第55話 マチョダ怒りの鉄拳
「オ前ラカ……モカヲ泣カセタノハ……!」
ズンズンズン!
金色の髪を逆だて、熱気を出し続けているスーパーマチョダ人が一歩ずつ歩くたびに赤いカーペットはぐしゃぐしゃになり、石でできた床にひびが入る。
――悪魔だ! 悪魔がやってきおった!
怒り狂うスーパーマチョダ人の姿を見て、大臣は悪魔が来たと勘違いして泡をふいて気絶した。国王であるタメロン三世はそんな状況でも「兵士よ! 早くこいつを仕留めろ!」と兵士を呼びつける。実際、兵士たちはスーパーマチョダ人の
「ひっ!」
スーパーマチョダ人が無言のまま、タメロン三世の前に仁王立ちする。情けない声を出して、タメロン三世は腰を抜かした。しかし、さすがはこの国の国王。尻もちをついた格好でも偉そうな態度を崩すことはなかった。
「お、お前は何者だ! 私はこの国の王、タメロン三世であるぞ!」
「ナゼ……ナゼモカガ地下牢ニ連レテイカレルンダァ!」
スーパーマチョダ人の体から
「モカ・フローティンは迷宮の第5層に行ったと嘘をついたんだ! そんな奴は地下牢に行くのは当然だろうが!」
「モカハ第5層ニ行ッタ! コレガ証拠ダ!」
スーパーマチョダ人は拳を振り上げて、タメロン三世の足元の床を思いっきり殴りつけた。
ドゴン! とものすごい音がして、床が抜けた。「ひいいっ!」タメロン三世は目の前にできた穴を恐る恐る覗いた。幸いそこは誰もいない廊下で、怪我人などはいないようだったが、階下から「何事だ!」「この真上には国王様がいるはずだ!」「兵士たち、王の間へ急げ!」などと騒がしい声が聞こえてきた。
スーパーマチョダ人としては、この力で古代の迷宮第5層へ行ったんだということを伝えたかったのだが、残念ながらそれはタメロン三世には伝わらなかった。モカ・フローティンは第5層に行って悪魔と契約を交わしたのだと彼は思ったのだった。
「わかった、わかったから! 何が望みなんだ!」
「モカヲ解放シロ……地下牢ヘハ行カセナイ!」
「か、開放する! モカ・フローティンを地下牢へは入れないから! 落ち着け、な!」
タメロン三世は悪魔を目の前にしてそう言うしかなかった。というか、時間稼ぎをすれば、一階にいる兵士たちがやってきてくれる。そう思っていた。
しかしそれでもスーパーマチョダ人の怒りは収まらなかった。もう一度拳を大きく振り上げる。そのときだった。
「マチョダさん! ダメです!」
モカが扉の向こうから走ってきて、マチョダの振り上げた右手にしがみついた。彼女の顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。
「マチョダさん! いつもの優しいマチョダさんに戻ってください! こんなの……マチョダさんじゃないです!」
モカの声に、スーパーマチョダ人の動きがピタッと止まった。そしてだんだんと
「マチョダさん……またこれまでみたいに一緒に冒険しましょう……またマッチョジョークを言ってください……怒りに我を忘れるマチョダさんは見たくありません……」
ぐすっ。モカの目から溢れ出た涙がぽつりとスーパーマチョダ人の体に落ちた。すると、スーパーマチョダ人の逆立っていた金髪が元の黒髪(ちょっと白髪混じり)に戻り、白目の中にはっきりと黒い瞳が戻った。あらゆるものを吹き飛ばしていた
ズシン!
とマチョダは前のめりに崩れ落ちた。力を全て使い果たして、気絶してしまったようだった。
「マチョダ……さん?」
返事はなかったが、彼の大胸筋が微かに上下しているのを見てモカは安心した。
「モ……モカ・フローティン! なんなんだね、こいつは!? あやうく私は殺されるところだった!」
タメロン三世が先ほどまでの情けない姿はどこへやら。マチョダが動かなくなったことがわかると、すっと立ち上がり偉そうな態度をとった。
もはやモカもスーパーマチョダ人と同様にタメロン三世に対して怒りの感情を持ち始めていた。強い口調で国王に対して言った。
「マチョダさんは私の召喚獣です。私はマチョダさんのこの力で第5層まで到達したんです! 先ほどの話を聞きましたが、私の地下牢行きは無くなったんですよね? それでは私たちはこれで失礼します!」
マチョダさん、帰りましょう。モカが両手を広げてマチョダに回復魔法をかけようとしたときだった。タメロン三世がニヤリと笑い、指をパチンと鳴らした。
「!?」
王の間の扉の向こうから、一斉に武器を装備した兵士たちがなだれ込んできた。そしてモカとマチョダを取り囲み、二人に向けて武器を突き出した。
「この二人は私を殺そうとした! 二人とも地下牢の一番奥、特別懲罰房へと送り込め! 準備ができ次第、こやつらは即刻処刑する!」
「はっ!」
なんなのこの国王は……これまでにない冷たい表情でモカはタメロン三世を睨みつけたが、彼は一切意に介さず、髭を触りながら「ザマアミロ!」と声を出さずに口を動かした。
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