第39話 いざ古代の迷宮へ【第3章最終話】
「お父さんは……召喚獣だった?」
「だからお父さんじゃありません! マチョダさんは私の召喚獣なんです!」
理解が追いついていない冒険者の面々。そもそも召喚獣は四六時中呼び出しておくものじゃない。冒険のとき、魔法を使うときしか呼び出さないものなのだ。しかも、召喚獣と言ってみんなが想像するのは、動物の姿に似たものや精霊のようなもの。まさか地に足をつけたごく普通の人間が召喚獣だとは誰が思うだろうか。
「は……ははは! モカちゃんは新人冒険者なのに、冗談がうまいなぁ!」
「さすがに人間のおっさんを連れてパーティを組むのは……」
「そうか、冗談! 冗談だよな! まさかこんな人間が召喚獣だなんて、なあ!」
冒険者たちの先ほどまでの熱量はどこへやら。一刻も早くこの場から立ち去りたいという雰囲気が部屋全体を支配していた。
「で、パーティはいつ開かれるんだ? な?」
マチョダがパーティのことを歓迎会だと勘違いしたまま、周りの冒険者たちに尋ねる。ずいっ! と筋肉の塊が迫ってきたものだから、冒険者たちはその圧に押されてさらに後ずさった。
「そ、そういえば……俺たちのパーティ、人数一杯だったのを思い出しました! 失礼します!」
「おっ、俺らも!」
「俺たちも!」
誰か一人の言葉を皮切りに、モカを狙っていた冒険者のほとんどが逃げるようにして冒険者ギルドから出て行った。いくら将来有望の冒険者モカ・フローティンを仲間にしたいからといって、おまけでついてくる人間、しかもデカイおっさんまでは必要ないのだ。仮に街を一緒に歩いているところを見られたりでもしたら、「あいつらは魔法すら使えない人間を連れて冒険をしている」と変な噂が立ってしまうこと間違いなしなのだ。
「なんだよ……せっかくパーティを開いてくれると思ったから楽しみにしていたのに……なぁ、モカ」
マチョダががらんとしたギルド内を見て言った。
モカは(多分、マチョダさんは冒険者パーティのことを歓迎会のパーティと本当に勘違いしているんだろうなぁ)と思いながらも、自分を守ろうと前に出てくれたことが嬉しかった。
「……ありがとうございます、マチョダさん」
「ん? 何のことだ?」
モカから感謝の言葉をもらったが、なんのことだかわからないマチョダはとりあえず、ポーズをとって笑顔を見せた。
「ごめんね、モカにマチョダさん」
受付嬢のラティスが両手を合わせて近づいてきた。
「昨日入ってきた新人冒険者がいるはずだ、出せ出せってうるさくって……こんなことになるなら、もう出発しましたって嘘ついておけばよかった」
これ、お詫び。と言って、ラティスはモカに一枚のカードを差し出した。それには「入場許可証」と書かれてあった。
「これは……?」
「古代の迷宮に行くんでしょ? それならこのカードがあれば一発よ。本当はいろいろと手続きが面倒なんだけどね」
迷宮に入ることに許可証が必要だったとは知らなかったモカは、ラティスに何度も礼をした。
「このお礼は必ず!」と言うモカに対して、
「じゃあ、迷宮探索のお土産話を聞かせてね……私が何を言いたいかわかる?」とラティス。いつの間にか、彼女の手はモカの頬を優しく包み込んでいた。
「?」
「必ず生きて戻ってきなさいよってこと。迷宮は危険がいっぱいだから、何かあったらすぐに戻るのよ!」
受付嬢として数多くの冒険者を見送ってきたラティスの言葉には重みがあった。迷宮を軽く見ているわけではなかったが、モカは改めて気を引き締め直し、力強くうなづいた。
「わかりました、じゃあ行ってきます! ナナさんにもよろしくお伝えください!」
モカはマチョダとともに冒険者ギルドを後にした。向かう先はもちろん、街の外れにある古代の迷宮。今まで誰も到達できなかった第5層を目指して、二人は意気揚々と歩き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます