【警報レベル4】町田ダンジョン近くで現在の状況を実況してくぜ!【祭り開始】
「あー、あー……声入ってる? 大丈夫?」
"入ってる! ¥1,000"
"きたー! ¥1,000"
"期待 ¥3,000"
"何してんだ"
「うん、大丈夫そうね! 投げ銭もセンキュー! 改めましてはいどーも! 実況系WeTverのセイジョウです! 今回は久々にお外に来ております! 皆さん!ここどこかわかるかなー?」
"ヒント:今日の配信タイトル"
"ヒントというか答えなんよ"
"え、マジで町田に来てんの?"
"危なくね?"
「たはー正解! 流石リスナー! そう、本日はここ町田にて、生配信でお送りしておりまーす!」
町田ダンジョン周辺の路地裏。日も落ちてきて暗い中、そこまで大声でなく、さりとてきちんと聞こえる程度の声で自撮りをしながら喋る男がいた。
歳は若いが未成年と言うほどではない。金に染めた頭髪と比較的緩めの服装。左手には自撮り棒に取り付けた端末。
登録者数72.4万人。セイジョウという男は、「憎まれっ子世に憚る」をモットーとしそこそこ以上に成功している配信者の1人だ。ただしオブラートに包んで言えば、普通の人からは煙たがられるタイプではあるが。
「いやぁこんな10年に1度のイベントを生で見るチャンスは見過ごせませんよねって。自宅から車飛ばしてさっき着いたとこなんですわ。やっぱ皆も気になるっしょ?」
"気になる!"
"需要に答えてくれるセイジョウってやっぱ神だわ ¥5,000"
"えー普通に危なくない……?"
"いや避難指示出てるじゃん、早く逃げなよ"
「だーいじょうぶだって大袈裟大袈裟!自衛隊の皆様が守ってくださるって! もし俺が怪我したら守ってくれなかった自衛隊のせいってことでね、そもそもまだスタンピードが起きてるわけじゃないんだし! へーきへーき! さてさてそんじゃあ早速外の様子から窺って行きますよぉー」
"そうそう"
"さすセイ"
"いや流石にそれはどうなの"
"普通に危なくないか……?"
"メッセージが消去されました"
一部のメッセージが消去されているのを横目に撮影を開始するセイジョウ。
(彼に言わせるところの)アンチリスナーのコメントが、(彼に言わせるところの)ファンによって見えないようにされ平和が保たれる。彼にしてみれば、それは平時の一部に過ぎなかった。
「えーと、協会の前には随分人が溜まってなんか騒いでるねぇ。んで警察と自衛隊がそれを抑えてると。俺が言うことじゃねーけどなんでこいつら避難してないんだ? ヘイリスナー! わかる人いるー?」
"セイジョウと同じじゃない?"
"やっぱ祭り見に来てんのよ"
"なんかPシーカー来てなかったっけ?"
"メッセージが消去されました"
"ぱられるわーるどのSplashatter来てるからそれ目当てじゃね?"
"メッセージが消去されました"
「え、マジで! ぱられるわーるど来てんの? ちょっと調べるわ……あー出てきた! マジじゃん! うわ生で見たいな! 楽しみが増えたわサンキューリスナー!」
ゲラゲラと笑いながら撮影を続行していくセイジョウは一通り自衛隊や警察を撮影すると、起動しているカメラ端末を特性の鞄の中にしまい込む。
「んじゃあそろそろ入っていくとしますかぁ、ちょっとの間見えなくなるけど我慢してねー」
"はーい"
"楽しみ"
現在町田支部の建物はC級未満の探索者の入館は禁じられているが、セイジョウはC級の探索者でもあるので問題無くチェックをパスした。その大半はリスナーとの共同探索によってキャリーしてもらったものなので本人の実力とは結び付いていないが、少なくとも書類上は問題無い。
「中の様子はまあ普段とあんまり変わらないかなー。活気は割とあるけど、あんまピリピリとかはしてないね」
"みたいね"
"メッセージが消去されました"
"男ばっかやんけ"
"Splashatterは?"
再び取り出したカメラ端末を不審に思われない程度に操作しながら、声を潜めて実況を続けるセイジョウ。
適当に店を冷かしたりぶらつくもののそこまで物珍しいものはなく、魔石の買取価格が中々平時ではお目にかかれないものになっているのを楽しんだくらいだった。
「うーんちょっと目当ては外れちゃったなぁ……Splashatterもいないし、どうするリスナー?」
"そもそもSplashatterって何しにここに来てんの?"
"周辺の防衛らしいけど"
"職員に何か聞いたら答えてくれんじゃね"
「周辺の防衛、ねぇ……スタンピードの発生予測日時って確か今日じゃないっしょ? なんで今日来てんの?」
一度人通りの少ない場所に場所を移したセイジョウが疑問を口に出す。
スタンピード発生の基準はダンジョン内魔力濃度200%とされている。魔石買取の相場、つまり現在の魔力濃度は164%。ペース的にはとても今日スタンピードが発生するとは思えない数値であり、。
"確かに、今日スタンピード発生しないよね"
"売名じゃね? 実際は来てないとか"
「マジ? ほんとは来てないとかある?」
"それはない、ちゃんと来てるぞ"
"昼とか夕方に顔出してるから来てる"
「なるほど、てなると泊まりで待機かな……でもそのために今日から待機ってのもなんかピンと来ないね、配信とかどうすんだろ?」
"21時から自衛隊と共同でダンジョン内の魔力濃度を引き下げるための間引きやるからそれまで待ったら? ¥1,000"
やんややんやと好き勝手騒ぐセイジョウとリスナーだが、その中に一つのコメントが投下された。それは本来普通の探索者や一般人が知りえない情報だった。
「お、投げ銭センキュー。なになに、21時から自衛隊と共同でダンジョンに潜るの? マジ?」
"情報通おるね"
"ナイス!"
"メッセージが消去されました"
「なるほどねぇ、その辺の時間にまた戻ってくれば見れるかな? なら一旦配信切って後でまた戻ってくるかなー、飯も食いたいし。けどどっか店開いてるぉわっ!?」
ズン、という縦揺れが一つ。ちょうど立ち上がろうとしたセイジョウはその場に尻もちをつく。
「いってぇ、なんだ……?」
"どうした?"
"何があったん?"
"メッセージが消去されました"
ざわざわとメインホールが騒がしくなっていくのを見てそちらに場所を移そうとする中で、拡声器による声が響いてくる。
耳を澄まして現状の把握に努めるセイジョウの口元が徐々ににやけていった。
「……魔力濃度200%突破? 避難指示? どころか……突如のスタンピード発生? おいおい盛り上がってきたじゃん! これはもう見るっきゃねぇよなぁ!」
"いけー!"
"実況頼む!"
"メッセージが消去されました"
"メッセージが消去されました"
"期待してます!"
「いやーそうまで言われちゃ仕方ないなぁ! この漢セイジョウ! 皆に情報を届ける為、俺の目とこのカメラにばっちしスタンピードの様子を納めてみせましょうや!」
ありふれた闇に呑まれゆく @6LD
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ありふれた闇に呑まれゆくの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
近況ノート
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます