007.初めてのダンジョン(拡張)

「それじゃ、ダンジョン広げるよ」


言いながら、入口の前を中心に左右へと通路を伸ばしてみる。


質量保存の法則はどこへ行ったって感じに穴が空いて伸びていくその光景は摩訶不思議だったけど、まあ魔法の力でなんやかんやあるんだろう。


そのまま暫く待つと、なにかに突き当たるような感覚に遮られて通路が伸ばせなくなる。


「これで限界かな?」


かなり伸ばした感じはあるけど、実際距離でどれくらいか分かりづらいな。


「メジャーでもあればいいんだけど、流石にそんなの無いよね」


そもそも、この世界の距離の単位が分からないし。


「んじゃ、自分で歩いて計測しますか。ルビィも着いてきてくれる?」


「主様のお望みのままに」


言って歩き出す前にひとつ気づいて隣の彼女を見る。


「ルビィ、明かりとか出せる?」


「はい、これでよろしいですか?」


言うとルビィがかざした手から空中に光の玉を生み出して周囲がパッと明るくなる。


「もうちょっと光量落としてもいいよ」


ルビィお願いして、明るさを少し先まで見える程度に。


「主様、これの目的をお聞きしてもよろしいですか?」


これというのは、もちろんルビィの作った明かりのこと。


そもそも、俺もルビィも暗い中でも物が見えるので、周囲を明るくしたせいで一周回って照らされている範囲より先が見辛くなっているのが現状だ。


「うん、いい質問だね。一応理由はあるんだけどルビィはなんでだと思う?」


「そうですわね……、逆に見辛いことに意味がある、ということですか?」


「大正解。俺とルビィは暗くても見えるけど、多分これから来る冒険者はそうじゃないでしょ? だから冒険者と同じ条件で歩くことには意味があると思うんだよね」


実際前の侵入者の持ち物に松明とかあったしね。


客を迎えるなら実際に客の視点に立ってみるっていうのは大事なことだ。


作ってる側からしか見てないとわからないことっていうのも良くあるし。


実際テーマパークのアルバイトで客側として体験した時は色んな発見があってそれをレポートにして提出する、なんて業務をしたこともあったなー。


「まあ探索者を客として扱うのが正しいのかはまだなんとも言えないけど」


「なるほど、勉強になりますわ」


なんだか偉そうに説教してるみたいで嫌だけど、これから二人でダンジョンを作っていかないといけないので許してほしい。


「そんじゃ行きますか。一、二、三……」


ダンジョンの入口前、スタート地点に目印を書いてから一歩ずつ数えていく。


「百五十八、百五十九、百六十、到着~!」


ということでダンジョン拡張限界の片側が160歩程度。


俺の歩幅が60センチ程度だから、おおよそ100メートルくらいかな。


そいや、自分の容姿が全く別物に変えられている可能性も無くはないか? まだ鏡とかで確認もしてないし。


つまり俺が超絶イケメンになっている可能性も……、無いですよねわかります。


まあ着ている服とかもそのままだから変わんないと思うけどね。


ともあれ、普通に歩けば数分で歩き切る程度の広さしか無い訳だけど、一先ずこの広さで冒険者を撃退しないといけないわけだ。


大変そうだなー。まあがんばるけど。


「それじゃ一回戻ってそのまま向こうの奥までの距離を測ろうか。ルビィは俺の歩数を数えてくれる?」


「主様の歩数でよろしいですか?」


「うん、俺は秒数数えるからよろしくね」


本当は俺がルビィの歩調に合わせてエスコートするべきなんだろうけど、今はデートじゃなくて計測なので許して。


ちなみに俺は漫画の影響でストップウォッチを1分ぴったりに止める遊びに一時期ハマってたので体内時計にはまあまあ自信がある。


数え出しを1からじゃなくて0からにするのが正確性を上げるコツね。


ということで向こうまで歩き終え、結果は320歩、160秒、200メートルほど。


通路の幅を横2メートル、壁を1メートルとしたら66本通路を通せる、と考えればかなりの広さだけど、冒険者が20組入ってきたら……、えーと200×200で40000平方メートルに20組だから2000平方メートルに1組。40×40=1600で50×50=2500だから大体45メートル四方に1組という密度になってしまうと考えるとあんまり余裕がない感じもする。


