役立たずとドラゴン

 200体も狩っただろうか。

 少し異変を感じてきた。


「なぁ、少し暑くないか?」

 口を開いたのはアドルフだったが、その頃にはみな一様に同じことを考えていた。


「溶岩が近いのか?」

「いや、冷やしてこの暑さだと、通常だったらまいっちまうぞ」

 確かに、それにしては暑すぎる。


「どうする引き返すか?」

 アドルフが俺に質問するが、俺にはこの暑さの理由が思い当たった──。



 スケルトンロードからの情報で、この戦法を思い付いた俺は、ドラゴニュートが爬虫類であることを設定した。

 そして同時に、ドラゴニュートの上位。彼らを束ねる存在に思い当たった。


 やはりこの後に待ち構えているのはあいつしかいないだろう!


「レッドドラゴンだ」


「えっ?」

 その種族名にいち早く反応したのはプリンだった。


「そう、レッドドラゴン……プリンの村を焼いたのと同じ種族だ!」

 その言葉にプリンの気配が変わる。

 全身から怒りのオーラを沸き上がらせ、重さが無いかのように片手でドラゴンスレイヤーを持ち上げる。


「プリン、行くか?」

「行くわ!」

 その言葉にアドルフとローラレイも深く頷いた。


「ローラ、部屋に入ったらブリザードを強化してくれ、アドルフはプリンのサポートを!」


 俺の言葉にみんなの気が引き締まるのがわかる。


「で、お前は何をするんだ?」

「全力で逃げるとも!」

「いや、もう出てくんな」


 そんなわけで、最後と思われる広場へと足を踏み入れた。


 そこには俺が思い描いた通り、レッドドラゴンが鎮座ちんざしていた。口からは終始炎を吐き続け、部屋を冷気から守っているようだ。


「貴様らか、こんな姑息こそくな手段で我が同胞どもをほふっておるのは!」


 口を閉じる度にバチバチと火花が飛び散る。

 その口をこちらに向けるだけで、消し炭になりそうな気分だ。

 しかし、その炎をローラレイのブリザードが押し返しているため、部屋の温度は徐々に下がってきているようだ。


 短期決戦に持ち込ませないように、炎を強めたレッドドラゴンだったが、ふいに何かに気づく。

「お前の持っている剣、知っているぞ!」


 プリンは呼応するように自分が持つ剣を高く掲げて名乗りを上げた。

「私はお前の種族が滅ぼした竜の泉の村の生き残りだ、その恨み、身をもって感じなさい!」


「その剣で我の同胞を屠った過去忘れはせぬぞ! その報復に村が焼かれて何を憎むことがある!」

 そういえば、あの剣は過去にドラゴンを殺した剣だからまつられていたと言っていたのを思い出す。

 悲しい禍根かこんの連鎖でしかないが、当人にしてみれば原因などが問題ではないのだろう。



 これ以上は言葉は不要とばかりに、アドルフとプリンが地面を蹴る。

 地面がえぐれて、一瞬二人の姿を見失う。

 それはレッドドラゴンも同じだったのか、一瞬うろたえる様子を見せた。

 しかし、それ以上にうろたえていたのは、移動した本人達。

 彼らは攻撃対象を通り抜け、反対側で止まっていた。


「こんなに……」

「一気にレベルが上がりすぎて、力の加減ができねぇ」


 一瞬の間はあったが、すぐに二人は戦闘モードに入り、自分の感覚と体の動きを修正しながら剣を振るっていく。


「すごいです二人とも!」

 手から延々と氷魔法を垂れ流すローラレイも大概たいがいだとは思うが、ここは素直に喜ぶところだろう。

 そのために俺は鬼になったのだ!


 でもよ。


「俺全然成長感じてないんだけども?」


 もちろんあんな超人的なスピードも、ドラゴンスレイヤーを片手でブンブン振り回す怪力も無い。

 ちょっと試しに自分の頭二つぶんくらいある石を見つけて持ち上げようとしてみたのだが。


「ふんぬぅぅううぅぅ!」

 全く持ち上がる気配がない。


 そこにアドルフがぶっ飛んできた。

 天然の岩肌に身体が半分めり込んでしまうほどの衝撃で、普通の人間なら絶対に死んでる。

 しかし、そこから顔をしかめながらも這い出てくる。


「石に抱きついて、何やってんだフミアキ」

 俺をいじる余裕すらある。

 返答を聞く間もなく、地面をえぐって消えた。


「やっべ、おいてけぼり感ハンパネェ……」


 俺は岩を持ち上げるのを諦め、洞窟の一番はじっこで、文字通り指をくわえて見学をすることにした。



 観察していると、アドルフとプリンの動きは対照的に見える。

 素早さと死角を意識した立ち回りで相手を翻弄ほんろうするアドルフに対し。

 攻撃をドラゴンスレイヤーでさばき、ここ一番の踏み込みで一撃を放つプリン。


 その二人の攻撃の差に、対処が遅れてしまうのは仕方がないのかもしれない。



 尻尾を叩きつけるように振るうレッドドラゴン。

 それを脇に反らしながらプリンが耐えた。

 攻撃の隙に、アドルフはドラゴンの股を蹴って飛び、眼球目掛けて剣を振るった。

 ドラゴンもとっさにそれを手でかばうと、ハエを散らすように手を振った。


 その瞬間激痛が走ったのか、重くうなるレッドドラゴン。

 プリンの剣が、彼の尻尾の付け根に深く食い込んでいたのだ。

 切断する程ではないが、刃の幅50cmもあろうかという剣が殆ど入り込んでいた。


「貴様ぁ!」

 口から炎を吐きプリンを攻撃するも、一瞬遅く尻尾の裏側に隠れる。

 レッドドラゴンの鱗は耐熱性があるのだろう。遮蔽しゃへい物にするには持ってこいといえる。


破翔斬はしょうざん!」

 アドルフの声と同時に、ドラゴンの顎が下から打ち上げられる。

 骨に当たって完全に断たれはしなかったとはいえ、顎の肉は割れて血が滴っている。


「ドラゴンスラッシュ!」

 ここに来て必殺技のオンパレードだ。

 口が閉じたことで火炎が収まったところにプリンが飛び出す。

 そしてそのままドラゴンの横腹に向けて刀を一閃する。

 それは力ずくのフルスイングのように見えたが、腹の甲殻部分の継ぎ目をしっかり狙った繊細なものだった。

 刃渡りの半分ほどが身体にめり込み、そのまま止まるかと思いきや、強化されたプリンのパワーで一気に切り抜いた。


 レッドドラゴンは片ひざを付きながら斬られた脇腹をかばったが、それがいけなかった。

破突はとつ!」

 アドルフの剣がドラゴンの耳の中へと滑り込む。

 反撃を受ける前に、素早く剣を抜いて離れる。

 ドラゴンはその耳から大量の血を流し、一瞬放心しているように見えた。


「ドラゴンバスタァアアアア!」


 彼がその声に気付いて顔を上に向ける。

 しかしそこには覇気は無く、不思議なものを見るような目をしている。

 戦意を失い、現実を受け入れるのを拒んだ瞬間。


 プリンの剣がドラゴンの頭を二つに割ったのだった。

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