第68話 招待客たち

 この世界の中心に位置する、魔法学園オリンピア。

 今年もまた、卒業認定試験の季節がやってきた。


 会場となる大広間には大勢の生徒たちと先生、そして招待された客人たちが集まっていた。客人の中には、これまでの魔法学園の卒業生たち――魔法使いとして、冒険者として活躍している者たち、またそれぞれの召喚獣の特徴を生かして様々な職業に就いている者たち――も大勢いた。


「どういうことだ? なぜ俺たちが認定試験に呼ばれた?」


 黒髪をオールバックにして後ろで一つに結んだイケメン。一昨年の卒業生、模擬戦の優勝者であるユーサン・ソウンドが言った。


「模擬戦に招待されるならわかるけどねぇ。認定試験を見に来いだなんてぇ……」

 おっとりした口調が特徴的、だが実は頭脳派のリーンが隣でアゴに手を当てながら不思議そうにしている。


「あの校長先生も何考えてんのかよくわっかんねぇな! なぁレンダ!」

「どうでもいいけどあんた、ちゃんとモカとマチョダさんの席も空けておきなよ。荷物で占領するんじゃないからね」


「わかってるって! これは、場所取り! 他の人に席を取られないようにしてんの!」

 口調は悪いが友達思い、元気いっぱいのスリムゥとレンダも相変わらずであった。


「私たち、招待客だから指定席扱いだよぉ」

「なに? モカ・フローティンも来る予定なのか?」


 リーンとユーサンが同時に二人に話しかける。特にユーサンは圧が強く、女子三人組が若干引いてしまうほどだった。


「……おう。一応校長先生は連絡を入れたってことだったけど、返事はなかったらしい」

 スリムゥが答えた。


「まったくよぉ、あの二人……どこで何やってんだか」

 レンダも少し声のトーンを落とした。


 突然、わっという歓声が上がった。

「モカか!?」


 ユーサンたち四人がはっとして声がした方を向いたが、そこにはクランチ校長先生に連れられてやってきた、がいたのだった。スペシャルゲストの登場に会場が沸きに沸く。大歓声の中、上機嫌になった国王は、大広間の中でも一番中心の高い場所に用意されていた椅子に腰掛けた。そして会場の生徒たちに笑顔で手を振っていた。


「げ、マジ? 国王まで見にきてんの? なんなの今年の認定試験?」

「あんなことがあったからねぇ、私たちの中では印象最悪よねぇ」


 リーンとレンダが、盛り上がっている会場の中で冷たい目線を送る。スリムゥは「わ、わたしたちがモカを助けたってバレてないよな? な?」と少しびびっていた。


 そんな中、ユーサン・ソウンドだけは一人、この認定試験について真剣に思いを巡らせていた。



***

 ――これまではなかった、招待客を招いての認定試験。ただ卒業生が召喚獣を呼び出すだけで、どうして国王まで招く必要がある?

 何か裏があるはずだ。国王と俺たち冒険者……さらには大物の国家魔術師まで揃えやがって――あの校長、何か企んでやがるな。

 ま、まさか!

 認定試験の後、この会場を使って俺とモカの結婚式を行うって魂胆か? なるほどそれなら合点がいく。国王ももうモカを狙うことはない(脅した)から、せっかくなら国王にも二人の結婚を認めてもらおうということか!

 そしてそのまま二人とも国家に認定された冒険者として、世界を股にかける夫婦冒険者……いいぞ、いいぞぉ! さすがはクランチ校長だ!

***



「おーい、ユーサン?」

「だめだ、コイツ、また変なコトを考えてやがる」

「マチョダさんが恋しくなっちゃったのかなぁ?」

 女の子三人組は、妄想モードに入って動かなくなったユーサンをツンツンとつついた。



 大広間の中、彼らとは対面の席。ローインの街の冒険者ギルド、ギルドマスターのナナ・スージーもまた、他のものと同じように招待されていた。


 ――クランチ先生……一体何を考えているのです?


 彼女はユーサンの妄想とは異なり、真剣に意図を汲み取ろうとしていた。と同時に、対面の席に目に入ったユーサンたちの姿を見て、モカ・フローティンとマチョダがいないことも気にかけていた。


 ――あの二人は……あれ以来会っていないけど大丈夫かしら。王都から逃げるようにして脱出したらしいから、ここには来づらいのかもしれないわね……。



 一方、こちらは一番高い席からみんなを見下ろしている国王、タメロン三世。


 ――ふはははは! こんなに大歓声が上がるとは、私の王位もまだまだ安泰というものよ!

 と、会場のみんなに愛想良く手を振りながらも、大広間の各所に配置した警備兵の確認も忘れない。


 ――忌々しいモカ・フローティンよ! お前もこの会場に来ているんだろ! よくわからんイベントが終わったら捕まえて即処刑してくれるわ! 一年前のあの屈辱、絶対に許さんからな!


 タメロン三世は、国家魔術師の魔法でも完全に治すことができなかった右耳とその周辺に残っている火傷を気にして指で触る。そして、両手の握り拳を怒りに任せてギュッと握りしめた。



 それぞれの思惑を抱えたまま、今年の卒業生認定試験が始まる。

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