階段から落ちたら異世界だった。

一ノ瀬 修治

第1話 物語はいつも突然に

――異世界物語好きの、全ユーザーへ送る。

 異世界の理。


 

 この物語の主人公は、都内某所の2階建て1軒家に住む不登校気味な高校生、高柳ユイト。スペックは身長もそこそこ高く、ユイト自身顔も悪くはないと思うのだがこれっぽっちもモテやしない。10数年と生きてきて改めて思うがこの世界はとても理不尽だ。ユイトの部屋は2階にあり、ありとあらゆる漫画で埋め尽くされている。その中には中学の卒業文集もどこかにあったはずだ。中学の時は不登校だったという訳ではないのだが、高校になり勉強や周りに置いていかれるようになりストレスで不登校になってしまった。我ながらとても情けない話である。1番勉強も青春も、全てが楽しい時だというのに。

 そして今日は久しぶりに高校へ行き、2学期の成績表を取りに行かなければならないのだ。不登校気味のユイトへ付ける成績なんてたかが知れてるのにと思いながら母が作ってくれた朝食を平らげる。母は、ユイトが最初高校へ行かなくなってしまった時は毎日のように『学校行きなさい』と言ってくれていたのだが、諦めたのかもう最近は言われなくなった。

「あと20分といったところか……急ぐか」

 ユイトが通う私立高校は他の公立の高校などとは違い、朝のホームルーム開始時間は遅い方なのだが学校へ行かなければならない時はいつも学校へ着くのがギリギリだ。理由は概ね、ユイトの起床時間が遅すぎるからだということは誰も知らなくていいことである。ユイトは少し急ぎめでスクールバッグを背負い靴を履き、夏の眩しい陽射しへと続く扉を開ける。

 学校までは自転車を数分程走らせた場所に位置している。私立高校なので公立の高校と比べると比較的、外見や内見も綺麗なのだ。その分多くお金を払ってもらっている両親には感謝してもしきれない。


  

「おーい。お前ギリギリだぞ」

「すみません!」

 いつも校門の戸締りをしている先生だ。彼はもう真夏だというのに厚着のジャンパーを着ている。ユイトから見れば頭がどうかしているとしか思えない。そんなことを考えながら、下駄箱へ向かい靴をはき替える。いや、正確には履き替えようとした。『正確には』というと、ユイトが上履きを履こうとした瞬間、背後から小さな悲鳴と同時に凄まじい音がした。

「うわーーー! 痛ててててて」

 後ろを振り返ると、綺麗なピンク髪をし華奢な背中をした一人の少女がカバンの中身をぶちまけて転んでいた。

「だ、大丈夫?」

「あ…ああ。うん! だいじょーぶだいじょーぶ!」

 見た感じ大丈夫そうではないが、彼女の元気そうな返事を聞いて少し安堵した。そしてそう言った彼女だが、ユイトと同じクラスの岸田サヤカだ。彼女は学力でも顔面でもスタイルでも学年上位の方だ。俗に言うモテ女というやつで、ユイトからすれば羨ましい限りだ。ユイトは生まれてきてから彼女や、良い感じになった異性が1人もいないため尚更である。

「君、早く職員室寄らなくていいの?」

 ユイトは近くの時計に目をやる。時計の針は9時20分を指している。

「うおー! やばいやばいやばい。ちょっと急ぐよ! ありがとね」

 残り5分のうちに職員室へよらなければ遅刻と記されてしまい、せっかく間に合うために早く家を出たのに本末転倒になってしまう。

「うん! これからもちゃんと学校来なよー!」

 サヤカはなにか大声で話していたけれどあえて無視して職員室へ向かう。職員室は2階にあり、下駄箱からは近いのだが不登校のユイトからすれば途中の階段を上るのが、体力がないためとてもしんどい。

 職員室へ着いたのはあと少しでチャイムがなってしまうというギリギリなタイミングだった。本当はもう家を出た時にはこうなることは必須事項だったのではないだろうか。なぜそうなったのかは一目瞭然だ。家での生活が影響しているのだ。夜は遅くまで大好きな学園モノのアニメを見て、朝はそのせいで起きるのがもはやお昼だ。俗に言う昼夜逆転生活というものだ。高校生だというのに我ながら大変情けない。

『コンコンコン』

 職員室の扉ノックをする。ノックは3回と親に教えられてきた。親曰く、2回のノックはトイレの中にいる人へ対してらしく、ユイトはそれを聞いた時今までどんな場所でも2回ノックをしてきたことを悔やんだ。しばらくすると、眼鏡をかけ長い髪を後頭部で括りポニーテールにした、明らか保健室の先生であろうといったお淑やかな先生が出てきた。

「あら、ユイト君。今日はどうしたの?」

 声音も見た目同様、お淑やかな声をしている。うっとり聞き惚れてしまいそうだ。

「先週言われていた成績表を取りに来ました」

「あら、そうなのね。少し待っててね」

「はい」

『待ってて』と言い残し彼女は奥へと消えていった。その後すぐに担任がこちらへ向かってき、成績表をユイトに渡してきた。

「もう少し学校来ようよ。そんなんじゃ大学なんか行けんぞ」

 余計なお世話だ。

「はい。すみません」

 軽く話を混じえ、ユイトは再び下駄箱へ向かう。靴を履き替え校外へ出ると昼になり人の通りが増えてきたからだろうか朝より蒸し暑く感じる。

「はあ、あっちぃ」

 このまま成績表と一緒に家へ帰ろうかと思ったが。今日は大好きな漫画の新刊が発売される日なので少し寄り道をしていこうと思う。

 学校から少し離れた路地裏の隠れた本屋へ向かう。なぜこんな隠れた場所へ行くのかというと、ここはユイトが幼い時から面倒を見てくれているおじさんがおり、値段を少しまけてくれるからだ。遊び盛りの高校生にとって数10円の価値は高いと個人的に思う。

