【02】紅の贖罪(木村比奈子) 総評


【02】紅の贖罪(木村比奈子)

https://kakuyomu.jp/works/16817330661182904130



⬜️全体の感想

・タイトルについて

物語の全体像がわからないので、保留します。

多分わるくない気がします。


・文章について

海外翻訳小説を思わせる、重みのあるいい文章です。

この手の文章は小難しくなりがちですが、そうならずバランスが取れてる点も評価高いです。今後もこの感覚を維持していただきたいところ。

表現力も豊かで、特に心理描写が巧みだと感じました。


ただ、読み始めに想像していたより、穴は多かった印象。

なまじ平均点が高いだけに、思いがけない穴に躓いて、あれっとなることが何度かありました。表現を捻るあまり、芯を外してしまったのでは。


センスは十分にあると思うので、読者視点から何度か読み直し、穴を塞ぐことを習慣づければ、この辺の欠点はわりと簡単に克服できるかと思います。


・内容について

物語の全体像はわからないので、現時点までの問題点と、導入部分としての評価を。


ここまでのストーリーの問題点は大きく二つ。


一つはフランクの死後、誰も次の襲撃を想像せず、牧師に相談もしない点。

この展開はどう考えても無理があるので、改善すべきだと思います。


具体的には、葬儀の場面で牧師を登場させ、村人に抗議させる。

牧師にはこの時点で出せる情報を出させるが、まあ基本的には無策で終わるでしょう。

この時に牧師息子も登場させていいかもしれません。

結婚させられる相手がどんな奴なのか、読者は興味をもっているはずです。

この後、葬儀を終えた酒場のシーンに繋げれば、元の路線に戻せるかと。


もしくは、前の狼の襲撃を、もっとずっと昔、何十年も前にすることです。

ルビーも生まれる以前の話なら、そこまで危機感を持たずとも納得できます。五年前とか、余裕でトラウマ残ってそうですからね。


もう一つは、大狼弱すぎ問題。

ホラーを謳ってあの初登場はないです。がっくりです。

私のようなバトル好きモンスター好きからすれば、村を襲う魔物がどんなデザインなのか、どんな能力を持っているか、どう表現されるのかが一番魅力の部分なので、そこで手抜きを感じると、一気に興味が減じてしまいます。


現段階では大狼の特徴はちょいデカいだけの狼で、頭も悪そう。

がんばって山狩りしたら、村人だけで退治できそうなレベルです。

残虐さもたいしたことないです。狂犬病の犬の方が怖そう。

そうではない、恐るべき存在として描くのであれば、設定から見つめ直した方がよいかと思います。


単なる無敵性というだけでなく、個性的な強さ。

この魔物ならではといえる、性質や性格、残虐さ、特殊な性癖。

この物語全体のテーマに通じるような存在感。などなど。


まあ、もしかすると実は大狼はたいしたことなくて、殺人も実は村人の誰かの仕業で、大狼を騙る犯人を捜すという展開になるのかもしれません。その時は、このアドバイスは忘れてもらっていいですw


次に導入部としての感想を。


「導入で引き込む力がなければ意味がない」とのお考えですが、その段で考えると、ちょっと弱いかなとは思いますかね。

まずプロローグから始めるやり方。長編ではよくある奴ですが、これがすでにまったりとした導入でしょう。読者も「ここから長い物語が始まるんだ」という感覚で、物語にぐっと引き込むスタイルじゃないと思います。いや、これはこれで別にいいんですよ。スタイルが違うというだけで。


その後は、森で逃避行の相談→フランクの死→葬儀→酒場→姉の死と続くわけですが、うーん。特に間違っていると断言できるほど進行上の問題は感じません。牧師と狼は駄目ですが。まあ酒場のシーンがちょっと不要かも。ここを牧師詰問に差し替えてちょうどいいくらいかなーと。


まず、今の時点の展開でも、問題はないということを伝えておきます。

引き込む力こそ強烈ではないですが、海外小説ならこのくらいのペースですし。

個人的には、十分先を楽しみに読めます。(牧師と狼をなんとかしてもらえれば)


ですが、木村さんの狙いはそうではなく、普段軽いものばかり読んでいるウェブ小説の読者でも引っ張り込めるような、そういう導入を求めておいでなのかなと。


その前提で改善案を考えるとすれば……うーん。

やはりインパクト、ですかね。

古くからある小説のセオリーで、「可能な限り早めに、動物か暴力かセックスを出せ」というのがあったはずです。要は本能に訴える何かを、早めにエサとして吊るせば、読者を呼べるという話ですね。


ジャンル的には、この小説はわりとぴったりです。というか、すでにもう達成してる気がします。プロローグの兎狩とか。流石です。

その上であえて改善するなら、それぞれの描写のインパクトを高めることでしょうか。現時点ではそつはないものの、強烈な描写ではないですからね。


例えば、プロローグや森でのシーン、ルビーとジャックの親密度をもっと上げる。

読者がドキドキして、この二人の先行きを読みたくなるくらいに。多少エロスに。

フランクの死もお上品に終わらせず、もっとえげつなく。怪奇寄りに。

姉の死と撃退場面も、もっと映画のアクションシーンのように。

この場面、ルビーが一人で撃退するから無理があるのであって、例えばジャックとルビーが夜に逢引きしてて、二人してローズが襲われる場面に出くわせば、撃退方法は格段に増やせるはず。まあそれでもかなり考えないと、大狼の設定的に難しそうですが。


……とまあ、ややホラーから逸れてる気がしますが、私が考えるところの導入の改善案です。問題は牧師と狼撃退だけで、他はこのままでも十分ではないでしょうか。よく書けてると思いますよ。


⬜️総評

・文章力高め。本格中世ホラーの予感。

・ストーリーは甘さが残る。改善の余地あり。

・導入部分は、今のままでも十分。


文芸的な作品ですが、さらっと読めたのは上手いからでしょう。

文句が多いと思われたかもですが、普通に面白く読めました。

ストーリーの穴にだけ気をつけながら、完結まで書き上げてください。

応援しています。


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