第34話 反省会②
「んじゃまぁ、エルって呼ばせてもらうわ。名前を呼ぶ時は短い方がいいからな」
「ええ」
エレオノールがまるで花の咲いたような笑顔を見せる。これも一応エレオノールに認めてもらえたってことかね? 可憐な少女であるエレオノールにどんな変化が訪れたのか、おっさんのオレには分らん。
「わたくしもクロエに同意いたします。たしかに、わたくしは怪我をしていませんが、それはこの装備とギフトのおかげです。何度かゴブリンの攻撃を受けてしまいましたわ。相手の武器が棍棒だから怪我をせずに済みましたが、あれがもし剣や斧だったら……。わたくしは己の未熟を痛感いたしました。このダンジョンには潜る価値があります」
エレオノールの謙虚な姿勢に、オレは感動すら覚えていた。新成人ってのは、どいつもこいつも己のギフトの力を過信しがちだが、エレオノールは違うらしい。
「それに、ボスのホブゴブリンのこともあります。今回はジゼルと2人で1体のホブゴブリンを相手にしましたが、この先、わたくし一人で複数体を相手にする機会もあると思います。ですので、まずはここのホブゴブリンを上回る実力を身に付けなくてはなりません」
オレは頷いてエレオノールの言葉を肯定する。
「そうだ。脅かすわけじゃねぇが、レベル4のダンジョンは、ここのボスよりも強いモンスターが徒党を組んでダンジョンを徘徊してやがる。まずはここのホブゴブリンを超えるってのは良い目標だ」
「ありがとうございます」
エレオノールが柔らかい笑顔を見せ、その紺色のロングスカートを摘まんで持ち上げると、ちょこんと膝を曲げる。カーテシーか。主に貴族の女がやる作法だ。まぁ、それを真似て礼儀作法を学べるような裕福な家の女もやるがな。
エレオノールの場合は後者だ。実家が『オットー商会』という大店だからな。
クロエのお友だちだから心配はしていなかったが、一応パーティメンバーの素性は調べさせてもらった。悪いとは思ったが、こういうのは後で知るより先に知っておいた方がいいからな。
「ジゼルはどうだ?」
「あーし?」
残ったジゼルに話を向けると、ジゼルはなにかを思い出すように視線を上げて話し出す。
「あーしはもうゴブリンはいいかなー。一撃で倒せるし」
オレはジゼルの言葉を自惚れだとは思わない。ジゼルのギフトは【剣王】。剣技の習得、成長が早くなるギフトだ。俗に剣士系と呼ばれることもあるギフトだが、その中でもかなり上位の希少で強力なギフトだと聞いている。
ジゼルは、たった一度このダンジョンに潜っただけで、ダンジョンに適応してみせたのだ。
「でも……」
そんなジゼルが、眉を寄せて不機嫌そうな表情を見せる。
「あのボスのホブゴブリンは別かも。完璧なタイミングで不意打ちしたのに防がれるし……」
エレオノールの背中に隠れて、狙いすまして放った一撃を、ホブゴブリンに防がれたのが気に喰わないらしい。
「そうだな。お前はまだこのダンジョンで成長の余地がある。ゴブリンはなるべく早く片付けるように心がけろ。最終的には、ホブゴブリン相手に1対1で勝てるようになってもらう」
「りょっ!」
本当に分かっているのかいないのか、ジゼルは元気な声でニコッとオレに答えた。まぁ、このダンジョンを周回するのに反対というわけじゃないからいいか。
「そういう訳だ。早く先に進みたいイザベルにはわりぃが、今回は前衛陣の強化が目的だからな。もうちょっと付き合ってくれ」
「早いに越したことはないけど、エルたちが必要と感じているんですもの。いくらでも付き合うわ。リディもそれでいい?」
「んっ……」
オレは頷くリディの姿を見て安堵する。後衛組にも今回の目的を理解してもらえてなによりだ。
「まぁ、せっかく王都の外に出たんだしよ。ダンジョンを出たら模擬戦でもやるか。その時はイザベルとリディにも参加してもらうつもりだ。ちったー得られるものがあるだろうよ」
「そう。期待しておくわ」
イザベルの涼しげな顔を見て思わず苦笑が漏れる。あまり期待はしてなさそうだな。
たしかに、オレは魔法を使うことができないが、今までたくさんの魔法使いを見てきた。根本的なことは教えられないだろうが、小手先のテクニックなら多少教えることができるだろう。
しかし、精霊魔法となると人間の使い手なんてかなり珍しいからな。オレもあまり情報を持っていない。ここは生まれながらにして精霊魔法の使い手であるエルフかドワーフに教授してもらった方がいいかもしれない。
「エルフか……」
いっそのこと、シヤに頼んでみるか? シヤにまた借りができることになるが、今回はパーティの為だからな。
「んじゃまぁ、全員の賛同を得ることができたし、しばらくはこのダンジョンを周回するぞ。お前たちの成長が早ければ、早めに切り上げることもある。がんばれよ」
「「はいっ」」
「あいさー」
「分かったわ」
「んっ……」
返事にも個性が出るのか、てんでバラバラだが、彼女たちが同じ方向を向いているのが伝わってきた。彼女たちは、真剣に強くなることを望んでいる。オレが、少しでも彼女たちの成長の糧になれればいいんだが……。
「じゃあ、帰るぞ。帰り道は特に気をつけろよ。油断大敵だ」
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