パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)

第一章

第1話 やっぱり追放か……

「アベル、てめぇはクビだ」

「あ?」


 クロヴィスの生意気な物言いにカチンときて、つい紫頭のクロヴィスを睨む。いつもはすぐさま伏せられるクロヴィスの緑の目が、今日は余裕の笑みを浮かべてオレを見下していた。まったく、生意気な口をききやがる。図体は立派になったが、礼儀ってものを知らねぇ。


「はぁ……」

「くふっ。くふふ……」


 オレはため息を吐き、大剣を背に担いだ筋骨隆々な男、クロヴィスを正面に見る。オレが訊き返しても意見を曲げる様子が無い。それどころか、クロヴィスは愉しくて仕方がないといった歪な嗤いを浮かべたままだ。


 面倒なことになったな。ダンジョンから帰ってきたばかりで疲れてるってのに。


 今は冒険者ギルドに併設された食堂のテーブルに座り、レベル6ダンジョン『氷雪』を攻略した打ち上げをしているところだ。オレたちのパーティのリーダーであるクロヴィスに音頭を任せたら、いきなりオレのクビを宣言しやがった。


 マズイことに周りに居る冒険者たちも、こちらの不穏な空気に気が付いたらしい。オレたちを窺いの視線で見ているのが分かる。


「本気か?」


 オレの問いかけに、待っていましたとばかりにクロヴィスが口を開いた。


「当たり前だ! だいたい、俺は最初から気に喰わなかったんだ! たしかに、アンタの冒険者経験はご立派かもしれねえがよぉ! 実際にモンスターと戦いもしない荷物持ちの分際で、いちいちリーダー面して指図してきてうるせえんだよ!」

 

 こんな大勢の冒険者の前で宣言した以上、もう取り消すことなんてできない。それぐらいクロヴィスにも分かるだろう。つまり、それだけクロヴィスは本気だ。本気でオレをクビにしようとしている。


 どちらにしても、同じパーティメンバーだろうが若輩者にここまで言われたら引き下がることなんてできない。冒険者にとって、メンツとは時に命よりも重いのだ。


「未熟者の青二才が吠えやがる。オレの助言が無ければ、今頃お前たちなんてとっくに死んでるぞ? いつも無茶な指示ばっかり出しやがって。俺の助言を聞いて、お前らが五体満足でレベル6のダンジョンを攻略できたのがその証明だろ? お前はいつになったら学習するんだ?」

「その上から目線が気に喰わねぇって言ってんだよおっさん! いつも俺の指示と反対のこと言いやがって! いいか! お前の助言は、戦えもしない弱者の弱い意見でしかねぇ! 強者には強者の意見があるんだよぉ!」


 オレの言葉に、クロヴィスが唾を飛ばして吠える。だいぶ鬱憤が溜まっていたらしい。不満を口に出せて心が晴れたのか、やけにスッキリした表情のクロヴィスが印象に残った。


 たしかに、オレとクロヴィスは意見を違えることが多かったのは事実だ。クロヴィスは経験不足と想像力の無さがそうさせるのか、無茶な決定をすることが多い。それを毎度のように諫めてきたのがオレだ。クロヴィスにとっては、毎回自分の意見に異を唱えられるのだ。そりゃ不満もたまるだろう。


 オレを嫌ってくれてもいい。その分成長して、いつかオレを追い抜いてくれたらいい。そう思っていたんだが……。


 クロヴィスの表情がどうしようもない愉悦に歪むのが分かった。


「だが! それも今日までだ! コイツを見ろ!」


 クロヴィスが手にしている物。それは、見た目はなんの変哲もない革のバックパックだ。だが、オレはそのバックパックがタダの鞄ではないことを知っている。


 マジックバッグ。ダンジョンから見つかる宝具の中で、おそらく一番有名な宝具だ。その見た目からは考えられないくらい大量の物が入る魔法の鞄。マジックバッグに入れた時点で時間が止まるのか、中の物が腐る心配もない。おまけに、いくら物を入れてもマジックバッグは軽いままだ。


 全ての人が欲しがるだろう、まさしく魔法の鞄。それをオレたちはダンジョンで手に入れた。


「コイツさえあれば、【収納】しかできねぇお前はもう用済みなんだよ!」

「………」


 クロヴィスの言葉に、オレは“またか”という思いに駆られた。


「悔しいか? 悔しいよなぁ? コイツはお前の倍は物が入るぜ? しかも、給料も必要ねぇし、いちいちオレたちに指図しねぇ。完全なるお前の上位互換だ。宝具とはいえ、タダの道具以下に成り下がった気分はどうだよぉ?」


 オレはまたマジックバッグに居場所を奪われるのか……。


 パーティを追放されるのは……これで三度目だ。一度目も二度目もマジックバッグを手に入れたことが直接的な原因だったが……。まさか三度目もこれとはな……。


「お前らも同じ意見か?」


 オレは同じ席に着く他の4人に目を向ける。


「アベルさん、クロヴィスの非礼は詫びよう。だが、クロヴィスの言う通りだ。マジックバッグを手に入れた以上、アベルさんにできることは、もうなにも無い。ここは大人しく身を引いてくれ」


 イスをギシリと軋ませて、全身鎧姿の巨漢セドリックがすまなそうに言う。だが、言っていることはクロヴィスと同じだ。いや、まるでオレに興味がないといった態度に腹が立つ。


「キヒヒッ。そういうこった。わりぃな、おっさん」


 セドリックの隣に座る男、セドリックとは対照的に線の細い男が、少しも悪く思ってなさそうな顔で嗤う。黒くタイトな格好をした黒と間違いそうなほど濃い赤毛の男。パーティの斥候役のジョルジュだ。ニヤニヤとした笑みを隠さず、気分が悪い。


