【11】この気持ち、解は無し。(裕貴) 総評


【11】この気持ち、解は無し。(裕貴)

https://kakuyomu.jp/works/16817139556720267126



⬜️全体の感想

・タイトルについて

悪くはないんですが、内容と繋がってるかと言うと疑問です。

このタイトルから、あの内容をイメージできないというか。

もっと内容に見合った、いいタイトルがあるように思います。


夕刻は黄昏(たそがれ)時とも言い、「誰そ彼=相手が誰かわからない」ことに由来します。

今作では内容的にも場面的にもぴったりなので、ここら辺を絡めて、改めてタイトルを考えてみてはどうでしょう。



・文章について


>文法

相変わらず、無茶苦茶ですね。

直す気がなさそうなので、前回も今回も最低限の指摘しかしていませんが、せめて小説中でルールを途中変更するのはやめましょう。読者が混乱します。


あと、勘違いならすみませんが、台詞が梶野式(行をまたがず、改行して並べる)な感じですね。台詞の改行率が高い。

それ自体は構わないんですが、あれをするなら、改行時に一マス開けましょう。でないとかえって見苦しくなるので。


「有村グループに一ノ瀬さんが入っただろ?それで、みんなで遊びにいこー!

ってなって、せっかくだしぃ男子も誘ちゃうーってなって。やっぱり男子だったら翔輝くんが良いよねーってなったみたいなんだよー」

 ↓


「有村グループに一ノ瀬さんが入っただろ?それで、みんなで遊びにいこー!

 ってなって。せっかくだしぃ男子も誘ちゃうーってなって。

 やっぱり男子だったら翔輝くんが良いよねーってなったみたいなんだよー」


みたいな感じですね。

まあスマホ向きじゃないので、徹底する必要もないですが。

一応、梶野式のリンク張っておきます。

https://kakuyomu.jp/works/16817330654869504941/episodes/16817330655257639335


>描写について

格段に成長しましたね。驚きました!

とくに夕焼けの場面や記憶を失った帰り道の辺り。

一ノ瀬の感情を細かく捕らえようとしたり、背景と主人公を心象を重ねたりは、前作を知る自分から見れば、信じられないほど上手くなったように感じられました。


それに、ハイライト的に先の場面を前出しする構成。

あれも挑戦的で面白かったです。効果もかなりのもので、ああいう演出の試みをするようになったのかと感心しました。


もちろん、描写の技術はまだまだです。

ですが、書きたいもののために挑戦していこうという気概がはっきりと感じられる点を高く評価します。

先は長いですが、続ければ確実に上達します。書ける小説の幅も広がるので、創作の楽しみも増していくはず。その頃にはラノベ枠から踏み出すことになるかもしれません。


ただし。今回、描写の量にむらが感じられました。

特に前半、遊園地くらいまでは、描写はほぼなく、前作同様のスカスカぶりでした。だから余計に描写が増えたことに驚いたわけですが、全体のバランスを考えれば、他の場面でも描写を増やしておくべきでしょう。特にヒロインである一ノ瀬の描写はほぼ台詞頼りで、仕草や表情の描写がないため、解像度が低く思われます。友人二人の描写ももう少し欲しいところです。遊園地も手抜きではなく、もう少しキャラクターの様子を描いていい気がします。(前半のバランスだけ見れば、あれでもいいんですが)


要所に描写を集中させるというスタイルもありますが、流石に今作は極端すぎてアンバランスに感じました。必要な描写だけでいいので、バランスを考えて書いていきましょう。


>スピード感について


前半と後半、記憶喪失前後のスピード感の違いも、極端すぎると思いました。前半はライトな少女漫画ノリなのに、後半はミステリータッチというか。(告白辺りはまた戻った)


スピード感を変えること自体は悪いことじゃないですが、前半があまりにゆるゆるすぎるのに対し、後半は必要な描写をすっ飛ばすスピード展開なので、極端すぎます。多分前半と後半で時間が空いたのが原因かなと想像しますが。


