第十一話 紫怨の炎

「敵はいないな」


 ハル達は闇に紛れ路地裏を出ると、また別の場所に隠れる。それと入れ替わりで騎士たちが路地裏に入ると、死体を発見したらしい。手で抑えて我慢したかのようなかくぐもった悲鳴が聞こえる。


「犯人が能力者だというのは分かったが、おそらく奴は未熟だ」


「粒子状だから?」


「それもあるがアイツは粒子をその場に残したままにしていただろう。被害者を殺すため必要以上の出力を使いさらに現場に粒子を残したままにしておいていると言うのは、性質を理解しきっていない証拠だ」


 粒子一粒でさえ、石を無惨な姿に変えた。なら人一人殺すのにあそこまで放出する必要はない。


「丁重に運べよ。しかしこいつの遺族になんで伝えればいいんだ。こんな無惨な姿で」


「こいつも可哀想だな。しかし何故騎士ばかり狙われているんだ?誰か恨みでも買っているのか?」


「別に騎士ばかりではない。一般人も同様の手段で殺害されていた」


「塩酸か何かの薬品でもぶっかけたのかもしれないが、肝心の液体が見当たらないのもまた怖い」


 騎士の集団が布のようなものを遺体に被せて、即席の担架で運ぶのが見える。


「騎士ばかり狙っているか、一先ず俺たちが真っ先に狙われる心配はなさそうだ」


 食客とは関係がない部外者による仕業。しかし温室でぬくぬく育ってきた人間がどのような過程で能力に目覚めたのか気になるな。


「な、なんだお前は!?」


「ぐわ!?あつい!あついあつい!!」


「な、どうした!?」


 またどこからか悲鳴が聞こえる。それも現行。犯人が現場にいるかもしれない。


「ハル行くの?」


「奴を騎士たちの元に引き摺り出せば、この面倒な状況も終わる。様子見のつもりだがあわよくば捕える」


 ハル達は声の聞こえた大通りから外れた道へと進む。

 そこには先ほどのように溶かされた騎士たちがいた。


「犯人はもういない。逃げたの?」


「油断するなよ。隠れてるかもしれん」


 ハルが死体を眺める。共通しているのは顔が焼き払われたように判別できない事。顔面に対する執念でもあるのか。あるいは確実に殺すためか。


 ハルは、先ほどの現場と同じように大量の粒子が散布されているのを見た。それも地面だけではなく大気にもばら撒かれているように拡散している。


「……どういう事だ?」


 先ほどの推理では奴が未熟と判断したが……違う。これは意図的に散布しているのか?考えられる可能性としては罠。


「おい!あれを見ろ!」


 声がする。騎士たちが来たか。


 店だたみした露店の後ろに身を隠し様子を窺う。

 あろうことか騎士たちは恐れも知らずその散布された危険地帯に堂々と進入していった。


「ッ!あの中に突っ込もうとしてるのか?まさかあの粒子は奴らに見えていない?」


 ハルは騎士たちが地獄の底に、無惨に死にゆき阿鼻叫喚の悲鳴が響き渡る景色を想像したのだが……そうはならなかった。


 先ず街頭を照らすランプを片手に持つ兵士が、現場に入る。続いて他の騎士たちも。


「何ともなさそうだ……」


 全員変わった様子もないし気にしたそぶりも見せない。だが、粒子は確かに付着している。俺の粒子と発動条件が違うのか?