「はぁ……もういいだろうアベル? お前ももう年なんだから、ここらで引退したらどうだ? お前が居ると、どれだけ功績を挙げたとしても、お前のおかげという目で見られるんだ。僕にはそれが我慢できない」


 そう神経質そうな震えた声を上げるのは、豪奢な赤いローブを着た金髪の男。パーティ唯一の魔法使いジェラルドだ。声は静かだが、余程オレへの不満が溜まっているのか、細く鋭い目で睨みつけてくる。


 こいつらのことは、15の成人したての頃から面倒見てるから、そういう目で見られることもあるだろう。だが、そんな声は功績を挙げ続ければ、いずれ無くなる。所詮はやっかみの声でしかない。そんなことも分からねぇのか。自分たちが評価されないからとオレを切り捨てるのは短絡的にもほどがあると言える。


 しかし、パーティの皆はジェラルドの意見を支持するようにウンウンと頷いている。


「拙僧たちは、正当な評価と更なる飛躍を望んでいるのだ。そのためには、貴殿のような老害はもはや不要。パーティにとって害悪ですらある。それを理解されよ」


 白地に青のラインが入った修道服が、パツパツになるまで筋肉が盛り上がっている男。その巌のような四角い顔から放たれるのは、オレへの痛烈な罵倒だ。パーティの回復役にして戦士。武装神官、あるいはモンクと呼ばれる神官。グラシアンだ。


「これで分かっただろ? あんたはもう必要ないんだ!」


 クロヴィスの言葉通り、オレ以外のパーティメンバー5人全員がオレの追放を望んでいる。そんな状況に眩暈さえ覚えた。


 たしかに、パーティメンバーとの関係は最近ギクシャクとし、思わしくなかった。オレ自身も面白くないものを感じていたが、それはこの若造たちも同じだったらしい。そして、マジックバッグを手に入れたことで今までの不満が爆発したのだ。


 それは、これまで命を預けあった6年間の絆を吹き飛ばすほどのものだったようだ。


 オレは、なんだか急になにもかもがバカらしく思えてきた。こんな奴らでも、オレは真摯に向き合ってきたつもりだ。たしかに、コイツらにとっては面白くないことも言ったかもしれない。だが、それもコイツらの成長を思えばこそだったんだが……。


 思えば、冒険者ギルドの勧めで若いパーティの面倒を見てきただけだったしな。


 宝具一つで仲間を切るような判断をするような奴にはついていけない。コイツら、オレを切り捨てるのはいいが、自分たちも切り捨てられることもあるって分かってるのかねぇ……。


「いいだろう。分かった。オレはパーティを出ていく」


 こんな奴らとは話すだけ無駄だ。オレは豪華な料理が並んだ席を立つ。


「待てよ。なに勝手に行こうとしてるんだよ。出すもの出してから行きやがれ」


 パーティに背を向けたオレにクロヴィスの声がかかる。


 出すもの? パーティの荷物は全てマジックバッグに入れ替えた。今更オレに出すものなんて無いはずだが……?


「何を出せってんだ? 忘れ物なんてねぇだろ?」

「いいや、あるね! そもそも、戦えもしねぇお前が一丁前に一人分の分け前を貰っていたことが間違いだったんだ。今までの迷惑料込みで、有り金全部置いてけよ。それでやっとつり合いが取れるってもんだ」


 コイツは何を言ってるんだ?


「そんな屁理屈が通ると本気で思ってんのか?」


 半ばクロヴィスの頭を心配したオレの発言に対し、しかし……。


「クロヴィスの言が正しい。置いて行かれよ」

「キヒッ! あんたも変な後腐れは嫌だろ? 置いてけよ」

「アベル。あんたにはそれだけ迷惑してたんだ。きっちり出すものを出していけよ」

「拙僧もクロヴィスの判断を支持する。戦えもしない弱者が、強者である我々と同じ給金というのは納得できなかった」


 セドリック、ジョルジュ、ジェラルド、グラシアン、皆はクロヴィスに賛成らしい。コイツら、どうしようもねぇな。


 今までのオレの教育はなんだったのか……。そんな虚しさを感じる。


「はぁ……」


 オレは重い溜息一つ吐いて、虚空からズシリと重い革袋を取り出した。そいつをクロヴィスに向けて放り投げる。


「おっと。随分とまぁ貯め込んでたじゃねぇか。それだけ俺たちはコイツに搾取されてたってことだろ? まったく、厄介な寄生虫が消えてせいせいするぜ」


 クロヴィスの罵倒を聞いても、最早怒りも湧いてこない。


「コイツは手切れ金だ。もうオレに関わるな。オレもお前たちに関わらない。それでいいだろ?」

「当たり前だ。頼まれたって関わってやらねぇよ」


 オレの言葉に、クロヴィスが頷く。これで、オレとコイツらはもうパーティメンバーでもなんでもない。赤の他人だ。


「最後に一つ。次にダンジョンに行くなら、レベル5のダンジョンに行くといい。そこで自分たちの実力を確認しておけ」


 オレの最後の忠告に、クロヴィスたちは気分を害したような表情を浮かべるのが見えた。


「うるせぇよ! 最後の最後までコケにしやがって! 俺たちが次に行くのはレベル7だ! 俺たちはてめぇみてぇな臆病者じゃねぇ!」


 クロヴィスの怒声に頷くパーティメンバーたち。コイツらは自殺願望でもあるのか?


 まぁ、もうオレには関係ねぇか。


「はぁ……」


 オレはやるせない気持ちを溜息に変えて、その場を後にするのだった。



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