第34話 ギルドに入る条件
「モカ・フローティン。あなたの召喚獣……本当は召喚獣じゃないんだろうけど……マチョダを呼んでおいで」
ナナ・スージーに言われて、モカはマチョダを迎えに行く。「俺は肉を注文したかったんだが……」とか言いながら戻ってくるムキムキマッチョに、ナナは呆れて物も言えなかった。
「んで、モカは冒険者になれたのか?」
マチョダの素朴な疑問に、モカは首を横に振った。そこにナナが付け加える。
「それは、マチョダ……あなた次第ね」
「俺?」
ゴホン、と咳払いを一つしてナナは言った。
「最近、この街の東にあるプーランクの森にゴブリンが現れたという情報が入った。マチョダがそのゴブリンを倒すことができたら、冒険者ギルドに入ることを認めようじゃないか」
「ゴブリンを倒すだけ……でいいんですか?」
モカが尋ねる。
「ああ、簡単な試験だろ? クランチ校長に頼まれたら私も断るわけにはいかないよ。ただね、ランクMとかいうわけのわかんないマッチョ、他の冒険者たちがブーブー言うだろうからね。何か実績をつけておきたいわけさ」
クランチ校長もナナの言うことにうんうんとうなづきながら聞いていた。
――確かに、ランクMなんて相当低いランクの精霊を持った冒険者なんて聞いたことないわね。……でもゴブリンを倒したくらいでみんなが認めてくれるのかしら?
モカが腕組みをして考え事をしている様子を見て、ナナが言う。
「心配しなくてもいい、モカ・フローティン。ゴブリンを倒せる精霊は、ランクD以上はあるはずだ。倒してきたら、マチョダを再鑑定してやろう。そうそう、倒したときには証拠となる『ゴブリンの角』を忘れずに持って帰ってくるんだよ」
「わかりました。すぐにでも行ってきます! 校長先生も私のためにわざわざありがとうございました」
「ほっほっほ、気にしなくてよい! 教え子にも数十年ぶりに会えたからね。ついでにローインの街を観光してから帰るとするよ!」
「あら、でしたら私が案内いたします。校長先生といろいろお話ししたいこともありますし!」
ナナとクランチ校長はそんな会話をしながら、二人で冒険者ギルドから出て行った。「そうそう、モカ・フローティン。詳しいことは受付のラティスに聞いてね」という言葉を残して。
「ではマチョダさん、私たちもラティスさんに話を聞いてから、出かけましょうか! ゴブリンなんてちょちょいのちょいでやっつけちゃいましょう!」
「……待ってくれ」
やけに深刻そうな顔をして、マチョダがプルプルと震えている。どうしたのいうのだろう。もしかして、ゴブリンを退治するのが不安なのかしら? モカがマチョダの表情を観察すると、「ぐぐぅ」と腹の虫が鳴った。
「ゴブリンをどうこうする前に、飯にしないか?」
マチョダはブラックドラゴン・サイコロステーキ以外でタンパク質を補給したいのだ。
☆★☆
ギルドマスターであるナナ・スージーと魔法学園オリンピア校長のクランチ先生が二人並んでローインの街を歩いている。二人とも魔法を使って若い頃の姿に変身しているので、道ゆく人々に気づかれることもない。
「で、本当のところ……何をしにきたんですか?」
ナナがクランチ校長に向かって尋ねる。もちろん、周りの人々に聞こえないように気をつけながら。
「ほっほっほ。本当にモカ・フローティンを冒険者ギルドに入れるようにお願いに来たんだよ。あの子なら……あの子とマチョダなら行けるかもしれん。そんな気がするんだよ」
「行けるって……まさか!?」
「そう。私や君でも到達できなかった『古代の迷宮、最下層』へ……ね」
二人はローインの街の中心にある大きな噴水広場へとやってきた。
「最下層……だってあれから20年近く経ちますけど、いまだに誰一人として第4層へすら行けていないんですよ? それを……あの二人が?」
「モカ・フローティンは言うまでもなく、あのマチョダという人間も素晴らしい可能性を秘めている。魔力はゼロだが、もしかすると今後化けるかもしれんよ」
「あのマッチョがですか……」
プシューっと勢いよく噴水が空高く舞い上がる。水は空中で細かな粒となって水面に落ちて、それが心地よい音を奏でている。波紋が広がり、写っていた空や建物が歪んでしまうが、しばらくするとまた静けさをとりもどし、鏡のように空をはっきりと映し出した。
ナナ・スージーは水面に移った自分とクランチ校長の顔を見て、昔を思い出した。
――20年ほど前。ここローインの街の外れに古代の迷宮が見つかり、魔力自慢たちが競って迷宮を攻略しようと
それでも、第4層までたどり着いたことの功績が評価され、ナナは新設された冒険者ギルドのギルドマスターになった。それ以来、彼女が新規の冒険者の世話をし続けているが、それ以降の冒険者は第4層にすらたどり着けていない。
そんな難攻不落な古代の迷宮をモカとマチョダが踏破するかもしれない――クランチ校長のその言葉に少し胸が躍るギルドマスター、ナナ・スージーなのであった。
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