したわ」


「……へ?」


 ギターを弾いても隣人からの壁ドンが無くなったとは思っていたが、それは引っ越したからだったのか? それにしてもどうして突然……


「はっ……」


 何かに感づいた仄音は恐る恐るロトを見る。

 彼女は嘲笑っていた。その姿は天使というよりは悪魔のようだった。





 さて、死闘を繰り広げて何とか問題を解決した二人は再び作業に戻った。

 仄音は部屋の整理整頓に手をつけ、勉強机の引き出しの中や棚を探っては何があるのかを把握。ついでにいらない物があれば除けるという反復横跳びのような行為を何度も繰り返していく。


「こんなものかな。大掃除でもないし……うん、これでいい筈……」


 勝手に折り合いをつけて終わろうと思った矢先、仄音はギターに目がいった。

 普段使っている場所だから、要らない物はないだろう。そう分かってはいるが、もしかしたらとんでもない伏兵が潜んでいるかもしれない。念のため、いや、ほぼ気まぐれでギター類に触れた。


「えーっと……アンプにギター、カポタストとピックは……元の場所に仕舞っておこう」


 頻繁に使う用品は出しっぱなしになりがちなので今日くらいはと小物入れに片づけ、次に立て掛けられていたハードケースに手を付ける。


「弾かない時くらいケースに入れていた方が良いよね? 出しっぱなしだとギターに悪いらしいし……あれ?」


 頑丈なケースの蓋を開け、そこにギターを入れようとしたが仄音はある事に気がついた。

 ケースに備え付けられた小さな収納スペース。そこに紙切れのようなものがはみ出ているのだ。


(何かのチラシかな?)


 そういう先入観を抱き、仄音はゴミを撤去する感覚で紙を抓んで引っ張った。


「あ……これって……」


 出てきたのはゴミではなく、正しく思わぬ伏兵というもの。

 本当に思いもしなかったもので、言葉を失った仄音は出てきた写真に釘付けになってしまう。

 その写真は幼い頃の仄音と、親友だった人物が映ったツーショット。幼い仄音は屈託のない笑みを浮かべてギターを背負い、隣で立っている少女は楽しそうに仄音の腕に抱き着いている。背景は当時通っていた小学校の教室で、時刻は夕方なのか綺麗な夕焼けに染まっていた。

 傍から見るとアルバムとか入っていそうな、ただの思い出の写真だろう。しかし、態々ギターケースに入れていたという事はとても大事な物で、思い出深い物なのだ。

 だからこそ、今までこの写真の存在を忘れていた仄音は形容し難い感情に苛まれた。


「どうして忘れていたんだろう……」


 学生時代、肌身離さず持ち歩き、この写真があったから仄音は頑張ってきた。

 仄音の全てが詰まっていると言っても過言ではなく、それを忘れてしまっていた自分が憎く思え、同時に懐かしくも思え、寂しくも思え、それらが蟠りとなって心に圧し掛かる。


「こっちは終わったけど――仄音? どうしたの?」


 洗濯を終えて戻って来たロトは仄音の暗い表情を見て何事かと思い、また奴が現れたのかと心配する。

 しかし、ロトは辺りをきょろきょろと見回すがそれらしい物体どころか影もない。不意に仄音が持っている写真に視線がいった。

 人の写真を許可なく見るのは良くないだろう。プライバシーの侵害だが、気にするなというのも酷だ。考えに考え、天使と悪魔の囁きに惑わされたロトはじりじりと仄音に近づいて、何とか写真を覗こうとした。

 刹那、ロトの気配を感じ取って我に返った仄音は慌てて写真を隠すように戻した。


「何を隠したの? 写真だったわよね? 私は見ちゃいけないのかしら?」


「え? うーん……見られたら恥ずかしいから秘密だよ。それより終わった?」


「……ええ、洗濯なら終わったわ」


 白を切るだけでなく、話題を変える必死さ。余程隠したい事があるのだろうと感じたロトは腑に落ちない。


「手で丹念に洗っておいたわ」


「ありがとう……ん?」


 仄音の家には洗濯機がある。

それなのに手洗い? と疑問に思った仄音だったが、ベランダに干された洗濯物を見て驚愕した。


「いや、下着しかないのに洗濯機を使うのって、なんだが勿体ない気がして……」


「あ、あああああああ!」


 恥ずかしさのあまり顔に火がついた仄音。

 忘れてしまっていたが、ロトに洗濯を任せるという事は下着を見られるという事なのだ。それどころか洗濯機を使えばいいのに手洗いをされている。


「へ、変態! 変態天使!」


「何言っているの? 頼んできたのは仄音でしょう?」


「そ、そうだけど……ああどうして気がつかなかったんだろう……」


 揚げ足を取られ、仄音は後悔した。意を汲んでくれなかったロトを責めたい気持ちがあるが、淑女を忘れていた自分も悪いので叱る事が出来ない。


「今更じゃないかしら? これから一緒に住むならこれくらいの事で一々言っていられないわよ? それに私たちは女性同士じゃない。別に気にすることないわ」


「うぐっ……」


 確かにそうだろう。

 仄音の脳裏にはロトと同衾した記憶が蘇り、これからも下着を見られると思うと気が気でないが、後には引けない。この環境に適応していくしかないのだ。

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