005.作戦会議!

「それで、なんの話だっけ」


「これからどうするかという話だったかと」


「そうだったそうだった」


入口閉じたから急ぐ必要はないし、ルビィとのコミュニケーションも大事ではあるけれど、それはそれとして最初から働く気を見せないと見限られそうだし気を付けよう。


「それじゃあまず目標とやるべきことを考えようか」


「やるべきことですか?」


「そう、俺は情報を整理しなくても覚えていられるほど記憶力はよくないし、問題に直面してすぐ解答策を見つけられるほど賢くもないからね」


言ってて悲しくなる台詞だけど、本当のことなんだからしょうがない。


元居た世界じゃ成績も平凡の極みだったしなぁ。


こっちの世界でだって俺より賢い人間なんて山程いるだろう。


そういう時に役に立つのが予めマニュアルを作っておくことである。


新人用のマニュアルがないアルバイトは大抵地雷。これ豆知識ね。


「それじゃあまず、目標」


「世界一のダンジョンをつくること、ですわね」


「そう。そのために何が必要か」


床から生やして成型した板に、壁を変形させる要領で『世界一のダンジョン』と書き込む。


「まず強いこと、ですわね?」


「そうだね、コアを破壊されないための防衛力は必須かな。ちなみに、魔力を集める手段は人間を殺すことだけ?」


「いえ、魔力は他の生き物を殺すことでも得られますわ。ただし、普通の動物では期待できる程の量は集まらないかと」


「んじゃ、ダンジョンを牧場にするのは無しかな」


目一杯まで拡張した大部屋に草原作って動物放し飼いするのもそれはそれで楽しそうだったけど。


「魔力はそれを内包する量が多い人間ほど、獲得できる量も多くなりますわ」


「つまり強い冒険者を呼び込んで殺すのが短期的には一番楽ってことね」


「更に魔法などを使った際に副次的に発生する魔力を回収することも出来ますわ。一応ダンジョンが魔力を回収できる範囲に人間が居れば、微量ですが自然に消耗される魔力を回収することも出来ます」


「なら、少なくとも冒険者と戦う必要があるという意味でも戦力が必要かな」


一応生物がいるだけでも魔力は増えるらしいけど、そっちは効率が悪いようなので人を集めるテーマパークにする、みたいな方法は今回の場合現実的ではないかな。


「ちなみに、俺が魔法で使った魔力を回収することは出来ないの?」


「魔法が使用された際に回収できる魔力は、それを行使された際に溢れる余剰分になりますが、主様の魔法はダンジョンが内包する魔力がそのまま魔法に還元されますので余剰分の発生はありませんわね」


「なるほどー」


ちなみに魔法使いだけでなく、前衛職が武器を振るう時などにも魔力は消費されるので、そちらでも回収できるとのこと。


つまりこの世界の戦士は筋力から導き出される力学をこえて殴って来るっていうことか。こっわ。


「んじゃ次。ダンジョンに強さは必須だけど強ければいいと言われればそうでもない。理由はわかる?」


「そうですわね、冒険者を呼び込むための何かがなければそもそも強くても意味がないということでしょうか?」


「正解。危ないだけで魅力がないダンジョンなんて誰も来ないだろうからね」


黒板には『世界一のダンジョン』から線を伸ばして、『強いダンジョン』『魅力的なダンジョン』と繋げる。


「それじゃあ強いダンジョンに具体的には必要なことは?」


「まず戦力ですわね」


「それと罠や地形とか、攻略を難しくする仕組みも組み合わせればより強いダンジョンになれるかな」


「冒険者を疲労させるための仕掛けなども有効かと」


「確かに、階層が増えれば食事とかも必要になるだろうしね」


超絶ざっくりと1層攻略するのに1時間と仮定したら、100層なら4日くらいかかる計算になるし。まあこっちの世界の時間の単位は知らないけど。


「じゃあ次に魅力的なダンジョンとは?」


「まずは金銀財宝でしょうか」


「そうだね、あとは切れ味の良い剣とか魔法の込められた指輪とか別の価値を付与した物も考えられるかな」


「あと攻略することによる名声ですわね」


「そっちはあんまり強調しすぎると攻略されるリスクも比例して上がるだろうから気を付けないとだけどね」


あくまで攻略される気はないので、安全に稼げる方法が確立できればわざわざ強い冒険者を呼び込む必要もない。


まあ規模が大きくなっていけば自然とそんなことは言ってられない状況になっていく気もしてるけど。


「そいやダンジョンのコアが破壊されたら俺が死ぬんだっけ。もしそのまま持ち去られたら?」


「ダンジョンの結界の範囲外まで持ち去られた場合はダンジョンとコアの接続が消失、すべての機能と共に主様の命も停止してしまいますわ」


「その場合ルビィは?」


「わたくしも主様の使い魔ですので同様ですわね」


「大事件じゃん」


「まずわたくしが死ななかったとしても、主様が死んでる時点で大事件ですわよ?」


「そっかぁ……」


「ですから、くれぐれも危険なことはご自重くださいませ」


「はい」


じゃあ本当に一蓮托生ってことだね。


という訳で、まず一番の目標はこれ。


『出来ることを把握しよう。モンスター編。トラップ編。物理的財宝編。技術的財宝編』


『この世界の情報を集めよう。経済編。政治編。宗教編。種族編』


『弱い冒険者を誘い込んで撃退してみよう』


書き出した板は内容を忘れないように、このままダンジョンコアの前に配置しておくことにした。


「んじゃやることも決まったし動き出そうか」


「はい、主様」

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