ダンジョンの中で冒険者がばったりなんて絶対トラブルの元だし、できるなら暗闇と静寂で雰囲気も出したいしね。中が煩いダンジョンとか絶対興ざめだよ。あと宝箱なんかも程々に設置したいし。


あんまり簡単に他の冒険者と接触しないようにも構造を工夫しないとなー。


一番簡単なのは直線通路で分断することだろうけど、それはそれで防衛上の問題が出てくるかな。


「ともあれ、まずは実際にダンジョンを組んでみようか」


「はい、主様」


ということで、一先ず内部の形状をいろいろと試してみる。


「大部屋とかも作れるんだね」


「巨大な魔物などを配置する場合は、広さがあった方がその実力を活かせるかと」


「折角だからドラゴンとか置きたいねえ」


まあそれを召喚するのに必要な魔力は膨大なんだろうけど。


「天井の高さも変えられるんだ」


「一つ上の階層まで直接繋ぐこともできますわ」


「落とし穴といえばダンジョンのロマンだよねー」


落とし穴からのモンスターハウス。素敵な響きだ。自分がやられたら絶対キレるけど。


「段差とか作っても強度は保持されるのかな?」


「よほど脆い形状で作らなければ問題ないかと」


「なら床をピラミッドを並べたような形にしたら最高に楽しそう」


「あまりやりすぎて、冒険者に敬遠されないように気を付けた方がいいかもしれませんわね」


「たしかに」


もしも床が全面ピラミッドだったら俺なら見た瞬間に帰るわ。


こうやって、別の視点から意見を出せるのも二人いるメリットだなあ。ありがたい。


「そうだ、ルビィも魔法って使えるんだよね? 爆発する魔法とか使える?」


「ええ、戦うための術もいくつか身に着けていますわ」


「んじゃ、ちょっとあれに当ててみてくれる?」


といって指差すのは少し先の所に生成した薄い壁。


とりあえず、壁の耐久力を測定しておきたいという意図の物だ。


「それでは、失礼いたしまして」


ルビィが腕を伸ばして魔力を集めると、それがバスケットボール大の火球となってひゅんと壁へ飛んでいく。


それから一瞬を置いて、轟音と共に爆風が頬をチリチリと焼く感覚が通り抜けた。


あっ、髪が暴れてるルビィもワイルドで素敵。


なんて感想はともかく、その爆心地となった壁に近寄って状態を確認してみる。


「表面は焦げてるけど、傷は殆どついてないね」


コンビニの中央で爆発したら壁まで滅茶苦茶になりそうなくらいの威力があったんだけど、これには驚きだ。


「これなら壁は薄くても問題なさそうだ」


「はい、ですが余り薄くしますと拡張性に問題がでるかと」


「たしかに」


壁を1センチにして設計した場合、あとから通路の幅を広げようとしたら通りを全部作り直す羽目になる、なんてことは十分に考えられる。


「ありがとルビィ。今度使える魔法の種類教えてくれる?」


「はい、ぜひ主様のお役に立ててくださいませ」


頭を垂れる仕草も美しい、なんて感想は秘密ね。


それから二人で通路を作ってみながら感想を言い合って、これから造る迷宮の形を試行錯誤していく。


入り口と出口が別の場所になる二重渦巻型の通路とか、往復で移動距離を水増しする通路なんかも作ってみたけれど、そういう形の通路を活用するかを考えるには他の罠や魔物との組み合わせを工夫する必要がありそうだった。


「結構弄ったけど、これ以上は他に出来ることを把握してからの方が効率いいかな」


「そうですわね」


ということで通路を触るのは切り上げて、次は罠を弄ってみることにした。

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