第四章 ~『村の襲撃★ルイン視点』~
『ルイン視点』
王国と帝国の国境沿いにある小さな村。牧歌的な雰囲気に包まれ、村人たちは麦の収穫に勤しんでいる。
その様子を、少し離れた丘の上からルインが観察していた。彼の背後にはゴブリンの軍勢とデビルフォックスが控えている。
「わざわざ俺が危険を犯して出向いたんだ。必ず成功させろよ」
国境を超えるために、かつてのルインは大鷲を利用していた。しかしギルフォードに討たれ、移動手段をなくしてしまった。
そのためルインは商人に扮して国境を超えることにした。荷台に魔物を乗せて運ばなければならないため、検分されれば、その瞬間に警備兵に捕縛されてしまう。
帝国でも有数の大商人から看板を借りていたおかげで、荷台の調査を回避できたが、一歩間違えれば破滅を迎えてもおかしくはない。
だがルインは危険を冒してでも、動かなければならなかった。ゴブリンは知能が高いため遠隔から指示を出すことができるが、デビルフォックスはそうはいかないからだ。
単純に暴れるだけならともかく、臨機応変な対応が求められる場合、ルインが直接魔物に指示を出す必要があった。彼としても苦肉の策だったのだ。
「さぁ、手筈通りに進めろ」
ルインの指示でゴブリンとデビルフォックスは丘を下る。だが向かう先は別だ。前者は食料の備蓄庫を、そして後者は小麦畑を襲撃した。
まずデビルフォックスが小麦畑を無慈悲に荒らす。大きく遠吠えを上げることで、村人の注目を一手に集めた。
村を守っていた警護の兵たちも集まってくる。しかしデビルフォックスは強力な魔物だ。剣や槍を向けてこそいるが、腰が引けてしまっている。
「デビルフォックスが注意を引き付け、その隙にゴブリンどもが動く」
警備が手薄になった食料の備蓄庫から、ゴブリンたちは小麦袋を運び出す。周囲を警戒する役目を用意し、小麦袋を持ち上げる腕力が足りないなら二体で協力して運搬するなど、知能が高いゴブリンだからこそ、連携が取れた動きを発揮していた。
「やはりゴブリンは便利だ」
個としての力は脆弱だが、下手な人間より知恵が働き、使役の力で裏切る心配もない。彼の能力はゴブリンがいてこそ活されるのだった。
「ただ便利すぎるが故に野生のゴブリンが減っている問題はいつか解決せねばならないな」
ゴブリンは帝国に多く生息していた。しかしルインが使役のために乱獲したため、帝国の外へと逃げ出し始めていたのだ。
知能の高さ故に危機察知能力も高い。乱獲が裏目に出てしまったため、持ち駒を増やせないことだけが悩みの種だった。
「まぁいい。十分すぎるほどのゴブリンを既に従えている。当分の間はこれで支障もない」
小麦袋を運びながら、丘を登ってくるゴブリンたちをルインは出迎える。無事、仕事をやり遂げたことを確認し、デビルフォックスにも逃げて良いと合図を送る。
去っていくデビルフォックスを村人たちは安堵した表情で見つめている。彼らはまだ知らない。食料の備蓄庫が空になっていることを。本当に絶望するのはこれからだった。
「良く戻ったな、ゴブリンたちよ。書き置きは残してきただろうな」
「グギギギギッ」
「よろしい。それでこそ俺の部下だ」
食糧庫に残した書き置きには、『女王の治政に対する稲荷の神の怒りをここに』と記している。デビルフォックスの存在も合わさり、その言葉には信憑性を宿すだろう。
「小麦を奪われたのはクレアのせいだと村人たちが思いこめば評判を落とせる。さらに奪った小麦さえあれば、第一皇子から高い価格で購入する必要もなくなるのだ。まさに一石二鳥の作戦。俺は自分の才能が恐ろしい」
ルインは計画の成功に酔いしれながら、次の村へと向かう。彼の口元には邪悪な笑みが浮かんでいたのだった。
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