第20話:宝石

前書き

作品のタイトルを変えました

詳細は近況ノートで

前書き終わり






(……結局この宝石はなんなんだろうな)



 ダンジョンからの帰路についた後スーパーマーケットで買い出しし、作った夕食をとって風呂に入って自室に戻る。恵理はなにやら「友達の家に泊まりで一緒に宿題するからご飯はいらない」らしいから適当に炊いた米とレトルトカレーで済ませた。安くて量が多いのはありがたい。余ったお米は明日の昼用に握り飯にしよう。


 ベッドに寝転がり、バッグから取り出した宝石を灯りにかざす。水色というか空色というか、淡く緑がかった青い宝石。とても綺麗だが……。



(結局、職員さんはその存在に気づかなかった)



 貸し出し武器の返却やステータスカード更新の際にある程度見えやすい位置に置いてみたものの全く気づかれず、施設を出る前の手荷物検査でもスルーされた。


 ここまで来れば偶然ということはなく、俺以外には認識されていないのだろう。もしかしたら世界中探せば少しは見える人がいるのかもしれないが、少なくとも現状ではそう判断せざるを得ない。


 鑑定スキルは持っていないし、今から取り始めるにしても多分この石の詳細を知れるのはまだずっと先になるんだろうな、という予感がある。



(誰かに鑑定してもらうというのも、そもそも見えないんじゃどうしようもないしなぁ)



 基本的に協会のデータベースには過去にそのダンジョンでドロップしたアイテム等は全てアーカイブされている。しかしダンジョンの魔力流入及び流出や特性変化によって、ドロップアイテムの変化はもちろん、昨今の例は少ないが全く未知のアイテムがドロップすることもある。


 そういう時のために協会の一部職員は鑑定スキルの取得をしているし、未知のドロップ品を取得した際は協会の鑑定科への引き渡しが義務付けられている。とはいえ見えないんじゃなぁ……。



(気味も悪いし捨てるっていうのも一つの手なんだろうけど)



 まあ何かの拍子に他の人に見えるようになったら売りに出せるし、それももったいない。やはり部屋に飾っておくほうが見栄えもいいだろうか。


 そうなるとどこに飾ろうかと身を起こす。


 本棚はもうスペースがいっぱいだし、学習机に置くと宿題とかする時にちょっと邪魔か。収納にしまっちゃうか……いやでもせっかくなら普段から見える位置に置きたいな。


 そうなると箪笥の上……は高すぎて見えないし何かあった時に取り辛い。床は論外。となると……。



(まあここか)



 ベッドの隣に置かれたサイドテーブル。淡い光を放つ小さい和風のテーブルライトは小さい頃、お爺ちゃんの家で見かけてからその大人っぽさへのちょっとした憧れ、そして16歳の誕生日に買ってもらったお気に入り。


 そのそばに宝石を無造作に置く。……うん、いいんじゃないだろうか。ちょっと成金感はあるけど、宝石が光を反射して綺麗だ。


 ただテーブルの上に転がしておくのも風情が無いし、小物置きみたいなものが欲しいな。次の土曜日にどこか探しに行ってみようか。



(それにしても……綺麗だな)



 なんだか、この宝石からは目が離せない。もちろん離そうと思えば離せるが、引き込まれるような美しさで見ていて飽きない。


 お守りついでに持ち歩くのもありかもしれない。どうせ誰にも見えないなら盗まれる心配は無いし。


 そんなことを考えながら照明を落としてベッドに入る。母さんが入院してからというもの、恵里と自分の弁当を作らなければならない分自然と朝が早くなった。


 もちろん前から手伝ってはいたけど、こんな大変なことを毎日続けてくれていた母さんは本当にすごいしありがたいことだと改めて感じる。



(早く楽させてあげたいな……)



 ベッドで深呼吸すると、すぐに眠気が襲ってきた。楽勝だったはずのダンジョンでも、思ったよりも疲労が溜まっていたらしい。あっと言う間に微睡みに落ちていった。











 気づくと、真っ白な空間に立っていた。



(なんだ、ここ)



 一定の範囲を区切るように敷かれたものと一定の距離ごとに引かれた線以外には、陸にも空にも何もない空間。探索者やその候補が利用できるVRの訓練施設にかなり近い。


 そしてVR訓練なら事前設定したかかしが置いてある場所。



「……」



 首元に青く光る宝石が埋め込まれた、石でできた全身鎧。全高は……おそらく3mほど。町田ダンジョンで戦った装甲巨像と見た目は似ているがそれよりもサイズは小さく比較的細身。


 そして最大の違いは、右手に握った石製の幅広の大剣。提げているからサイズ感が掴みづらいが、多分俺の身長よりも大きい。


 ここはどこだ。あれはなんだ。そんな疑問が浮かぶ中、全身鎧がゆっくりと動き出す。



「え」



 鎧が1歩踏み出した次の瞬間には、大剣を振り被り既に目前。


 世界がスローモーションになるような感覚。俺の身体に向けて迫る大剣を無意識のうちに左腕でガードするように構える。


 ステータスによって強化された肉体で攻撃を受けた時特有の感触が一瞬。


 そのまま振り抜かれた大剣に腰を断ち切られ、意識が暗転した。













 気づくと、真っ白な空間に立っていた。


 一定の範囲を区切るように敷かれたものと一定の距離ごとに引かれた線以外には、陸にも空にも何もない空間。探索者やその候補が利用できるVRの訓練施設にかなり近い。


 首元に青く光る宝石が埋め込まれた、石でできた全身鎧。全高はおそらく3mほど。町田ダンジョンで戦った装甲巨像と見た目は似ているがそれよりもサイズは小さく比較的細身。


 ここはどこだ。あれはなんだ。そんな疑問が浮かぶ中、全身鎧がゆっくりと動き出す。鎧が1歩踏み出した次の瞬間には、大剣を振り被り既に目前。


 世界がスローモーションになるような感覚。無意識にかがもうと脚を落とす。


 ステータスによって強化された肉体で攻撃を受けた時特有の感触が一瞬。


 そのまま振り抜かれた大剣に脇から下で両断され、意識が暗転した。







 気づくと、真っ白な空間に立っていた。


 全身鎧がゆっくりと動き出す。鎧が1歩踏み出した次の瞬間には、大剣を振り被り既に目前。


 バックステップで大剣をかわそうとするも追いつかず、振り抜かれた大剣に腹部を抉り取られ、意識が暗転した。






 気づくと、真っ白な空間に立っていた。左腕を削り取られ、意識が暗転した。


 気づくと、真っ白な空間に立っていた。一撃目をかわすも、更に踏み込まれた右脚に左足を踏み潰され、回し蹴りで頭部を砕かれた。


 気づくと、真っ白な空間に立っていた。


 気づくと、真っ白な空間に立っていた。


 気づくと、真っ白な空間に立っていた―――――。

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