第四章 ~『アレックスとの密談』~


 無法者による畑の炎上事件の前日、クレアは王宮でアレックスとの会合を予定していた。ギルフォードも交え、気の張らない三者での談笑を楽しむ。談話室は笑い声で満たされていた。


「やっぱり、この三人だと心が休まるね」

「最近は騒がしいことばかりでしたからね」

「俺も久しぶりに楽しかった……でもそろそろ本題を聞かせてくれ。俺を呼び出した用件はなんなんだ?」


 多忙の二人が時間を作ったのだ。友好を深めるだけが目的でないことは、アレックスも察していた。


「実はルインたちが麦畑を燃やす計画を立てているとの情報を手に入れてね。信頼できる筋からの情報だから、確度も高い。食い止めるのを叔父さんにも協力してもらいたいんだ」

「俺の部下を貸せばいいんだな。精鋭を貸してやるから、大船に乗ったつもりでいろ」


 アレックスの部下の一人一人が一騎当千の猛者ばかりだと、ギルフォードも知っている。だからこそ、彼に任せれば安心だと確信を抱く。


「でも、本命はきっとアレックス様ですね」


 クレアが心配そうに呟く。それだけでアレックスも意図を察した。


「俺が唯一の証人だからだな」

「はい。アレックス様がいなければ、ダリアン様が捨て子だと証言できる人がいなくなりますから」

「これで話が繋がったな。実はダリアンから密会したいとの連絡がきた。しかもわざわざ王都にある俺の屋敷まで来てくれるそうだ」


 帝国の皇子が屋敷に出向くとの申し出を、理由もなく断ることは難しい。アレックスは受けざる負えないと了承を伝えていた。


「アレックス様のお屋敷を密会の場所に選ぶとは思いませんでしたね」

「断れないようにするためだろうな……あとは、証拠隠滅を兼ねて、口封じを終えたら、屋敷を燃やすつもりなのかもしれないな」

「ありえますね」


 ダリアンが捨て子である物的な証拠を別に持っている可能性もある。そのすべてを根こそぎ消滅させるために、屋敷ごと消し去るつもりなのだ。


「スタンフィールド公爵領にもお屋敷がありますよね」

「護衛を付けるから問題ない。それに本命は王都の屋敷だ。なにせ共和国から帰還した俺の住居でもあるからな」


 もし証拠があったとしても、わざわざ別の場所に移動させはしないはず。そう予想したからこそ、ダリアンも待ち合わせ場所に王都の屋敷を指定したのだ。


「それで、叔父さんはダリアンに勝てるの?」

「奴は魔法も剣もかなりの腕前だそうだ。おそらく俺に近い実力の持ち主だろうな」

「下手な味方は邪魔になるかな」

「当日は部下や使用人たちには暇を与えるつもりだ」

「それが賢明だね」


 ダリアンも密談を要求している。屋敷に人がいなくても気にならないはずだ。


「ダリアン側も一人で来るだろうな」

「間違いなくね。なにせダリアンは事情を他人に話せない。叔父さんと対峙するなら必ず一対一の状況を望むだろうからね」

「もし負けて死んだら葬式は盛大に頼むぜ」

「それは御免被りたいな。叔父さんには長生きして欲しいからね」

「ギルフォード……」

「だから必勝の策を用意したんだ」


 クレアとギルフォードは事前に計画を立てていた。相手がダリアンなら油断もできない。アレックスを守り抜くための計画を聞かされ、彼は舌を巻く。


「さすがだな、二人とも。これなら俺の葬式はいらないな」

「ですね。長い争いの決着を付けましょう」

「ああ」


 三人は視線を交差させる。その瞳に宿った意思は、絶対に負けないと強く輝いていた。


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