もう一度最初から通して読み直して、バランスを見直してください。

前半をもう少し詰めるくらいでちょうどいいはず。文字数も減らせるし一石二鳥です。かなり無駄が多いですからね。


後半はしっかり書けてるので、無理に削る手入れはいりません。

ただ最後の場面は勢いでドガドガ書いてるので、多少なり理性をもって削るくらいでちょうどいいかなと。告白場面だし、勢いに任せる熱さもありっちゃありなので難しいですが、明らかに冗長な部分も多かったので、そこだけ意識して。



・内容について


率直に言って、よく出来てると思いました。

細かい穴は言い出せばキリがないですが、主軸の物語と回収方法、魅力的なシーン作り、自然なキャラクターの言動などは、前作に比べて遥かにパワーアップしています。


前回は「こうした方が面白い」という大筋の改善案でしたが、今回は本当に面白かったので「こうすればもっと面白くなるのに!」という細部の調整を考える気持ちになれました。いや、大したものです。


とりあえず、気になった細部と私の考える改善案を書いておきます。


>一ノ瀬の呪い

とりあえず名前がないので呪いと呼びますが、

「誰かに好きになられると、両親以外の全世界から忘れられる」

という設定ですね。


この設定自体は大変魅力的で、素晴らしいアイデアだと思います。

両親を抜いたのも、まあご都合的ではありますが、荒唐無稽にしないギリの線を考えているなと好感が持てます。


遊園地の占い師の力で実は呪いが止められたという解決案も、一周回って意外なもので、納得もできました。逆に予想しづらいですよアレはw



反面、問題に感じた点は以下の通り。


1.一ノ瀬の性格設定


かなり陽キャな一ノ瀬ですが、小学校時代から呪いにかかり、おそらくは転校を繰り返していた彼女が、男受けする性格なのは普通に考えにくい話です。


不幸を繰り返し、両親に迷惑をかけぬよう、周囲を気遣う一ノ瀬なら考えるでしょう。

たとえば男受けの悪い服装や好かれそうにない態度、あるいは消極的な言動などに自分を寄せていくのではないかなと。ようするに「モテたら不味い」わけです。


「私はみんなのアイドルだから」とか、超矛盾した台詞です。(あれは現時点でも違和感ばりばりなので、何とかすべき)


なので、より自然な展開を意識するなら、一ノ瀬は地味目の、意図して目立たない少女、或いは刺々しい人を寄せ付けないタイプなどの性格にすべきです。その上で、主人公と仲良くなり、打ち解ける中で今の性格になっていく、という風に描いた方が、好きになっていく過程も描けて一石二鳥ではないかと。


2.「面影を追う」という設定が機能してない


この設定だと、好きになって忘れた時点で、相手が引きずることが確定しています。

一ノ瀬は相手の幸せを願ったりしてますが、設定上、手の施しようがなく、祈るしかない。

でもよく考えたら、転校しない限り、一ノ瀬は傍にいて、また好きになることも十分あるわけですよね? 

そこら辺、作中では言及されていないので、もやもやが残ります。実際、主人公は再会していきなり「好き」とか言い出しますしね。あれはネックレスが効いてたからとも考えられますが、一目惚れでない主人公の反応としては(普通なら)矛盾してるわけで。


なので私なら、呪いの設定をこうします。

「誰かに好きになられると、一ノ瀬は世界から忘れられる。

 忘れた男は再び好きになるが、そのたびに忘れるため、次第に面影を引き摺るようになる」


好きな相手に忘れられるだけなら、対応はできる。

(ここを強調するなら、世界範囲を弱めてもいいかも)

でも、何度も何度も忘れられ続けると、相手を不幸にしてしまう。

だから、一度忘れられた時点で、転校すると決めている。


という感じの方が、一ノ瀬の切なさが際立つかと思いますし、再開時にいきなり好きという主人公のムーブも納得できます。


ああ、二度目に再開した夕焼けの時に、「もうすぐ転校するから最後に見に来た」とか言わせておいた方がいい気がします。



3.世界から忘れられる


真面目に考えると、かなり厄介な設定です。

世界から忘れられるということは、社会から忘れられるということで、生活に支障をきたすのは間違いありません。学校ですら、教師やクラスメイト全員に忘れられたら、真面目に考察すれば大騒ぎになるでしょう。両親が覚えてるのでセーフ、とは一概に言えません。


