第12話(1)最近の子
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「アキ、大丈夫だっぺかねえ……」
「アキ……?」
俺は首を傾げる。ティッペがまさかといった視線を向けてくる。
「え……」
「あ、ああ、監督のことか!」
「スグル……」
「い、いつも監督と言っているから、下の名前には今ひとつ馴染みが薄いというか……」
「それにしたって、話の流れで分かりそうなもんだっぺ……」
「し、信じろ、大丈夫だ!」
「あ、誤魔化した……」
「やれ……」
「うおっ⁉」
突如として現れた骸骨兵士たちが、手に持った槍を投げつけてくる。俺は慌てて馬車を操作し、それをかわす。
「ふっ、まあ、それくらいでは止められないか……」
ぼさぼさとした白髪で寝間着のような姿をした少年が俺たちの前に現れる。
「あ、あいつは⁉ 『スロースのトーマ』だっぺ!」
「やはり待ち伏せをされていたか……」
「英雄気取り、君には色々と世話になったからね。借りは返させてもらうよ……」
「くっ……」
「馬車を取り囲め……」
「……」
トーマが手に持ったタブレットを操作すると、骸骨兵士たちがさらに増えて、馬車にゆっくりと近づいてくる。俺は舌打ちする。
「ちぃ……」
「えーいなの!」
「!」
姫ちゃんが荷台からボールを手当たり次第投げつける。ボールを食らった骸骨兵士たちはバラバラになって崩れる。姫ちゃんが荷台から降りて胸を張る。
「ふふん、こんなこともあろうかと、天ちゃんにボールを【描写】しておいてもらったの! さらにハンドボール部の経験が活きたの! 栄光ちゃん! ここは任せて先を急ぐの!」
「ひ、姫ちゃん! しかし!」
「いいから! プロデューサー様を信じるの!」
「……お願いします! 無理だけはしないでくださいね!」
姫ちゃんの意思の堅い目を見て、俺は頷き、その場を後にする。
「ふう……ひとまずは作戦成功なの……」
姫はため息をつきながら、額を拭う。
「ちっ、小癪な真似をしてくれる……」
トーマが面倒くさそうにボサボサの頭をかきむしる。
「君の相手はこの姫ちゃんがするの!」
「む……」
「君についての調べはついているの、スキル【機器操作】……タブレットを使って、あらゆることを可能にさせてしまうって! でも、好きにはさせないの!」
姫がトーマをビシっと指差す。トーマがため息交じりで答える。
「悪いけど、おばちゃんの相手はしてられないんだよ」
「お、おばちゃん⁉」
「……こちらも一応だけど調べてある。【コネクション】という糸が主体の変わったスキルを使うとか……ふふっ、コネが強いっていうのは年の功ってやつかな?」
トーマがタブレットを操作しながら笑う。
「……なめんなよ」
「え?」
「なめんなよって言ったんだよ!」
「え、ええ?」
急に低い声で叫んだ姫にトーマが困惑する。
「ロクに社会経験もないような小僧が! 大人を馬鹿にすんじゃねえ!」
「キャ、キャラ変わってる……⁉」
「……なの」
「いや、もう遅いから!」
トーマが手を左右に振る。姫は笑みを浮かべながら話す。
「まあ、皆ここにはいないから猫を被っている必要はないか……もっとも、あの子たちのことだから、猫被っていることにも気が付いていないでしょうけど……」
「い、いや、多分、気が付いてて黙っているんだと思うよ? 触れたら色々アレな人だなと思って放っておいてるというか……知らんけど」
「………」
「…………」
「……ぶっ潰す!」
「キレた⁉」
トーマが困惑する。姫が告げる。
「今すぐに謝って、大人しく投降したら許してあげるわ……」
「ふ、ふん……冗談も休み休み言いなよ、戦力差は如何ともしがたいよ?」
「自慢の骸骨兵士さんたち、こんな状態よ?」
姫は周囲を見回す。骨が散乱している。
「これくらいなんてことはないよ……」
「なっ⁉」
トーマがタブレットを操作すると、骸骨兵士たちが自らの骨を拾い上げ、体を組み立て直す。トーマが思い出して笑う。
「ははっ、そうか、こういうことも出来るんだった……」
「‼」
「……………」
骸骨兵士たちが組体操をするかのように、何体か積み重なり、あっという間に一体の大きな骸骨兵士となる。
「そ、そんな……」
「さあ、一気に踏みつぶして、英雄気取りを追うぞ!」
トーマが指示を出す。巨大な骸骨兵士は右手を振りかざす、手だけでも姫を掴めるほどの大きさである。姫は慌てて、周囲に転がるボールを拾おうとする。
「くっ!」
「はははっ! そんな小さなボールをいくらぶつけたってどうにもならないよ!」
「……それもそうね……それなら!」
「ええっ⁉」
トーマが驚く。近くにあったそれなりに大きな岩を姫が持ち上げたからである。
「うおお……」
「ば、馬鹿な、どこにそんな力が⁉」
「小僧、良いことを教えてやるわ……」
「なに?」
「何事も積み重ねが大事……楽な道などない……最後にものを言うのは……根性!」
「なっ⁉」
姫が岩を投げつけ、それを食らった巨大な骸骨兵士はバラバラに崩れ落ちる。
「はあ、はあ……下積み時代は荷物持ちとかでこき使われたもんよ……」
「くっ……ま、まだだ! より大きな骸骨兵士を……む⁉」
トーマが自分の指全てに糸が巻き付いているのに気づく。糸を持った姫が淡々と告げる。
「タブレットをぶっ壊すことも考えたのだけど、他の機器をいくらでも生成出来るのかもしれないし……なんか面倒だから、貴方の指……折っちゃうわ♪」
「はあっ⁉ なにを無茶苦茶な!」
「指先一つで世界を変えられると思っている奴には一番効果的かなと思って……ね!」
「い、痛い、痛い! 折れる、折れるってマジで! ……はああっ!」
「……あらら、脅しのつもりがあっさり気を失っちゃった……最近の子は根性がないの」
姫がいつもの口調で呟く。
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