【14】終末世界と砂糖菓子(汐海有真(白木犀)) 総評

【14】終末世界と砂糖菓子(汐海有真(白木犀))

https://kakuyomu.jp/works/16818093085117029515



⬜️全体の感想


▷タイトルについて

>終末世界と砂糖菓子


語呂よく見栄えするのですが、タイトル詐欺といってよい致命的な問題があります。


ショートケーキは「砂糖菓子」ではありません。

もしかして広義では含むのかと思い調べましたが、よくてカステラくらいでケーキは含まれません。


そもそも砂糖菓子と言われて思いつくのは金平糖や干菓子、キャンディの類で、これなら「壊れやすい」印象に見合いますが、ケーキは明らかに異なります。ま、ケーキだって壊れやすいですが、硬質なイメージとは真逆ですしね。


壊れやすさや甘さは、主人公の理想についての暗喩かもなので、あまり効果的な使い方ではないですが一応アリとします。


というか硬質なイメージ、この話には必要ない気がします。「終末世界とショートケーキ」でも成立しますよね。あとは語呂の問題というだけで。ここはケーキの種類を変えるとかすれば何とかなりそうですし、砂糖菓子にこだわる必要自体がないと思われます。私ならモンブランとかにしますね。


あと「終末世界」もどうかと思います。

別に終わりを迎えた世界の話じゃないですよね。

ここは「世界平和と〜」でよいのでは。


▷キャッチコピーについて

>かみさまは微笑んだ。不気味なほどに柔らかい微笑みだった。


引用としてはいいのですが、表現がイマイチなので及第点。「私なら」はながら感想を参照。


▷あらすじについて

>世界を救いたかったちっぽけな少女と、世界を救える真っ白なかみさまの話。


少女はともかく、かみさまの説明は詐欺気味。

私ならうーんと、


[世界を救いたかったちっぽけな少女と、願いを叶えにきた真っ白なかみさまの話。]


くらいですかね。

この形式にこだわらなければ、他の案も思いつくんですが。


▷文章について

上手さはないですが手堅い印象。

簡単な話ということもありますが、読んでわからない箇所はありませんでした。ひとまずはよいかと思います。


意味不明なのは「砂糖菓子」の部分だけですね。

まあここは文章力というより作劇部分の問題の象徴という気がしますので、後述。


▷ストーリーについて


二読してなお、感想は「ふーん」の一言です。

何をどう受け止めればいいのか、或いは受け止めるべき内容が希薄すぎるのか。あれです。鹿せんべいを食べたような気分。


ジャンルはホラーということですが、まず怖さは全然ありません。

かみさまの皆殺しとかがハイライトかもですが、この手の「三つの願い」系では古典レベルのネタで「またこれか」という感じ。三つの願い元祖の「猿の手」を読んでくるべきです。あらすじならネットで拾えるし。


それ以外のテーマやメッセージもありそうな雰囲気だったので色々考えてみましたが、さしたる収穫もなし。ケーキと世界平和の繋がりも怪しいですし。これは書き方の問題で、作者的には秘めたテーマがあるのかもですが、私は読み取れませんでした。


そもそも最後にケーキを願うところも、「何故?」との思いが強く、理解できません。それまでの主人公の葛藤には共感していたのに。

更に言うと、最後にケーキを食べる展開も謎。もはや神は消えているのに何故。


「得体の知れない相手に渡されたものを食べる」という部分には生理的な恐怖を感じますし、いいアイデアだと思いますが、これは計算不足。ここは演出次第でもっと恐怖を深化できるはずです。


私なら以下のように手を加えます。

・最初、かみさまに願いを聞かれた主人公はまるで信用せず、「お腹いっぱいケーキが食べたい」と言う。しかし「本当にそれでいいのか?」と聞かれ、慌てて「世界平和」に願いを変える。

・人類皆殺しの描写を血ではなく「全人類がケーキに変わった」に変更する。人間サイズのケーキが崩れ落ち、無垢なクリームや赤いイチゴを屋上にばら撒く様子を「残酷に」描く。

・主人公は恐怖のあまり、三つ目の願いをどうしても思いつかない。かみさまの助け舟で当初の願い「お腹いっぱいのケーキ」を提案され、かろうじて頷く。

・両手いっぱいに出現するホールケーキ。かみさまが笑顔で見つめる中、食べないわけにもいかず、涙ながらにケーキを完食する。

・かみさまが消えたあと、胃から立ち上る甘い香りに「世界平和」を思い出し、主人公は屋上から嘔吐する。


ホラーメインで強化するならこんな感じですかね。

これなら主人公の発言の唐突さが減りますし、「生理的恐怖」が加味されて怖さが増すかと。

あと、「世界平和という甘い考えへの皮肉な回答」という方向でもテーマを仕込めそうです。触れ方を慎重にする必要はありますが。


他にも「最後の願いは「神の消滅」と答え、世界平和の一助となった自分に少し自信を持つ」エンドとかも考えましたが、まあこれはホラーじゃないですね。


こうしていじってみると、素材としては悪くない気がしてきました、


▷アドバイス回答について


>・特に意見が聞きたい部分。

ぱっと思い付かないので、おまかせでお願いします〜!!


いい機会なので、前回伝えそびれた汐海さんの欠点を書いておきましょう。


貴方の作品には深みがありません。

簡単に言えば一貫したテーマやメッセージ、それを活かす為の仕掛けがないのです。口当たりはよくとも、感動に至らないのはそれが原因です。「浅瀬でパチャパチャやってる」感じなんです。

「終末世界と砂糖菓子」というタイトルは、まさにその象徴です。


これを改善するには、物語を書く上で目的意識を持つことです。感動と言っても「泣かせる」だけではありません。「心が動く」のが感動です。どんな物語で、どの場面で、どんな台詞で読者の心を動かすのか。緻密な計算が必要になります。


或いはストレートに思いのたけをぶちまけるという手法もありでしょう。いずれにせよ「何かを伝えたい」という本物の熱意が作者にあらばこそです。


汐海さんの作品はこれで三作以上は読んでいます。対外的に評価もされ、問題点は少なくなりましたが、熱量を感じたことは一度もありません。既存のラノベやアニメの影響を再出力した作品、という印象です。端的に言えばオリジナリティの欠如。例え下手でも熱意やこだわりは伝わるものですが、そこが根本的に欠けているのです。


ここの部分を埋めることができなければ、貴方は遠からず壁に突き当たります。サブカル作品から取り入れた表現だけでは、いずれ限界が来るので。「何を書いても同じ」に感じ始めたら、スランプの兆しです。そうなる前に考えておくべきでしょう。


とはいえ、こればかりはアドバイスできない領域ではあります。情熱や狂気は、自身の奥底からしか絞り出せないものなので。一読者が安易に直せるものではないのです。ガッチリしたテーマを組んだ上での問題なら、いくらでも改善が思いつくのですが。


「ストーリーについて」で例に出した「猿の手」なんかは好例で、恐怖とテーマが共存しています。まあ古典の名作に倣えとは言いませんが、教科書としては理想的ではないかと。


もし来年の参加があるなら、そこら辺を課題とした作品を期待しておきます。


⬜️総評

・終末世界も砂糖菓子もないタイトル詐欺

・ネタが安易。ホラー要素は物足りず。要改善

・「深みがない」という根本的問題への対処が必要


暇つぶしに読む「スナック菓子小説」としては成立していますが、それ以上ではない印象。いや、インパクトが薄いのでスナック未満かも。


汐海さんもこれで三年目です。

そろそろ次の段階を目指してよい頃合いだと思います……そちらの進化を望むなら、ですが。


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