食いしん坊妃のプロローグ

朱宮あめ

第1話・一周まわった春


 目の前のテーブルには、宝石より眩しい菓子や果実が並んでいる。

 甘い餡がたっぷり詰まった包子パオズや、元宵団子げんしょうだんご、桃、瓜、梨、柚子、その他多くの世界中の珍しい食べ物たち。


 私はそれらの食べ物たちを、ひとつ、またひとつと口に運んでは、こっくんと飲み込んでいく。


「うんー! 美味しい……幸せ」


 頬に手を当てながら、私は口の中いっぱいに広がる桃の果汁を噛み締める。


「そなたは本当に花より団子だな」


 呆れた表情で卓に頬杖をつきながら、陛下が言った。けれど、その瞳には慈愛の色が滲んでいる。


「美味しいものがこんなにたくさん! 私今、世界一幸せな妃です!」

「そうか」


 苦笑する陛下に、私はにっこりと満面の笑みを返した。


 私の名前は、リー雪玲シューリン。帝国・ずいの若き皇帝、ツァイ颯懍リェン貴妃きひだ。


 これは、一庶民の私が貴妃に上り詰めるまでの序章である。

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