 

「あの粒子……ハルのに似てるけどどこか違う」


「お前の目から見てもそう感じたか」


 騎士には大量の粒子が付着している。対象に一つのみしか受け付けない俺とは性質が違う。


「同じ粒子状でも俺と同一視しないほうが良さそうだ」


 本体の常識が違えば、その粒子の性質も違う。ハルは必要事項としてそのことを記憶する。


 そこでその粒子のある特殊性を見た。


「あの粒子……感染してるのか?」


 現場から離れた騎士の粒子が遠くにいた騎士たちにも移っている。まるで一人でに新たな宿主を探すように。

 何か能力発動の前段階なのかもしれないとハルは踏んだ。


「ハル……!こっちにも」


 小声で訴えかけてきたアキが示す方向を見ると、粒子が少しこっちにも寄ってきていた。


「気色の悪い動き方だ」


 直線上に標的めがけてゆっくりと迫ってくる粒子に気味の悪さを覚える。人をじっくりとイジメ抜き追い詰めた後に手にかける殺意のようなもの。本体の性格の悪さが表れている。


 ハルは赤い粒子で相殺させようと、粒子を飛ばす。粒子どうしで衝突し対消滅するかと思われた粒子だがなんと、俺の粒子はあれに触れた瞬間霧散して消えた。


「何……!?」


 あの粒子を他の技で消そうにもこんな街中で爆撃や長距離切断などの技を使えるはずもなく、ハルたちはその場から離脱する。


「幸いアレの足は遅い……逃げ切れる……ハル?」


「……今行く」


 アキはそう言うが自慢の粒子が悉く、初見の敵に効かないのはハルとしては相当悔しかったようで眉を顰め機嫌を害した様子だ。


 逃げ切れてはいるが……ずっと追ってくる。振り返ると粒子が鈍く光っているのが大きくなっていくのが見える。段々とハルたちを追ってきているのだ。


「いつまで着いてくるんだ?立ち止まれないではないか」


「あの大量の粒子をゆっくりとはいえ正確に四方に散った人間めがけて追跡させるのは至難の業。多分自動追尾。本体を叩かないとどうにもならないかも」


 犯人を倒さなければいけない理由が増えたみたいだ。俄然として犯人を見つけ出す気力が湧く。


「ギィアアアア!!」


「ウゴォォォ!!」


 また悲鳴が響く。それも今回は別々の場所から。


「どうなってるんだ?」


 一番近くから聞こえる悲鳴は、またもや路地裏の奥。ハル達が赴いた時には想像通り顔が溶かされ亡くなっていた。


「分からん……なぜまた兵士が路地裏に一人で?」


 ハルたちはそこである集団の騎士を尾けてみることにした。


「どうなってるんだ!?なぜ悲鳴があちこちから聞こえる!?」


「実行犯は一人じゃあないのか!?」


「兎に角手分けするぞ!」


 騎士たちが別々の方向へ走り出す。犯人を捕まえることなんかより、何が起こっているのかわからないと言う恐怖が顔に表れている。


 そのうちの一つの二人一組のグループをの後を追うと彼らは騎士たちの死体の下へ辿り着く。その顔をのぞいた彼らは驚きと恐怖の混じった悲鳴と共に、二人はどこかへ逃げ出した。


 そこで見た。建物の影の中から伸びた手がそいつを引き込む所を。


「アアァァア!!」


 建物の影から響く悲鳴。そして次の瞬間にも、


「おい!どうし────ウギャアアアア!!」


 騎士が孤立した瞬間に服に付着していた粒子が浸透し先程の亡骸のように顔が溶かされる。


「そこにいるのか」


 ハル達はようやく見つけた手がかりを見逃さまいと、手の影が伸びた建物へ走る。

 

 見つけた。人影だ!


「足はそこまで速くない。追いつけるよ」


 道を錯乱させ尾行を離したいのか、ジグザグと曲がり角の左折と右折を繰り返す。すると狭い建物の隙間を通って行った。


 俺たちが建物の隙間を通り路地を抜けた先に大通りに出た。観光で見たことある景色。その奥で謎の人影がじっと俺たちを見るように構えている。逃げきれないと悟って戦うことに決めたのか。


「俺を追ってくる気配がすると思ったら……何でこんなところにガキがいやがんだ?」


 男の姿が粒子で照らされる。無精髭の生えた頬の痩せこけた男。ボロボロの布を羽織りいかにも浮浪者と言った出立だ。


「アンタだろ?さっきから紫の粒子を飛ばして騎士たちを殺してる奴は」


「なんでぃ。この粒子が見えんのか?ということはお前……同類だな?」


「は?お前のような薄汚い奴とは似ても似つかないだろ」


「いんや?隠さなくていい。お前も神に選ばれた人間なんだろ?分かるぜ」


 何を言い出す?神に選ばれる?まさか能力の発現に神が関わっていると思い込んでいるのか?


