第12話(2)魔法少女(少女とは言っていない)

「……」


「おい、どうした?」


 俺はティッペに尋ねる。


「何がだっぺ?」


「何がって……大丈夫とか思わないのかと思ってな」


「ああ、ヒメなら心配ないっぺ」


「し、心配ないのか?」


「ああいうタイプは、いざとなれば本性をムキ出しにして戦うだろうっぺから……」


「そ、そういうものか?」


「そういうものだっぺ」


 ティッペが頷く。


「まあ……なんとなく分かるような気がする……」


 俺は姫ちゃんを思い浮かべながら、ティッペに同意する。


「だっぺ?」


「ああ……うおっ⁉」


 馬車が何かに吸い込まれるようになり、車体を大きく傾ける。


「な、なんだっぺ⁉」


「こ、これは……はっ!」


 俺が視線を向けると、口を大きく開けた丸坊主の小太りな男性がいた。ティッペが叫ぶ。


「グ、『グラトニーのパウル』だっぺ!」


「ちぃっ! 問答無用で吸い込む気か!」


「えい!」


「うおっ⁉」


 パウルが突如爆発する。馬車を吸い込む風がピタッと止まる。俺は戸惑う。


「な、なんだ⁉ なにが起こった⁉」


「ダイナマイトを【描写】し、口の中に投げ込みました……」


「天! お前、大胆なことを……」


「……ここはそれがしに任せて、お先に行って下さい」


「え?」


「火薬の量が十分ではなかったようです。あの丸坊主さん、また立ち上がります」


「ぐう……」


 天の言葉通り、爆煙の中、動くパウルの姿がうっすらと見える。


「さあ、早く! 魔王、いや、神桃田さんのもとへ!」


 天が荷台から降りる。


「天、無理だけはするなよ……はっ!」


 俺は馬車を先へと進ませる。


「むう……はっ! あの英雄気取りは⁉」


 煙が晴れ、体勢を立て直したパウルが周囲を見回す。


「もういませんよ……」


「くっ、ひょっとしてメガネの姉ちゃんか? オイラに妙なもんを吸い込ませたのは……」


 パウルが天を指差す。


「……お気に召しませんでしたか?」


「なかなか刺激的な味ではあったんだな……」


「そ、そうですか」


「まあ、いい……あいつらの行く先は大体分かっているさ……」


 パウルが後ろに振り向いて歩き出す。天が声を上げる。


「ちょ、ちょっと待ちなさい!」


「待たない」


「そ、それがしがお相手します!」


「う~ん?」


 パウルが振り向いて天を舐め回すように見る。


「……!」


 向けられた視線のあまりの気持ち悪さに天は思わず身構える。


「地味なメガネっ娘……それはそれでそそられるけれども……」


 パウルは再び歩き出す。天が止める。


「な⁉ 無視するつもりですか⁉」


「後にするんだな」


「あ、後⁉」


「あの英雄気取りを散々に痛めつけて、人質にでもしちまえば、お前ら全員、オイラの言うことを聞くようになるだろ?」


「ぐっ……そうはさせません!」


「むっ⁉」


 パウルと天を取り囲むかのように四角い柵が出現する。天が声を上げる。


「リングを【描写】しました! それがしを倒さないと、外には出られませんよ!」


「……そういうスキルだっていうのは、なんとなく聞いていたけんども……ここまで大きなものを出現させるとは……」


 パウルが柵をポンポンと叩く。天が眼鏡をクイっと上げる。


「この三日間で、スキルを磨き上げましたから!」


「スゥ~……」


 パウルがリングを吸い込もうとする。しかし、リングはビクともしない。


「無駄ですよ! このリングで勝負です!」


「ふむ……仕方がないんだな……」


 パウルが向き直り、天に近づいてくる。


「……」


 天が再び身構える。


「爆破デスマッチなんだな……!」


「きゃっ⁉」


 パウルが口を開くと、天の周囲が爆発する。パウルが笑う。


「はははっ! オイラにダイナマイトを食わせたのはマズかったんだな! おかげでその力も吸収することが出来た!」


「くっ……」


「ふふん! “謝り方次第で”許してやってもいいんだな!」


「貴方なんかに許しを乞いません!」


「へへっ、見た目に反して、結構強気なんだな……それならば!」


「きゃあ⁉」


 天の足元が派手に爆発し、天が転ぶ。パウルが笑みを浮かべる。


「さ~て? 気が変わったかな?」


「馬鹿なことを……!」


 天がゆっくりと立ち上がると、紙にペンを走らせる。


「ん?」


「【描写】!」


 光に包まれたかと思うと、天はフリルの沢山ついた服装に変身する。


「そ、その姿は……⁉」


「魔法少女です!」


「なっ……⁉」


「無理もないでしょう。一見すると。魔法を使えるような恰好ではないですからね……」


「……少女?」


 パウルが不思議そうに首を捻る。天が憤慨する。


「ひ、引っかかるのそこですか⁉ ええい! もう許せません!」


「魔法なんぞ、オイラのスキルを持ってすれば……ごふっ⁉」


 天の飛び膝蹴りがパウルの顔に炸裂する。


「ぶ、ぶっつけ本番ですが、上手くいきました……!」


「ま、魔法は……⁉」


「そんなの使い方分かりませんよ」


「ア、アホな……」


 不意の一撃を食らったパウルが崩れ落ちる、


「もしかして雷や炎とかも描写出来るのかな? 今度試してみよう……」


 天がリングを消して、服装も元に戻して、ゆっくりと歩き出す。

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