傷の癒やし方をご存知ですか?
@ieeei
第1話
初めて彼女と出会ったのは、小学3年生の時のクラス替えで隣の席だった。
見た目は小柄で周りの同性と比べても一回り小さい。ショートカットの黒髪に小さな輪郭で人形の様な見た目、綺麗な琥珀色の円らな瞳も相まって可愛らしさを引き立てていた。
けれど見た目とは裏腹に、目線をいつも少し下の方に向けていて、あまり笑顔を見せることがなく、周りにいる人達からいつも一歩引いた所に立って少し浮いた存在感。
それが小学生の頃の暁月結(あかつき ゆい)への最初の印象だった。
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子供の頃の天音洸(あまね ひろ)はどこにでもいる、元気な男の子という評価が多く、興味という餌を目の前にぶら下げると直ぐに駆け出す、楽観的な子供だった。
だからだろうか、周りの子供達に一歩引いた彼女に興味を抱いたのは。
最初はただ僕が一方的に話すだけで、結は何も言わずにただ話を聴いていた。
結の表情に大きな変化はなく、無愛想にただ洸の他愛もない話を聞くだけの日々。
出会ってからどれ程の日が流れたかは覚えていないし、話の内容もよく覚えていない。
きっかけすらも覚えていないが、いつも無愛想な彼女が初めて見せてくれた笑顔と言うにはぎこちない、少し口角を上げただけの儚げな表情。
その表情が洸の瞳には一番の笑顔に映り、今まで感じたことのなかった体の内側がじわっと熱を帯びた様な気持ちになった。
その時の洸には、その感情の正体が何なのかは分からなかったが、結の笑顔に魅せられたのは確かだった。
もう一度、彼女の笑顔が見たい一心で話かける毎日。
周りのクラスメイトに馬鹿にされ、モヤモヤする事もあったが、少しずつ増えてきた彼女の笑顔を見る度に何故かいつもそのモヤモヤが無くなっていた。
最初は些細な興味から、今では彼女の笑顔を見たいがために、二人の時間を過ごし、楽しい時間はあっという間に過ぎ去る。
結局当時の洸には結に対する感情が何だったのかは分からず仕舞いだったが、笑顔を見る喜びだけは、はっきりと感じていた。
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「今まで本当にありがとう、じゃあね」
幼くて優しい声色で別れを告げる彼女は、初めて見せてくれた笑顔より、柔らかな表情で微笑み、幼いながらに美しさすら感じる。
最初の頃は全く見せる事の無かった笑顔が洸と関わる様になってからは、次第に笑顔を見せる様になり、表情も豊かになった。
少しずつ変わってくに連れて、結の環境にも変化が起こり、数名ではあるものの洸以外の友達と呼べる人も出来た。
洸以外の友達が出来た時に少しモヤっとした気持ちになった事もあったけれど、色々な表情を見せる様になった事は良かったと思ったし、二人だけの時の笑顔は他に見せる表情とは別格で、凄く可愛いいと思ってしまう程だった。
そんな彼女の笑顔が見たくて一緒に居たはずなのに、何故だか今日の笑顔だけは胸の奥が苦しくなる。
結と出会ってから、今まで感じた事の無い苦しみが心の中を掻き乱す。
「こっちこそ、ありがとう。じゃあな」
この苦しみに気付かれない様に、奥歯を噛み締め普段通りの笑顔で答えた。
彼女は少し伸びた黒髪を翻して帰っていった。
振り向く際の彼女の瞳にじんわりと滲むものに洸は気が付く事はなく、また帰り際に洸の頬が濡れていた事を結は知らない。
そして暁月結は、父親の仕事の関係で小学5年生の夏に引越した。
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