第二章 ~『優秀な側近』~
コレットを側近として採用してから数日が経過した。高倍率を突破してきた人材なだけあり、さっそく、獅子奮迅の活躍をみせた。
「コレット様は仕事が早くて凄いですね」
執務机に積まれていた仕事の山は、コレットに渡すと、瞬く間に消化されていく。そのすべてが正確で早い。ギルフォードから借りているベテランの文官たちにも負けないほどの能力を発揮していた。
「スタンフォールド公爵家の文官時代に鍛えられたおかげですね」
「領主のアレックス様は厳しかったですか?」
「いえ、お優しい人でしたよ。人望もあり、部下からも好かれていました。もし私が定食屋を開業する夢がなければ生涯勤めていたかもしれません……その優しさは私が辞めてからも変わりませんでした。アレックスさんは潰れる直前まで私の定食屋に食べに来てくれたんです」
「ふふ、アレックス様らしいです」
「いつも大量の食事を頼んでくれて、おかげで厨房は大忙しでした」
「コレット様の仕事の早さは、厨房でも鍛えられたのでしょうね」
定食屋は腹を空かせた客でいっぱいだ。一秒でも早く料理提供が求められるため、スピードが命になってくる。厨房という戦場で戦ってきたからこそ、コレットの能力が磨かれたのだ。
(素晴らしい拾い物をしましたね)
嬉しくて、つい微笑んでしまう。それに気づいたコレットは不思議そうに首を傾げた。
「どうかしたのですか?」
「いえ、コレット様は優秀だなと」
「そんなに褒められると照れてしまいますね……さて、私の仕事は終わりましたので、料理でも作ってきます。クレアさんも召し上がりますか?」
「実はお腹がいっぱいで……」
「それは残念です。またの機会にクレアさんを満腹にしてみせます」
「楽しみにしてますね♪」
元気に駆けだそうとするコレットだが、部屋の外に飛び出そうとしたタイミングでギルフォードが姿を現す。
「どうやら僕が手伝う仕事はなさそうかな?」
「コレット様が片付けてくれましたから」
「優秀な人を採用できたようだね。僕も嬉しいよ」
ギルフォードは柔和な笑みをコレットに向ける。すると彼女は時が止まったかのように固まってしまう。
「……どうかしたのか?」
「し、失礼しました。突然の美男子との邂逅に呼吸が止まりました」
「そ、そうなんだね。優秀なだけでなく、ユーモアもあるようだ」
コレットはあまり美男子に慣れていないのか、緊張でガチガチに固まっている。
(面接のときは平気そうに見えたのですが……)
受かるのに必死で緊張している暇さえなかったのかもしれない。そう思うと、クレアも彼女の事が可愛く見えてくる。フォローするため、救いの手を差し伸べた。
「お兄様はコレット様に御用だったのですか?」
「いや、クレアに伝えたいことがあってね。サーシャについてだ」
「帝国への縁談が進んでいると聞いていましたが、もしかして進展があったのですか?」
「実はそうなんだ。明日、旅立つ予定でね。もし君が望むなら、一緒に見送りにいかないかい?」
無理強いをするつもりはないとのニュアンスを含めた問いだった。
(サーシャは私の婚約者と浮気していました。ですが……)
帝国に嫁ぐと、簡単には会えなくなる。運が悪ければ今生の別れとなるかもしれない。
「見送りには私も付いていきます」
「いいのかい?」
「ここで行かないと、後悔しそうですから」
それに仕事なら優秀な側近のおかげで上手く回っている。一日くらいなら留守にしても構わないとの判断もあった。
「では一緒に領地に戻ろう。久しぶりに兄妹二人っきりだね」
「ですね♪」
ギルフォードとの里帰りに、クレアは期待で胸を躍らせる。自然と笑みも浮かぶのだった。
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