002.ルビィ
「ご無事ですか? 主様」
その美女が男の胸から手を引き抜くと、支えを失ったその死体がドサリと地面に落ちる。
気付けば剣を持っていた二人の男も地に伏して、その下には血溜まりを作っていた。
そのまま血塗れの右手を差し出され、その異様な光景にも関わらず彼女の容姿に見惚れてしまう。
長い黒髪は蛇のように揺らめき、真紅の瞳はまるでそれ自体が光を持っているかのように怪しく輝く。
いや、もしかしたら本当に妖しい力で輝いているのかもしれない。
胸は他に見たことがないほど豊満で、パックリと胸元が開いた服は煽情的だ。
その姿は悪魔、もっといえば淫魔だと言われればなるほどと頷きたくなるくらいに美しかった。
「立てますか?」
「ああ……」
「よいしょ」
拍子で返事をしてから、差し出された右手を握るとくっと引き上げられる。
その力は細い腕からは想像もできないほど強いが、同時に男三人を素手で殺した現状を考えれば納得かもしれない。
やっと立ち上がって正面から見たその女性は俺よりも少し身長が低かった。
「助けてくれてありがとう」
「礼には及びませんわ、主様」
「それでその、主様って?」
「わたくしは、魔導書を通じて主様に呼び出された使い魔ですの」
「魔導書って、アレ?」
「左様ですわ」
アレというのは近くの床に落ちていた本である。どう見ても不自然なあれは魔導書だったらしい。
「特に何かした記憶はないけど」
助けてもらったことに文句などあろうはずもないけれど、それはそれとして俺が呼び出したという部分には若干懐疑的だ。
なにせ何もしてないどころか即死しそうになっただけだもんね。
それに使い魔って言ったら猫とかフクロウとか小動物が普通なイメージもあるし。
「通常でしたら魔導書を手に取った時点で契約が結ばれ、そこでどういった使い魔を呼び出すのか決めていただくのですが、今回は主様が助けを求めていらっしゃいましたの、略式で契約という形にさせていただきましたわ」
「なるほど。おかげで助かったよ」
「いえいえ、正式な契約ができず申し訳ございません」
なるほど理屈は通った、かな。
「つまり、その姿も俺が望んだってこと?」
「正しくは、主様の迷宮主としての行いを支援するために、最適な形を魔導書が読み取らせていただいた結果の姿、ということになりますわね」
なるほど美人秘書。
俺の性癖ダイレクトに生成された美女ではなかったのが救いだけど、それはそれとして迷宮運営するなら美人秘書がほしいなーって深層心理を読み取られたのは一種の羞恥プレイ感があるな。
豊満な胸も、長い脚も、大きく開いた胸元もスカートに入った深いスリットも全部俺の願望だって言われるとなに望んでんだって突っ込まれそうで怖いけど、もうやっちゃったものは仕方ない。
あんなエロいドレス、アカデミー賞の授賞式でしか見たことねえよ考えたの誰だよ、俺だよ。
「申し訳ございませんが、この身を無かったことにして新しく使い魔を作り直す、ということはできませんのでお許しください」
「ああうん、大丈夫。その姿に文句はないよ」
「それならよかったですわ。わたくしは主様の僕ですので、なんでもお命じくだしさい」
「なんでも?」
「はい、なんでもですわ」
言って、彼女が艶かしく笑う。
「それじゃあ、おっぱい揉んでいい?」
「主様がお望みとあらば、ご満足いくまで」
ゴクリ。
「うん、やっぱりやめとこうか」
「あら、そうですの?」
「それより先にやるべき事がありそうだしね」
別に童貞だからビビったとかそういうわけではない。
「かしこまりましたわ。ではそれはまた次の機会に」
うん、次の機会にね。
「それじゃ、えーっと……」
ここからまたしばらくはお話タイムになると思うけど、その前に彼女に聞いておきたいことがあった。
「今更なんだけど、名前聞いてもいい?」
「わたくしは主様に生み出された使い魔ですので名前もございませんわ。許されるのなら、主様が名をつけてくださいませ」
「センスを期待されても困るぞ」
「主様から頂いたものでしたら、どのような名前でも文句は申しませんわ」
丸投げされるのもそれはそれでつらいなー。
「それじゃあ、ルビィで」
「ルビィ……、良い響きですわね」
「それならよかった」
真紅の瞳が魅了されそうになるほど美しかったから、なんて安易な理由だったけど及第点はもらえたみたいだ。
「じゃあ、これから末永くよろしくルビィ」
「はい、主様」
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という訳で新連載です。
良ければ評価、ブクマ等よろしくお願いします!
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