「おっちゃーん。いる?」

「おう」

 ユイトの質問にガラガラ声で奥から出てきたのは白い髭をサンタクロースのように伸ばし、腰を大きく曲げたおじさんだ。

「いつもの新刊ある?」

「あるぞー。買ってくか?」

「うん。にしてもおっちゃん凄いね、昨日発売の新刊もう売ってるんだ」

 他の書店だと基本何日か待たなければ売られていないのだが、ここは規格外の速さで売ってくれている。漫画が最近の暇つぶしになっているため、非常にありがたいのである。

「まぁな。さ、480円だが400円でいい」

「いつもありがとう。はい、これ」

 きっちり400円支払う。すると綺麗に包装された例の漫画を渡してくれた。

「よし、丁度だな。まいどあり」

 ユイトは漫画をスクールバッグの中身に入れる。店の外に出るとやはり暑い。今度こそ家へ帰ろう。途中ユイトと同じ高校の少しグレた子に見つかりそうになったが、上手く遠回りをし見つからずに済んだ。比較的陰キャなユイトは基本的人目を避けて生きたい。


 家へ着くと正午を少し回っていた。夕方になると母と父が帰ってくる。

「買ってきた漫画でも読むか」


 漫画を読み終わり、余韻へひたっていると母と父が帰ってきた。2人は同じ職場で働いており。他人から見てもユイトから見ても仲睦まじい。

「おかえりなさい」

 読みかけの漫画を閉じ1階へ降り、そう声をかける。

「おう、ユイト帰ってたのか。ただいま」

 そう父は言い風呂場へ向かった。真夏の汗を洗い流しに行くのだろう。母はというと、キッチンへ向かい夕飯の支度をしている。本当に両親には感謝してもしきれないとつくづく思う。

「ユイト、ちょっと人参とじゃがいも買ってきてちょうだい」

 肉じゃがでも作るのだろうか。ユイトの好物はカレーなのでカレー説も一応推しておく。

「はーい」

 了解の意を示し財布を待って外へ出ると、夕日が黄金色に輝いている。黄昏時というものだ。昔、本で読んだことがある、人ならざるものに会う確率がグンとあがる時間。少し怖いので早歩きになる。

 家から少し歩いたところにあるスーパーに着くと急いで野菜コーナーに向かい、人参とじゃがいもを手に持つ。ついでにお腹がすいた時用にカップ麺も買うことにした。カップ麺というのは体に悪いらしいが本当に癖になる美味しさであるためいつも、ついつい買ってしまうのである。それらをレジに通しスーパーを出ようとした、その時。ふとなにかに躓いてしまい顔面から転けてしまった。

「ったく……いってぇな……」

 まったく、ついてない。周りの人に『クスクス』と笑われ、顔を真っ赤にして立ち上がる。完全に日が沈み切る前に少し小走りで家へ帰ろう。

 家に着くと母はまだ夕飯の支度をしていた。カレーの香りがする。やはり今日はついていると思い、ニヤニヤしながら母に人参とじゃがいもを渡す。

「なにニヤついてんのよ。きもちわるい」

「うっせぇよ!なんでもいいだろ!」

 少し顔を赤らめながら怒鳴る。我が子に対して気持ち悪いとは、なんてことを言うのだろう。一方父はというと、テレビで録画していた野球を見ている。ユイトも子供の頃は野球を少し習わせてもらっていたのでどんな試合をしているのかと気になり、父の隣に座り一緒に見る。どうやら、父が応援しているチームが優勢らしい。

 

 数分が経ち、

「ユイトとお父さんー、ご飯できたわよー!」

『はーい!』

 2人揃って元気よく返事をし、ダイニングへ向かう。すると、テーブルの上に白く輝く白飯の上にカレーがかけられ、その上にはなんとトンカツまで乗っかっていた。なんてことだろう。普通のカレーでも嬉しいというのに、そのうえカツまで乗っけてくれているなんて。ユイトと父はわかりやすく目をきらびかせ自分の席に座る。

「いただきます!」

 親子3人で元気よく挨拶をする。日本の言葉は改めて美しいと実感した。カツカレーはカツに油が程よく乗っており絶品であった。サラダも、僕は生の野菜は基本苦手なのだがその日は美味しく平らげた。



 

「ご馳走様でしたー!」

 食後の挨拶も3人揃って手を合わせ、挨拶をする。母は食器を洗いに、父は最近ハマっている株というものをしている。ユイトはというと、少しの間ゴールデンタイムの番組を見て歯磨きやお風呂などをすませ自室へ帰る。

「明日もどうせ学校行かねーしなー」

 なんて高校生らしくないことを呟き、布団へくるまる。

「あー、彼女欲しー」

 有名なSNSアプリを眺めながらまた呟く。高校生なんてちょうど青春真っ盛りだというのに、何をしているのだろうと心の中で叱責する。そんなことを考えていても仕方がないのでそのまま眠りにつくことにした。



 

 ユイトが目を覚ましたのは明け方、枕元の時計は短針5の辺りを指していた。ユイトはトイレで用をたそうと思い1階へ続く階段へ向かった。1歩、2歩、3歩、そして4歩目を踏み出し次の段に足を乗せようとしたその途端。ユイトは盛大に踏み外してしまい1階まで落下してしまった。

「痛ててててて」

 顔面から突っ込んでしまっていたため、顔を上げるのに少し時間を要した。そして顔を上げるとそこは。

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