第23話
「もしもしお母さん?中間は総合で5位だった」
『そうですか。頑張りましたね』
重大な家族会議を締め括った翌日、すぐさま朝の便で寮に帰った。
定期試験まで日数が少なかったけどパフォーマンスは過去最高だった。
「最大の脅威から解き放たれた感覚で、現実味がないような気もしてる」
『おや、放心状態では晴香といられる時間を無為にしてしまいますよ』
クスクスと、電話から愉快そうな笑い声が漏れる。
発言がアタシらしくないとでも思っているんだろう。
「ありがとう、お母さん。アタシや晴香だけじゃどうにもできなかったかも」
照れくさくあるけど助けてもらったお礼はしっかりと伝えた。
感謝してもしきれないから。
『どういたしまして。凛は覚悟が固まりましたか?』
「…………晴香とは正面切って勝負したいと思ってる。どういう形で争うことになるかは未定だけどね」
『ならよろしい。半年で随分と成長しましたね』
「それほどでも……状況に腐らず努力してきた晴香と比べたら、アタシなんてスタートラインに立ったばかりだよ」
つい自嘲してしまうのは、晴香には敵わないと匙を投げた自分が切り離せるものじゃないから。
どれほど考えを改めることができても過去はなくならない。連綿と続く時の中で変化しないものなんてないはずで、アタシもまたこの世界の流れに沿って変わることを余儀なくされただけの小さな人間なのだ。
変わる前のアタシは現在も心に巣食っていて、ただ変化をもたらされただけじゃ弱い自分を払拭できないのだ。
「学年を越えて噂になるんだから凄いよね、晴香は」
『あの子は素直で一本気な性格ですからね。態度にも表れていて可愛い愛娘ですよ、親ばかでしょうけど』
「アタシも同意見。短所なんかないような良い子でアタシには勿体ない自慢の妹だよ」
ひたむきな姿勢を貫いて、闘争心を快い形に変換して、実績と人望で周りの人気を集めるのが晴香という女の子だ。
初志貫徹という四字熟語は彼女のためにあるのではなかろうか。
『きちんと自己分析できるのは凛の長所ですよ、自信を持ちなさい』
「そう、かな」
お母さんは優しく評価してくれたけど、アタシ自身は受け取れなかった。
分析なんぞしたところで具体的なアクションには繋がっていなかったし、なぁなぁで済ませることに慣れ過ぎてしまった。
『あまり卑下するものではありませんよ。悪く言うのが貴女自身だとしても、晴香は良い気がしないでしょうから』
「そっか、うん」
お母さんに言われて反省する。晴香がもし聞いていたら……きっと興奮した子犬のように頭を振って否定してくるだろうな。
『私が力を貸せるのはここまでです。あとは自分なりの答を持っている貴女次第ですよ。悔いが残らないようにね……』
「うん」
通話を切って物思いに耽る。
お母さんのアドバイスは抽象的で、ここから先は手を貸しませんよと線を引いているように思えた。
けどそこに突き放すような冷たさはなくて、自分の両脚で立てると激励されているような温かさがあった。
アタシがやらなければいけない日は、すぐそこまで来ている。
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