第四章 ~『帝国から借りた力』~
ウィリアムと協力関係を築いてから三か月が経過した。王家所有の麦畑に足を運んだクレアは、目の前に広がる黄金の麦穂に驚かされていた。
「これが帝国の魔法使いの力ですか……」
ウィリアムが貸してくれた魔法使いたちは、雨を降らしたり、土を耕したりするだけでなく、稲の成長を促進する上級魔法をも扱えた。
その結果、短期間で大きな実りを得られたのだ。諸外国の中で、食料生産量第一位の帝国の力は伊達ではなかった。
「こんな力があれば食料に困ることはありませんね。正直、ウィリアム様が羨ましいです」
「帝国は人材育成に力を入れてきたからね。人材の質が僕らより先に進んでいるのも仕方ないことさ」
隣に立つギルフォードはそう口にしながらも、瞳に驚愕の感情を浮かばせていた。たった三か月でここまで麦を成長させた実力が、彼の想定以上だったのだ。
「これだけの小麦があれば、国内の需要は十分に満たせそうですね」
「むしろ余ってしまうだろうね」
「ウィリアム様からの輸入量を減らすわけにはいきませんし、困ったものですね」
王家所有の小麦畑だけで生産量は足りているため、不要な輸入を止めても問題ない。だがこの結果はウィリアムから借りた魔法使いで得た成果のため、恩を仇で返すような真似もできなかった。不当な価格高騰がなければ、このまま輸入を続けるしかない。
「帝国だけじゃないよ。国内の市場に流せる小麦にも限りがある。すべて流すと価格が崩壊して、農夫の人たちに迷惑をかけるからね」
「では生活に困っている貧困者に無料で配るのはどうでしょう?」
「悪くないね。それなら小麦価格が暴落することもないし、貧しい人たちが救われることになるからね」
「でもこれだけでは消費しきれませんよね」
「国内では限度がある。外国に売るしかないね」
小麦が外貨を稼ぐ手段になるなら悪い選択肢ではない。クレアが真っ先に思い浮かべた輸出先は帝国だった。
「ウィリアム様は王国の小麦を買ってくれるでしょうか?」
「買わないだろうね。それに帝国の周辺国への輸出も難しいよ。それはウィリアムの商売敵になることを意味するからね」
「では共和国はどうでしょう」
「それはありだ。共和国は帝国から距離があるからね」
共和国はわざわざ高い輸送費を掛けてまで、遠方の帝国から仕入れることはしていない。商売相手として可能性がある相手だった。
「共和国は自国で賄えていると聞きます。王国の小麦は売れるでしょうか?」
「商機はあると思うよ。なにせ共和国の小麦は、。量はたくさん採れるけど質の悪いものが多いからね。その点、僕らには突出した製粉技術がある」
雑味のない小麦粉を生み出す製粉技術を天狐から教わったおかげで、質の高さには自信があった。
さらに王国は共和国との戦争に備えて、国境沿いまでスムーズに食料を運ぶための陸路を整備している。
その道を使えば、輸送費も抑えることができる。いつもより少し高いが、質の高い小麦なら買ってもいいと判断する者も大勢いるはずだ。
「それに貿易が盛んになれば、共和国との関係性も改善するかもしれない」
「軍事演習も止めてくれるかもしれませんね」
「そうなれば、叔父さんも王都に帰ってこれる。僕らにとっては百人力さ」
ダリアンとの争いに勝つためにも、アレックスは重要な戦力だ。それに二人にとってアレックスは、血が繋がっていなくとも、父親代わりの存在である。傍に居てくれるだけで心強かった。
「叔父さんは元気にしているのかな」
「時々ですが手紙が届きますよ。変わらず元気そうです」
「クレアには送っていたんだね。僕の方にはさっぱりだ。やっぱり娘同然のクレアは特別なんだね」
「私が娘ですか?」
「クレアの婚約破棄の話を聞いた時、凄い剣幕で怒っていたよ。娘同然のクレアに酷いことするなってね」
「ふふ、そうなのですね。心配されるのは悪い気はしませんね」
血の繋がった父親もアレックスのような人物なら良いのにと期待してしまう。二人は彼と会えるのを楽しみにしながら、小麦畑の視察を続けるのだった。
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