【23】明日、隕石が降ればいいのにと俺は言った(バルバルさん) 総評
【23】明日、隕石が降ればいいのにと俺は言った(バルバルさん)
https://kakuyomu.jp/works/16818093086171301192
(今回は特にネタバレ注意)
(先に本編を読むことをお勧めします)
⬜️全体の感想
▷タイトルについて
>明日、隕石が降ればいいのにと俺は言った
ストレートで悪くないのですが、語呂はイマイチ。
私なら「明日、隕石が降ればいいのに」にします。
▷キャッチコピーについて
>そして出会った彼女は隕石を降らそうとして
これはイマイチを通り越して、ダメな部類。
もっといいキャッチがいくらでもありそうです。
いい感じの台詞がありましたし、それを抜き出すとか。
▷あらすじについて
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入試に憂鬱な俺こと善真は、空に向かって隕石よ降れと言った。
そして、世界が嫌になった彼女こと茜は、空から隕石を呼びよせた……のかもしれない。
これは、俺たち二人が恋人になって、そして、第一志望に俺が落ちるまでの物語。
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別に間違ってはいませんが、「そこじゃない」感が強い。
試しに私が書いてみます。
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「明日、隕石が降ればいいのに」
第一志望の試験日前日、俺はコンビニの帰り道で奇妙な女子高生と出会う。
彼女は空き地に寝そべり、毎日十時間、隕石を呼んでいるという。
本気にしなかった俺だが、「巨大隕石が地球に接近中」とニュースで知り……
これは、俺が彼女の恋人になって、第一志望に落ちるまでの物語。
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……いや、あんま変わらないか?
▷文章について
文章はまだまだですね。
文法的なチェックが甘いですし、もっさりした部分も目立ちます。
表現力も物足りないですし、とくに人物像を描く上で欠かせない、表情や仕草、台詞の表現が力不足で、作者の想定する物語を読者に伝えきれていないように感じます。
読者の疑問の先回りは、前半はわりと出来ているのですが、中盤から後半(恋愛モード)に入ってから、恋模様のスピードに比例するかのように疑問が置いてけぼりになります。終盤、舌足らずな部分の幾つかは伏線だったことがわかり、それ自体はよいのですが、拾われなかった謎も多く(冬の野外で十時間寝て平気とか)、主人公の劇的な恋の進行についても、きっちり説明されているようには思えません。
思うに前半はきっちり考えながら書いていたのに対し、後半はアイデアとノリを優先して勢いそのままで書いてしまったのではないかと。
ですがそれでは、いきなりデートとか指輪とかジェットコースター的な展開を仕掛ける主人公や、それに対するヒロインの気持ちの変化が描き切れておらず、バットは当たれどボールの芯を捕らえていない感じが続きます。
二人の気持ちの何を隠し、何を明らかにするのか。そこの取捨選択はストーリーテリングを踏まえての文章力の領域です。意識しているのは感じられますが、まだまだ不完全です。
加えて、この作品は結構jなどんでん返しが幾つか存在します。それらの破壊力を最大限生かすためには、緻密な文章を組み立て、読者に疑問も引っ掛かりも持たせず、最後にドカンと行くのが最善のはず。勢いだけで書くのではなく、勢いにブレーキをかけることなく、仕掛けを計算しておくことが必要です。後からチェックして直してもいいんですし。
最後の場面の言葉遣い、締めくくりの表現は秀逸でした。
「終わりよければ全てよし」では必ずしもないですが、読後感のよさ、何となくまとまった感があるのは、最後の文章の威力ありきでしょう。
ここら辺の読者の感情の機微を掬うバランス感覚は、褒められる点だと思います。
▷ストーリーについて
正直、一読目はかなり高評価でした。
ヒロインが死ぬ展開は完全に予想外で、説明も納得いくもの。終わり方も個人的には救われた気分で、「世界を終わらせる」ことの意味や茜自身の決断や世界の捉え方など、読み終えた後、けっこう長い間考え込んでしまったくらいです。その意味での評価は変わらず、ストーリー自体は評価しています。