ここら辺、規模が大きすぎて、記憶喪失後の教室の描写が出来なかったりと、裕貴さんも覚えがあるはずです。


この設定のもう一つ問題は、世界に忘れられる危険性が、一ノ瀬の悲恋より遥かに大きすぎることです。つまり「好きな相手に忘れられる」以上の大問題なので、悲恋の重みが減ってしまう。これはよろしくありません。


なのでむしろ、呪いの効果は程よく減らすべきです。

「呪いの効果は不幸を呼ぶが、両親が忘れないので耐えられないほどではない」「それより好きな人が不幸になって欲しくないから転校を選ぶ」くらいが、相応しいかなと。


私的には「好きになった相手と、共通の友人」が忘却対象ぐらいがちょうどいいかと。つまり遊園地に行ったくらいのメンツですね。これなら「友人を失う」くらいの痛みで済みますし、教室での描写も男友達二人が「あいつ誰だっけ?」「知らねー」くらいで済みます。あそこは周囲の反応も見たくなるのが普通ですからね。


それにこの設定にすれば、「あちこちに友達を分散して作っておけば、一部の友達に忘れられても誰かしらは残る」と一ノ瀬が考えるでしょうし、陽キャムーブやアイドル発言にも筋が通ったりしますね。これはこれでありかと。


友人に忘れられても、なんとかやっていける。

でも「好きな人を不幸にしたくない」から、離れることを選ぶ。

この方が恋愛ものとしては胸に来るんじゃないかと思います。


ただまあ、「世界から忘れられる」という壮大さに、魅力を感じるのも事実。どちらがいいのか、悩ましいところですね……



4.終盤の畳み方。


感動的な場面だけに、畳み方をミスってる感じでもどかしかったです。


もうかなり長文になってしまったので、簡潔に「私なら」を書きます。



夕日の場所で一ノ瀬と再会した主人公は真実を教えられる。

この世界で僕だけでいい。僕だけは彼女の事を覚えておきたい。

そう考えた主人公は、失った記憶について尋ねる。

二人の思い出を懐かしそうに数える一ノ瀬。

(この辺りは作品そのままで十分)

ゴーカートのことを教えられ、チケットのことを思い当たる。

(作品のまま)

一ノ瀬がネックレスを取り出す。

それを見た主人公に変化。頭の中の霧が晴れていく感覚。

まだまだある二人の思い出を、涙目で語っていく一ノ瀬。

唐突に主人公が、その思い出に合の手を入れる。

(ここも作中の「きのことたけのこ」でよい)

「な、なん、、で。おぼ、え、てるの。」

ここで、主人公、記憶を鮮明に思い出し始める。

(おにぎりはファミマ。だけど、チキンはローソン。

 から、僕の好きな人。まで)

──後は、元の展開に同じ。


要するに、ネックレスの効果で主人公が記憶を取り戻すタイミングを、一ノ瀬が思い出を語ってる途中にするわけです。

元だと語り出す前に思い出してるので、感動が半減してますから。

主人公のくそ熱い独白(おにぎりはファミマ。~僕の好きな人。)も、「なんでおぼええてるの」の後の方が絶対に効果的です。


ぜーはー、久しぶりに熱く語ってしまった。



⬜️総評

・文章は成長著しい。特に描写を評価。

・ストーリーもおおむね良し。細部の詰めだけ注意。

・全体的にまだ不安定だが、将来が楽しみ。


ううむ、今回で一番驚かされたかもしれません。

完成度重視の私が「普通に面白い」と思ったんですから。

まだまだ甘いところはありますが、それ以上に成長に目を奪われました。

ここまで書けるようになったなら、文章もしっかりと文法を守ることを考えていい時期かもしれません。それだけでも殻が破れるはずです。


是非、この調子で小説を書き続けてください。

来年、さらなる成長が見られること、心から願います。

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