第65話 召喚魔法の真相
「モカ・フローティン。あなたは召喚魔法を失敗したのよ♧」
ツェネガー(もう発音のことはいいだろう)が、真顔で言う。真顔だからって笑ってはいけない。金髪ロン毛、魔女マッチョでもふざけているわけではない。筋肉戦士マチョダと魔法使いシュワルツが一時的に融合しているだけなのだ。
「し……失敗って! 私は確かに魔法陣も詠唱も完璧にこなしたはずです!」
モカが珍しく怒った口調で言い返す。
思い出してみても、あの時――マチョダを召喚したあとも何度も確認したのだ。魔法陣も詠唱も間違っていなかったことを。それなのに。
「あなたの魔法陣と詠唱のことを言っているのではないの。召喚魔法を使う前から、あなたは既に召喚獣を持っていたんだから♢ 失敗して当然だったの♩」
ツェネガーはぶっとい腕でサラサラの金髪をかき上げる。
――失敗して当然? 私が召喚獣を持っていた? どういうこと?
「不思議に思ったことはないかしら? 魔力ゼロのマチョダが召喚獣でありながらも、なぜかあなたは魔法が自在に使えていたことに♪」
「……」
そう言われれば――。モカにも心当たりはいくつもあった。
まずはオリンピアでの模擬戦、スリムゥとの戦いのとき、氷漬けになったマチョダに対して、両手から炎を出して溶かそうとしていたこと。(第12話参照)
プーランクの森に入る前に、ごく自然に森全体に渡って魔力探知の魔法を使っていたこと。(第36話参照)
ヴァルク野村へと続く雪山で冷気防御の魔法を使ったり、マチョダ・ジャンプを止めるために風の魔法を使ったこと(第60話、61話参照)
何気なく炎、冷気、風、他にもいろいろな魔法を自然と使いこなしていたことを、モカはこれまで気にも留めなかった。
しかしよくよく考えるとおかしな話なのだ。召喚獣の属性にあった魔法しか使うことはできないはずなのに。もし仮にマチョダが複数属性持ちの精霊だったとしても――今までそんな事例は聞いたことがないのだが――彼を常時、召喚しっぱなしでも魔力が減らないというのも妙だった。
――やっぱり、マチョダさんは私の召喚獣ではなかったの? でも、でもマチョダさんは確かに私が呼び出したのに……。
困惑するモカをよそに、ツェネガーが続ける。まだ真顔だが、口調はどこかしら優しかった。
「会った瞬間に分かったわ。あなた、体の中に召喚獣を二体宿しているわね……もしかしてだれかから魔力を受け継いだとか……そんな感じ? ♫」
「あ……はい。実は私、小さい頃に一度病気で命を落としてしまって……父と母が古代の魔法使いマティオーネの力を借りて、私を蘇らせてくれたのです」
「そういうことだったのね。だからあなたの体にはご両親の魔力と召喚獣がそのまま受け継がれたのよ♦︎」
「……そう……だったんですか」
モカは自分の胸に手を当てた。この命を救ってくれた両親が、自分に召喚獣まで授けてくれていた……。体の奥に温かい光を二つ感じることができて、モカは胸が熱くなるのを感じた。
「どちらも素晴らしい召喚獣よ。大切になさいね♡」
ツェネガーがモカの頭に手を置いて優しく撫でる。「はい」とうれしそうに顔を朱く染めるモカだったが、忘れてはいけない。相手はマチョダの顔をした金髪ロン毛魔女マッチョである。感動的なシーンに見えても、絵面的には気持ち悪いのである。
「そっか、私は小さい頃から召喚獣を体に宿していた。その状態で召喚魔法を使ったから……失敗したということですね」
「そう。既に召喚獣を持っている魔法使いが再度召喚魔法を使ったとしても、召喚獣を呼び出すことはできないわ♧」
ツェネガーがかぶりをふると、その金髪がまるででんでん太鼓の先の紐のように顔に巻きつく。
「だから、何らかのエラーが起こって……この世界とは一切関わりのない、魔力ゼロのマチョダを呼び出してしまったのでしょうね♤」
――だとしたら、私はマチョダさんにとんでもないことをしてしまったことになる。なんとしてでも、マチョダさんを元の世界に戻してあげなくては……!
モカが真剣な眼差しになって、ツェネガーに言う。
「そ、それで、マチョダさんを元の世界に戻すにはどうすればいいんですか?」
「えっとねぇ、その前にもうちょっとこの筋肉を堪能させてくれる? ☆」
そう言うと、なんとツェネガーはとんがり帽子を投げ飛ばし、さらに身に纏っていた黒い魔法使いのローブも脱ぎ捨て、ふんどし一丁の姿になってしまった。
「ぎゃあああああっ!」
ヴァルク
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