それが何故、二読目でちょっと落ちたかといえば、読み込むと結構アラが見えて来たからですね。一読目は勢いで読み進めるので、細かな矛盾は脳内で適当に補完してしまうので、「あれ、傑作じゃね?」となったわけで。じっくり読み込むと「案外、目立つ穴が開いてるな」と気付くというか。
ストーリーはこれで完成しているので、改善するとすれば細部の整合性や描写、より効果的にラストを生かせるような設定、構成の変更になるのでは。
思いついたものを書いていきます。
>主人公の気持ちについて
ながら感想でも触れましたが、主人公は常識人として登場し、後に家族を怪獣に奪われて無為に生きていると反面します。世界が終わっても別にいいと思っていて、それ故に茜を止めようともしない。ここまでは秀逸な設定です。
問題は、恋愛に至るきっかけのなさと早さです。
主人公は茜を最初はただの変人だと考えていて、デートに誘う前日でさえ「ちょっと興味がわいてきた」です。この間を埋める何かは絶対必要で、それがなければ読者は想像で埋めることになり、「これは自分を好きにさせて隕石を止める戦略か」などと考え始めます。後々、この想像は否定されますが、かといって「何故デートに誘ったのか」はさっぱりです。「死ぬ前に彼女が欲しい」にせよ、それが茜である必要性はないわけですから。変人だし。
とはいえ、「地球滅亡までに恋人になるスピード展開で、そんなトロい段階は踏んでいられない」という作者の言い分もわかります。
「複数の問題を同時解決する答えをアイデアと呼ぶ」は宮本茂(マリオ作った人)の名言ですが、この場合のアイデアを考えてみましょう。
私は、ここの場面が改善ポイントかと。
>「もしかして、私にそう願わせるために、あんな彼氏の真似事したの?」
茜がこう考えるのは自然で、読者ともシンクロします。
本文では主人公はデコピンして否定し、「そこまで暇じゃない」「隕石はどうでもいい」と言いますが、これによって「デート=好意先行」と読めるので、「何故好きになった?」となるわけです。
なので設定を、
・善真は当初、茜を心変わりさせるためデートに誘った。つもりだった。
・しかしデート中、思わぬ茜の笑顔を見て、本当の気持ちに気が付いた。
・善真自身は、世界が滅んでも構わない。
その自分が「世界を救う」目的で茜を誘う方が、よく考えればおかしい。
むしろ逆で、茜を誘うために「世界」を理由にしていたのだ。
という感じにして、それを茜に伝え、納得してもらう感じで。
要するに「好きになってからデート」でなくても成立するパターンと、その説明ですね。最後まで茜に隕石を止めろとは言わない部分含めて。この点は作品上、とても高く評価しています。
他も色々ありますが、ながら感想に細かく書いたので割愛。
一言で言えば、「恋愛パートをもっと繊細に扱う」ことですね。
>母親について
茜は主人公と触れ合うことで「世界を滅ぼす」ことをあきらめた(結果的に)わけですが、母親の存在はどうだったのかと気になります。かなりよい母親として描かれていましたが、唯一の肉親は同じように「死んでほしくない」対象ではなかったのかと。外界を断じた「彼女の世界」に、母親は何故いなかったのか、ですね。
ここは色々考えられますが、改善案としては、
・母親は消してしまう。彼女は身寄りがなく施設との折り合いも悪い。
・母親との関係を悪くする。
家での母親のもてなしを削り、自室で話す展開。
茜が一方的に嫌っている感じ。母から茜への愛情はある。
帰り際に母親に呼び止められ、二人で過去を話して補う。
母親との関係悪化の理由は多くは語らない。
「あの子が私を嫌うのも仕方ないんです」などで言葉を濁す。
施設だと主人公の境遇のインパクトが減るので、やはり関係悪化かな、と。
▷キャラについて
どちらも魅力的だとは思いますが、若干矛盾も感じるので、そこら辺の整合性が取れればなおよし。
>善真
「滅亡しても気にしない」というメンタルと破壊的恋愛アプローチで突き進む主人公。前者は境遇から納得ですが、後者の理由が弱いのはストーリーで書いた通り。
デート前まではいたって平凡な常識人だったので、余計にギャップがあります。
前半時点での人の好さや最後まで茜を止めようとしなかった点を高評価。
反面、ラスト前のつきあってる場面での思考には矛盾(死んでもよい人生がそうでなくなった)があり、その点に自ら触れていればなおよかったかな、と。
>茜
