第33話 反省会
「で、だ」
ダンジョンのボスであるホブゴブリンウォーリアを討伐できたことをひとしきり褒めた後、オレは『五花の夢』のメンバーの顔を見ながら口を開く。
「ボスを攻略できたわけだが、気を抜くなよ? 帰り道もあるからな」
ダンジョンってのは、ボスを倒せば制覇したと思われがちだが、実はまだようやく折り返し地点を過ぎただけだ。帰りもあるからな。王都に帰り着くまでがダンジョン攻略だ。
そして、この帰り道というのが一番危険だったりする。一度は通った道という油断。ボスを倒せたのだから、後は楽勝だろうという慢心。こいつが厄介だ。正確なところは分からねぇが、ボス討伐に成功しても、帰り道でヘマする奴は意外と多いらしい。オレも何度かそういう輩の成れの果てを見たことがある。
「んでだ。一度ダンジョンの入り口に戻って、キャンプの準備だ。そして、明日はもう一度このダンジョン潜るつもりだ。入り口近くには川が流れてるし、食料も大量に持ってきた。予定通り、10日ほど潜るから覚悟しておけ」
「少しいいかしら?」
胸の下で手を組んだイザベルが声を上げる。オレは頷くことでイザベルに続きを促した。
「一度決まったことを後からひっくり返すつもりはないけれど、それは私たちにとって本当に必要なことなの? たしかに貴方の援護はあったけれど、私たちは傷一つ無くダンジョンのボスも攻略できたわ。自惚れてるわけじゃないの。ただ疑問なのよ。私たちは10日もこのダンジョンに潜り続ける必要があるほど未熟なの? 私たちの実力は、貴方のお眼鏡には適わなかったかしら?」
「いや、お前たちの実力に関しては、期待以上のものだった」
「そう。それなら、期間を縮めてもよさそうなものではないかしら?」
ふむ。イザベルにとって、このダンジョンで得るものは少なかったのだろう。10日もこのダンジョンに潜ることを疑問視している。まぁ、直接相手と殺し合うわけじゃない後衛としては、あまり得るものが無かったのも頷ける。今回は前衛陣の強化が目的だからな。
「ぶっちゃけると、今回のダンジョン攻略では、イザベルの成長という点はあまり気にしていない。主な目的は、クロエ、エレオノール、ジゼルの3人の強化が目的だ。パーティの生命線は、前衛にあるからな。前衛がしっかりしてれば、後衛が下手でもパーティは保てるが、逆は無理だ」
よっぽどの実力差がない限り、前衛という盾の無い後衛なんて袋叩きにされて終わりだからな。
「クロエとエレオノール、そしてジゼルも、実際にモンスターと剣を交えたお前たちはどう感じた?」
オレの投げかけた質問に、最初に口を開いたのはクロエだった。
「あたしは……もうちょっとここで練習したいかも。釣りでもリンクさせちゃったし、戦闘でもあんまり倒せてないし、叔父さんやイザベル、リディも護れなかったし……」
そう言ってどんどん肩を落としていくクロエ。彼女は失敗にしか目が行っていないようだが、いいところもたくさんあった。
「釣りのリンクは仕方がない部分もある。名うてのシーフにも絶対リンクさせないなんて無理だからな。それに、ボスを仕留めた最後の一撃はよかった」
「ほんと……?」
不安そうに尋ねてくるクロエに、オレは大きく頷くことで応える。
「本当だ。あれこそシーフの理想の一つの形だ」
「でも、あれはエルやジゼルが追い詰めてくれたからで……あたし一人じゃ倒せない……」
「それでいいんだよ」
「え……?」
クロエが疑問の声を上げたのが耳に届く。まぁ、たしかに一人でモンスターを倒せるに越したことはない。だが、クロエにはもっと大事な役割がある。
それに、クロエがボスを倒せたのは、エレオノールやジゼルのおかげだと、ちゃんと理解しているのもいい。クロエは、パーティの連携の重要性を分かってるってことだからな。ないだろうと思っていたが、もし彼女が自分一人の手柄だと言い始めたら、頭にゲンコツしてでも考えを改めさせる必要があった。
「それでいいんだ、クロエ。お前のギフトは奇襲や不意打ちでこそ輝く。エレオノールやジゼルみたいにモンスターと真正面から戦う必要は無い。わざわざエレオノールが、ピカピカの鎧を着てモンスターの注意を引いてくれているんだ。それを上手く使うんだな」
クロエには「後衛のことを身を張って護らなきゃいけない」という考えがあるようだが、そんなことはエレオノールに任せておけばいい。そして、モンスターの注意がエレオノールに向いた時が勝負だ。気配を消して敵の死角に潜り込み、致命の一撃を見舞う。確実に1体ずつ敵を減らしていく。それがクロエの役割だ。
今はまだ低レベルダンジョンだから本人の実感も薄いかもしれないが、死神のようなクロエの存在は、モンスターの強さが上がれば上がるほどありがたく感じるだろう。
「エレオノールやジゼルはどうだ? このダンジョンをどう感じた?」
「では、まずはわたくしからお話します。それと、わたくしのことはエルと呼んでいただいて構いませんわ」
エレオノールがオレを見てニコリと微笑んだ。
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