第21話 テコ入れ
『五花の夢』のメンバーにテコ入れの必要性を感じながら、オレは残るリディへと視線を向ける。
リディは白地に青のラインが入ったぶかぶかの教会の修道服を着ていた。教会からの支給品だろう。
一見、リディの装備には問題が無いように思えるが、やはり護身用に杖やナックルダスターくらい持っていた方がいいだろう。防御面も考えて、チェインメイルを下に着こむのもアリだ。
「はぁ……」
オレは胸が潰れるほど大きな溜息を吐くと、パーティメンバーに告げる。
「今日のダンジョン攻略は無しだ」
「「えぇーっ!?」」
「それはどうしてでしょう?」
クロエとジゼルが驚いたような声を上げ、エレオノールがオレに問うてくる。
「せっかく朝早くに集まったんですもの。ここはダンジョンに行くべきよ」
「んっ……」
イザベルもダンジョンに行くべきと声を上げ、リディもそれに賛同するように頷く。
オレもダンジョンには行きたかったさ。行って早くパーティの実力を確かめたかった。しかし……。
「そんな装備でダンジョンに行けるかよ。今日は予定を変更して装備の新調だ」
オレの宣言を聞いて、ジゼルとイザベル、そしてリディの顔色が曇る。
「わたくしは構いませんが……」
エレオノールがなにか言いづらそうにジゼルたちを悲しげな目で見た。さっきイザベルにも察しろと言われたが、ジゼルとイザベル、そしてリディも金欠なのだろう。リディは教会からの支給品である修道服があるからまだいいが、ジゼルとイザベルなんて、冒険者以前に物乞いのような格好だ。とても金があるとは思えない。
『五花の夢』は、レベル1ダンジョンを2回、レベル2ダンジョンを2回制覇しているらしいが、低レベルダンジョンでの稼ぎなんて、たかが知れているしな。
「ハッキリ言わないと分からないみたいだから言うけど、私たちにはお金が無いのよ。装備を新調したくてもできないわ」
不貞腐れたように言うイザベルに、オレは一つ頷いてみせる。
「そんなことは見りゃ分かる。オレが投資してやるよ。期限も利息も無しの催促無しだ」
「おぉー!」
オレの言葉に、ジゼルは目を輝かせるが、イザベルは逆に眉を寄せて険しい顔になった。この好条件の何が気に入らないんだ?
「それじゃあ貴方にお金を出すメリットがないわ。見返りに何を求めるつもり?」
イザベルが自分の体を緩く抱き、心なしかオレを蔑んだ目で見ているような気がする。オレのことを、見返りにイザベルたちの体を求めるような奴だと思っていそうだ。かわいい姪の前でそんなこと言うかよ。
自己紹介の時の印象が悪かったのか、イザベルとリディの2人には、特に警戒されているような気がする。まぁ、姪に「浮気者」と殴られるくらいだしな。警戒して当然かもしれない。そういえば、クロエの奴はなんでオレのことを「浮気者」なんて糾弾したんだ? オレは独り身だし、付き合っている彼女が居るわけでもないんだが……。
クロエに真相を確認した方がいいような気もするが、今無暗に藪をつつく必要も無いか。
まぁ、今はオレに対して不信感を抱いているイザベルとリディをどうにかしよう。
「勿論、見返りは求めない。不安なら念書を書いてもいいぞ」
「本当かしら」
イザベルはまだオレを疑いの目で見ていた。なんでこんなに疑われてるのかねぇ。やっぱり男女混合のパーティは問題があるのか、それとも金が絡んだ話だから警戒しているのか……先が思いやられるな。
「そんなに疑うことないだろ? 金は後からちゃんと返してもらうしな。オレに損は無い」
「損も無いけど益も無いでしょ? 貴方のメリットが見えないから逆に不安だわ。無償の慈善活動にだって誰かの利益が隠れているものよ? それとも貴方は、そこまで底抜けのお人好しなのかしら?」
なんともひねくれた答えが返ってきたものだ。イザベルは人の善意というものが根底から信じられないらしい。今までどんな生活をしてきたのやら。イザベルがボロの服を着ているのを見るに、厳しい生活をしてきたことがなんとなく察せられる。きっと、その中で人の善意など信じられないと思うようなことがあったのだろう。
イザベルは賢い子だ。人の善意が信じられなくても、理があれば分かってくれる。この場合、イザベルたちに投資するオレのメリットを示してやればいい。
「心配するなよ。オレにもメリットのある話だからな」
「貴方のメリット?」
オレはイザベルに頷いてみせる。
「いいか? お前らの装備を整えて、お前らが強くなれば、それだけパーティメンバーであるオレのメリットにもなるんだ。オレは所詮、戦闘系のギフトを持たないただのポーターだからな。パーティの戦闘力ってやつは、お前らの強さに依存してる。オレの命もお前ら次第なところがあるくらいだ」
まぁ、装備を変えたところで得られる強さなんて微々たるものだがな。大事なのは、パーティのコンビネーションや連携だ。そっちは追々育てていくとして、まずは装備を整える。今のままじゃあ、あまりにもひどい。
「冒険者の稼ぎってのは、どのレベルのダンジョンを攻略できるかで決まると言っていい。一般的に、攻略するダンジョンのレベルが上がれば、稼ぎも上がっていくってもんだ。お前らもレベル2までダンジョンを攻略したみたいだが、ハッキリ言ってレベル3以下のダンジョンの稼ぎなんて、たかが知れてる。雀の涙みてぇなもんだ」
レベル3以下でも稼げるダンジョンもあるにはあるが、そこはいつも満員で、モンスターやボスの奪い合いが日常茶飯事だ。せっかくの低レベルで稼げるダンジョンなのに、挑戦する冒険者が多すぎて、皆で仲良く貧乏になってやがる。
「オレとしては、さっさとレベル3以下のダンジョンを抜けて、レベル4以上のダンジョンに行きたい。そのためには、一日でも早くお前らに強くなってほしいんだ。だからまずはお前らの装備を整える。お前らが自分で装備を整えられるだけ稼ぐのを待ってる時間がもったいないからな。お前らだって、さっさと稼げるダンジョンに行って借金無くしたいだろ? この投資はお前らの為でもあるが、オレの為でもあるんだ」
眉を寄せて難しい顔を浮かべていたイザベルが頷くまで、オレの説得は続いた。
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