第5話:新宿

「恵太! こっち!」

「遅れてすまん!」

「いいってことよ!」



 日曜日。ライセンスを取得した日に決めていた通り、俺と彰吾は日曜日にのみ行われるという探索者用ガイダンスを受講しに来ていた。ガイダンスは一部の支部でしか開催されておらず、最寄りでは新宿支部に足を運ばなければならなかった。通学ラッシュで人混みには慣れているつもりだったが……。



「……すげぇ人だ」

「休日の新宿だからな。この中のどれだけがダンジョンに……おいあれ!」



 声をかけられて振り向く。尖った耳に長い金髪、装飾の付いた白木の弓に豪奢なドレス。アニメキャラの3Dモデルがそのまま現実に出てきたかのような非現実的な容姿。



「あれか、Pシーカーってやつか」

「その中でも大物だよ。アリエス・ケール……Aランク探索者で企業所属で登録者数800万人越えで、おまけに中の人も外の人も美人とくりゃあな」

「詳しいんだな」

「そりゃファンだからな」



 Pシーカー…パラレルシーカー。異世界(パラレルワールド)から自身と共鳴する魂を自身に「纏って」ダンジョンに潜る探索者。少し前から動画配信サイトでそういうのが流行り出してから、どんどん数を増やしているらしい。今じゃ全ノビシーカーのうち3割くらいはPシーカーなんだとか。


 まあようするにそういう設定で、3Dアバターを常時身体の周りに展開してロールプレイしながらダンジョン攻略や配信を行ったりしてるのが、Pシーカーってわけだ。そういうのはわかってても言わないのがお約束らしいが……あれか、遊園地の着ぐるみみたいな物か?



「まあここ2週間くらい新宿ダンジョンの150階で足止めを食らってて、そこにばっか挑んでるからちょっと批判が出てたりするんだけどね……まあストッパーとして有名な場所だし仕方ないってもんよ」

「……それで批判が出るのか?」

「配信者たるもの視聴者を飽きさせることなかれ……っていう奴もいるはいるからなぁ。声だけでかい連中はどこにでもいるもんさ。今日は5度目のチャレンジだし、そろそろ越えると思うぜ」

「詳しいんだな」

「そりゃファンだからな」



 そのアリエスさんは応援するファンにファンサ?を返して、ファンに囲まれながら新宿ダンジョンに向かっているようだった。だがそのファンがあまり動かないからか、アリエスさんはスタッフに道を作られてゆっくりと進んでいて、その影響で他の通行に支障が出ている気がする。……というか、ここから新宿ダンジョンと新宿支部は同じ方向にあるから、普通に邪魔だ……。



「……歩きにくいな」

「大人気アイドルみたいなもんだからねぇ……」






 結局、新宿支部に辿り着いたのはガイダンス開始の約10分前と、予定よりかなり遅れてしまった。



「いやー恵太ごめん! ワンチャンこの辺の時間に集合時間設定したら生で見れるかなーって……」

「そういうこと……」



 道理で集合するには早いな?と思ったわけだ……。



「にしても……」

「リアルで見るとすごいな……」


 新宿支部は遥か天空に伸びる新宿ダンジョンを中心に据えた吹き抜け構造で、1階はいくつものモニターがノビノビ動画と提携して色んなノビシーカーの配信を映しているし、それを見る客が買うための酒や料理を出す屋台もズラッと並んでいる。


 2階より上は遠征してきた探索者や観光客が利用する宿泊施設や、東京中から集められた商店やレストランの支店が立ち並んで複合商業施設になっている。見て回るだけで一日が終わりそうだ。



「どっちに行けばいいんだ?」

「3番受付だから……こっちっぽいかな」



 備え付けの地図を見てどうにか辿り着いた頃には開催3分前となってしまっていた。ここは広すぎる……。



「健崎惠太さんと、水野彰吾さんですね。まもなく開催されますので、こちらの通路から2番会議室にお入りください。お席の方は自由で構いません」

「はい」



 案内に従って入ったホールには既に30人近くが座っていた。これが全員探索者志望なのか……。



「学生じゃない人もいるな」

「ガイダンスの内容自体は共通で、学生だけ注意点が増えるんだろな」

「なるほど」



 見てみると女性や俺と同い年くらいの女の子グループもいるし、かと思えばかなり年配の方もいる。これが全員同業者になるのか。






 ガイダンスの内容自体は、ライセンスを取得した時にもらった資料に書いていたことに近いものだった。おさらいなんだろうけど、資料をあまり読んでない人への説明とかも含まれてるのか?



「……ガイダンスは以上で終了となります、お疲れ様でした」



 その声と同時に講師の人は裏手に離れ、受講者は各自でホールを出た。この後他で使うらしいからすぐ出なければいけないらしい。俺たちもさっさとホールを離れ、とりあえず大広間へ戻ってきていた。



「んー……! 肩凝った!」

「彰吾はどうするんだ? 早速ダンジョンに行くのか?」

「いや、今日はパス。そろそろアリエス・ケールの150層アタックが始まるからそれ見るのさ」



 折角でっかいモニターがあるんだしね、と立ち並ぶモニターを指差す。ファンらしいしそれは邪魔するわけにはいかないか。



「恵太は早速潜るのか?」

「早めに実戦経験積んでランクを上げたいから行くかな」

「なら一旦解散だな、応援してるぜ!」

「ああ、あとでな」



 親指を立てて去っていく彰吾を見送る。さて、それなら早速……。


 いや、一応……恐らく通らないだろうけど、何かの支援制度がある可能性もあるし一応受付で魔石の買取などができないか聞いてみたほうがいいか。

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