第2話 Enemy Within


既に日は落ち、月明かりに僅かに照らされたルート62。

その一角ではネルソンとオクターブの襲撃を受けて、崩壊したコンボイから積荷の乗せ替えが行なわれていた。


そんな様子を横目に見ながら、その実行犯であるネルソンは愛車のボディに体重を預けて、今はすっかり高級品となった瓶コーラを味わっていた。

すると、その様子が気に入らなかったのか、作業中の男が言う。


「何そこで休んでるんだ、お前も働け」


これに対し、ネルソンはコーラ片手に中指を立てた。

当然相手は機嫌を損ね、詰め寄って胸倉を掴む。

しかし、ネルソンは追加で一口コーラを煽ると口を開く。


「俺は給料分働いた。後片付けはお前ら雑用係のお仕事だ、違うか?」


そして嘲るようなトーンで言い放った。


「俺とオクタンがいなけりゃ、お前は自分の食い扶ちも稼げないゴミなんだからさ……その術を知らない奴が粋がるな」

「てめぇ……!」


激高した男は怒りに任せて拳を振り上げる。

しかし、すぐに仲間たちに止められた。

実際、ドライバーであるネルソンに手を上げることは、彼らにとってもマイナスになってしまうからだ。


「あはは!!……まぁ頑張りなよ、諸君」


ネルソンは笑いながら腰を上げると、2本のコーラを取りに向かった。

しかし、その先で一人の男と鉢合わせする。

彼はフィクサーと呼ばれる、いわゆる仲介屋であり、作戦の取りまとめや人員の確保などを行う人物だ。

ネルソンは彼が好きではなかったので、横を素通りしようとした。

しかし、フィクサーはそれを許さない。


「相変わらず、お前は仕事が雑だ」

「……はぁ?」

「横転したトラックの積荷はひどい有様だ。取り分の見直しが必要になるだろう」

「あんたは作戦内容を知っててGoサインを出した。なら、その言い分は通らないよな?」

「だから“雑”だと言っただろう。お前の仕事が100%でない以上、報酬もこれに応じて減額されるのが筋だ」

「話が違うぜ、おっさん……」


2人の間に険悪なムードが流れるや否や、次第に人が集まってくる。

その多くはフィクサーの取り巻きだ。


「立ち話もなんだ、場所を変えよう」


フィクサーがそう言うと、取り巻きがネルソンの肩に手を置く。


「触んなよ」

「大人しくした方が身のためだ」

「触んなっつただろ!!」


ネルソンは叫ぶと腰からピストルを抜く。

それと同時に、周囲の取り巻きが一斉に銃口を向けた。

張り詰めた空気が場を支配する。

この、均衡を破ったのは第三者だった。


「ちょっと済まない、道を開けてくれ」


オクターブだ。

彼はフィクサーの取り巻きたちをかき分けると、ネルソンの銃口を手で覆う。


「ツレが失礼を働いた事を謝罪する。だが、貴方の話にも矛盾点があるのは俺の気のせいだろうか?」


そう言うと、オクターブはボイスレコーダーを取り出し再生ボタンを押した。


『つまり、先頭の車両をワイヤーで強制的に止めて、後続車両を事故らせるって事さ』

『そういう事だ。問題ないか?』

『あぁ』


オクターブは音声を止める。


「つまり、貴方は後続車両を突っ込ませる所までは了承している訳だ。横転させたのはこちらの不手際だったとしても、積荷に多少のダメージが残ることはハナから承知の上だった。違うか?」

「ふん……」

「俺がトラックを横転させたことにより、積荷に必要以上のダメージが与えられてしまったのは事実だろう。だが、どこからどこまでがその影響なのか、今となっては最早わかりようがない」

「オクターブ、お前は何が言いたい?」

「わかりようがない責任の所在を、報酬の分け前という明確な数字に反映させるのはアンフェアである……という事だ」


この発言を受けて、周囲がざわめきだす。

フィクサーは片手を上げてそれを鎮め、オクターブに問いかけた。


「であればお前が考える落としどころは何だ?ここまで言ったからには、当然対案を用意しているのだろうな」

「勿論。……俺とネルソンが帰りの護送を担当する」

「オクタン!そんな必要ないって!こいつらが勝手に難癖付けてるだけだ!」

「落ち着けネルソン。俺たちの仕事はリピーターで持ってるんだ。先行投資のような物だと思えばいい」


相棒であるオクターブにこう言われてしまっては、ネルソンもこれ以上強くは出れない。

こうして、2人は予定外の残業を強いられる事になった。

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