鈍さの向こう側
真真
第1話 鈍さの向こう側
とあるBARのカウンターでのこと。
僕は友人の中でもトップクラスにモテないMと飲んでいた。
ほろ酔いのMは自分の容姿を嘆いている。
「お前はいいよなぁ、イケメンで」
「お前もそこそこナダルじゃん」
「どーゆーフォロー?」
そう、Mはモテない上にボケの感度もズバ抜けて鈍い男だった。
「嘘でもいいからカッコいいって言われたいなぁ」
Mが、夜空の星に呟いた。
ここ地下の店だけど。
「言われたら何だよ? 満足するん?」
僕はテキトーに返したが、Mは続けてこう言った。
「うん、言ってもらえたら死んでもいい」
僕はすぐに「お前カッコいいな」と言った。
「お前じゃなくて! 男じゃなくて! 女子からだよ!」
でしょうね。
お酒の酔いも少し手伝って、僕はMと共通の女友達のA子にLINEをした。
"MにカッコいいってLINEしてやってくれ。嘘でいいから"と。
数分後、MのLINEが鳴った。
当然、こんなヤラセLINEはバレバレなワケで、Mは怒るだろうと思っていた。
が、Mの反応は予想を遥かに超えていた。
「なぁ、A子はオレを好きなんか?」
な! わ! け!
さっきまで「カッコいい」と言われたら死ねる覚悟だった男が、急にアホな勘違いでイケメンな反応をしている。コワすぎる。
「A子なんて?」
「カッコいいよって」
「あ、言われたんですね、じゃ、はい」
「なんだよ? 告白されて死ねるか?」
顎が外れそうになった。この男、おそらくドッキリの免疫も皆無だろう。
「好きなんじゃん? もー、A子と付き合っちゃえ」
A子すまん。僕は心の中で謝罪して、残ったお酒を飲み干した。
"言われたい言葉"より"はじめてのLINE"のパワーが強いことを知った夜でした。
鈍さの向こう側 真真 @shinshin_k
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