第29話 原石
【収納】のギフトの新たな能力が発見でき、オレはウキウキだった。なにせ、これが実現すれば、オレはパーティの戦力として貢献できるかもしれない可能性を秘めていたからだ。今までの戦闘では役立たずのただの荷物持ちからは卒業できる。これなら、もしかしたらマジックバッグを手に入れた後でも、クビになることはないかもしれない。今までの無力な自分とはおさらばだ。
今すぐにこの新しい発見を色々と試したい欲に駆られる。しかし、ここはダンジョンの中。今は姪たちのパーティを引率してダンジョンの攻略中だ。王都に帰るまで我慢だな。
そして、今回の戦闘を通して人間関係にも多少の変化があった。オレを厳しい目で見ていたイザベルとリディの視線が大幅に緩和したのだ。たぶん、ゴブリンアーチャーの矢からイザベルを護ったからだろう。イザベルだけではなく、リディからもお礼を言われた。すぐにイザベルの後ろに隠れてしまったから真相は明らかにはなっていないが、リディはイザベルをお姉さまと呼んで慕っているようだ。
姉妹というか、親子でも通じそうなほど体格差のあるイザベルとリディの二人だが、これでも今年成人を迎えた同い年のハズだ。なぜリディがイザベルをお姉さまと呼んでいるかは分からない。しかし、2人の関係はとても親密に見えた。2人はどんな関係なんだろうな? 本当に姉妹なのか?
まぁ、そんなことは今、気にすることじゃないか。
「お疲れさん、皆よくやった! モンスターリンクを処理できるとはな。誇っていいぞ」
オレの言葉に1名を除いて顔を綻ばせる。いい傾向だな。オレに褒められることを素直に喜んでいる。できればこのまま真っ直ぐ育ってほしいものだ。
そして、オレの言葉を聞いて逆に落ち込んだ表情を見せたクロエには注意が必要だな。おそらく、モンスターをリンクさせたことを気に病んでいるのだろう。
主にシーフが担う役割に斥候と釣りがあるのだが、洞窟で釣りと言われても疑問を浮かべる人間も居ることだろう。この場合の釣りとは、モンスターを仲間が確保した安全地帯まで誘導することを指す。今回は、クロエがその役割を担っている。
ここ『ゴブリンの巣穴』では、ゴブリンが6匹程度のパーティを組んでいることが多い。一気にゴブリンのパーティをいくつも殲滅する力があるなら別だが、普通は1パーティずつ相手をしていく方が楽だ。なので、釣り役は1パーティずつゴブリンのパーティを連れてくるのが理想だ。
しかし、ダンジョンのモンスターは、基本的に侵入者を見たら一目散に襲ってくるが、侵入者を見つけたモンスターが上げる声に寄ってくる場合もある。今回ゴブリンのパーティが2パーティも襲ってきたのは、これが原因だ。これをリンクと呼ぶ。
釣り役は、なるべくリンクさせないように気をつけながらモンスターを釣るのが鉄則だ。しかし、どんなに気をつけてもリンクというのは発生するものでもある。冒険者パーティには、挑戦するダンジョンのボスを討伐できる実力は勿論、リンクした場合も対処できるほどの戦力が求められるのだ。
「クロエ、気にするな。リンクってのはどんなに気をつけていても起こるもんだ。むしろ、今回はいい戦闘訓練になったから感謝しているくらいだぜ?」
オレはなんでもないことように敢えて軽く言ってのける。クロエたちはまだ初心者だ。失敗は誰にでもありえる。一番の問題は、クロエが釣り役を怖がってしまうことだ。
「でも、でも……。あたしのせいでイザベルや叔父さんが……」
「ああ。確かに危なかったかもな」
オレはクロエの言葉を頷いて肯定する。クロエの目尻にじわりと涙が浮かんだのが見えた。
「ちょっと貴方!」
イザベルがオレを責めるように声を荒げる。オレは、イザベルに手のひらを向けて制止した。
「でもな、クロエ。オレたちは冒険者だ。これくらいの危険なんて日常茶飯事だぜ? こんなことで泣いてたらキリがねぇぞ。それにな。リンクが起こるのも想定済みだ。オレはリンクが起きてもこのパーティなら対処できると踏んだんだ。それぐらいの余裕は持たせてある。だから、リンクしても気にすんな。オレたちなら大丈夫だ」
「でも……」
クロエはまだ俯いたままだ。やれやれ。ちと狡い言い方になるが……。
「クロエはオレたちが信頼できねぇか? オレたちはモンスターがリンクした程度で負けちまうほど弱いのか?」
「ち、ちがっ!」
クロエがバネ仕掛けのオモチャみたいに勢いよく顔を上げ、オレの言葉を否定した。
「だったら、オレたちをもっと信じてみろよ。現に、オレたちはリンクに遭っても全員無事じゃねぇか。お前はもっと仲間に頼っていいんだ」
「頼る……」
クロエの視線がぐるりと仲間を巡る。
「そうですわ。わたくしがゴブリンアーチャーの意識を引き付けることができたら、イザベルたちが危ない思いもせずに済みましたもの。これはわたくしの反省点ですね。もっとクロエに頼っていただけるようにがんばりますわ」
「そういうことなら、あーしがシュババッとゴブリン倒せれば全部解決だし! あーしもクロクロに頼ってもらえるようにがんばる!」
「私が魔法で一掃できれば良かったのよね……。これはクロエだけが気に病む問題じゃないわ。皆、それぞれ改善するべき点がありそうね」
「みんな……」
エレオノール、ジゼル、イザベルたちの言葉を受けて、クロエの瞳に確かな意思の輝きが宿る。
「各々課題も見つかってよかったじゃねぇか。オレから見れば、お前らはまだ尻に殻の付いてるひよっこだ。改善点や未熟な点も多い。だが、逆に言えばその分伸びしろ大きいってこった。つまんねぇことでしょげてる時間があるなら、上を見ろ、自分を磨け。お前らには無限の可能性がある」
「「「「はいっ!」」」」
「………」
皆が元気に返事をする中、1人だけ下を向いてる奴が居た。リディだ。これは後で話を聞かねぇとな。まったく、リーダーなんて柄じゃねぇんだが……。
「んじゃ、先に進むか。さっさとボスを倒しちまおう」
オレは後頭部をガリガリ掻きながら前へと足を進めた。
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