まず声を大にして言いたいのは、登場時に「わりと可愛い」と描写すること。
恋愛ものである以上、これは義務。必須。デューティ。
これがあるとないでは、脳内で芦田愛菜と和田アキ子くらい違ってきます。高校生なんて「割と可愛い」があれば恋愛に持ち込める生き物なので。
広場に寝てた時の性格はマジで奇人過ぎるので、「可愛い」がないと和田アキ子をデートに誘う展開に(脳内で)なってしまいます。
この冒頭の性格は掴みとしてはアリなのですが、後判明する境遇と整合性が感じられません。世界を滅ぼしたいと心から思ってる人間が、初対面の相手に朗らかに物乞いするとかおかしいでしょう。最後まで奇人キャラでいくならともかく。
ここは前半の奇人モードを後半に吸収できるレベルにして、例えば善真が「寒くないのか」「腹減らないのか」と突っ込んでも「うるさい消えろ。私は人間なんて信じない」という対応の方がらしいかなと。コンビニ飯もたかるのではなく、主人公が見るに見かねて、くれてやる方向にして。
こういう感じの初対面なら、光速で主人公が恋するのもわかる感じです。
もちろん「割と可愛い」前提で。和田アキ子やミキタカは勘弁。
デート以降はひたすらにチョロインでしたが、まあこれは理解できますし可愛いのでいいかと。結局最後まで「隕石を止める」ことはなかったわけですが、善真の好意が無意味だったかと言えばそうではなく。その意味では、後半はセオリーを外しつつも泣かせる、名キャラクターだったと思います。だから前半直してくださいね。
▷読後に思ったこと
「隕石を落とす」というのはスイサイド、つまり「オレごと滅べ世界」なんですね。
つまり自殺以上の憎悪とつらさを茜は背負っていたわけですが、少なくとも最後はその一部を許すことが出来た。つまり「ただの自殺」までつらさを減らせたわけで、それは善真のおかげなわけです。そう考えると、悲劇に見える終わり方にもいくばくの救いがあったのかな、とも思います。死後の茜も善真も「生きたかった」とはついに言いませんでしたしね。それはもう覆りようのない悲しみで、確かにそういう性質の想いはこの世に存在するのだと思います。
怪獣や宇宙人に壊されていく世界は、それこそ特撮同様、社会の様々な問題や自然破壊の暗喩だとも読めます。善真でなくとも「今すぐ世界が終わってもわりといい」と考えながら生きている人間はわりと多い気がします。もちろん茜のように、心の底から「隕石」を待ち望む人種も。何が正しいかは別として、そういう感情や状況は存在するわけで、ライトな物語でありながら案外ディープなテーマに触れているなと考えてしまいました。たまたまかもですが。
二人がそうだったように、海獣や隕石は個人では止められず、社会の仕組みや巨大な権力すらお手上げ状態です。それでもすべては人から始まるもの。茜が隕石を呼べたように、善真が完全ではなくともそれを止められたように。そこにある種の希望、もしかすれば救いがあるのかもしれない……などと考えるのはポジティブでしょうか。それでも人は生きていかなければいけませんからね。善真がそうしたように。
……なんてことを考えました。シャワー浴びながらw
▷アドバイス回答について
>・特に意見が聞きたい部分。
> ヒロインはもっと深堀した方がいいか?
キャラでも書きましたが、まず最初に「割と可愛い」を書きましょう。
過去や母親、過程については、多くを語ると重くなりすぎますが、もう一垂らしくらいはあった方が個人的に好みですかね。物語に納得感を出す意味でも。
> 終末感をもっと出した方がいいか?
> (ヒロインを謎な存在にしたかったのと、終末感を出し過ぎないように書いたつもりなのですが)
これは、今のままでいいと思います。ナイスバランスかと。
わりとライトで雑な内容から、あのパンチが急所に入るからこそ効く面はあるので。
⬜️総評
・世界滅亡目前のタイパ最重視恋愛
・ストーリーはプラス、文章はマイナス
・案外深いテーマと意外な展開、読後感のよさ
文章は全然なのに、やけに心に刺さるものがありました。
読後、しんみりしながらシャワーを浴びたのは、「アルジャーノンに花束を」を読んで以来、久しぶりな気がします。いや、あの名作並みとは言いませんが。
こういうのを才能とかセンスというのかもしれません。
絶賛はしませんが、お勧めしておきます。ご一読あれ。
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