「お前……なぜ神に選ばれた?お前のような何も知らなそうなガキが」


「お前の言う神が死ぬほど乗り越えた試練の先に、能力をくれたとでも言いたげだな?」


「そうだ。神は俺に復讐の機会をくれた。街のクソみたいな条例によって倒産した商会。小規模商会が大手に吸収合併され俺たちは搾取され続けてきた。経済を取り込むことを条件に家族を犠牲にし殺したあのクズども。途方に暮れた俺は出逢ったんだ!神の翼に!!」


 神の翼?


「神が下さったこの力で!今度はおれがあいつらの人生をグチャグチャにしてやるんだ!」


 一人両腕を広げ天を見上げる男。熱弁したあとに、フゥとため息をつくと髪をかきあげ俺たちの方を向いた。


「お前らガキに恨みはねぇ。この事を見なかったことにしてくれんなら見逃してやる」


「そうはいかない。あなたが事件を引き起こすと私達も困るの。色々と」


「ふん。この街もすぐ終わりを迎える。防衛の要である騎士たちは全員殺した。街の長には殺害予告も送った。今頃恐怖に怯えて布団で縮こまっていることだろう」


 愉快だとばかりに語尾を強調する男。奴にも奴の闇がありそうに見える。


「今晩明ければ街も出られる。お前らはサッサと消えろ」


「……お前自分が何したのか分かってないようだな」


「何?」


「ここまでの大事件。それも能力持ちが関与してるとなれば、奴らが黙っていない」


「奴ら?誰が来ようとも俺なら返り討ちにできる」


「言っておくがお前は神に選ばれてないし、何も特別ではない。能力持ちなんてまだ他にも沢山いる。井の中の蛙がそこを都だと思ってただけだ」


「言わせておけば!お前らに俺の何がわかるってんだ!」


「何も知らない。知りたくもない。ただお前の無知のせいでこっちが迷惑してるだけだ。条例云々がなんのことかは分からんが……単純にお前の力不足だったのでは?逆恨みもいいところだ」


「ふざけんな!このガキが!!」


 奴が怒り狂って叫ぶのと同時に大量の薄紫の粒子がやつの腕を覆うように浮かぶ。俺たちを追ってきたものより色が薄い。こちらに飛んでくると思われた粒子だが微動だにしない。


「なんだ?早くかかってこいよ。それとも怖くなってきたか?」


 何もアクションを起こさない奴に、挑発してみる。だが顔こそ歯を剥き出しにし憤怒の表情であるが、それでも粒子は動かなかった。


「お前……もしかして自分の意志で動かせないのか?」


 奴の瞼がピクッと反応した。図星であると見ていいのか。奴は何を血迷ったのか自分から特攻してきた。


「これは傑作だ。この程度のやつがあれ程の威勢を披露していたとは」


「黙れェェ!!」


 俺は奴の攻撃を躱わす。紫の粒子に触れないよう細心の注意を払いながら奴の腹に蹴りを入れ込む。


「お前は手を出すなよ。周囲に怪しいものがないか見とけ」


 アキは俺が言わんとしている事が伝わったのか、不平を言わずあたりの警戒に注力する。


「舐めてんのか!?テメェ!」


「舐めてない。寧ろこれからが恐ろしい」


 やたらと拳を振りかぶってくる。対象に拳や掌で触れないと効果が発揮できない能力なのか?だが、あの時の濃い紫色の粒子は俺たちを追尾してきた。やはり何か条件があるらしい……


「これほど恐ろしい力を手に入れて自惚れていたか?」

 

「自惚れではない!俺には俺の成さなければならんことがある!」


「それで?届かせてみろよ、その拳を」


「言われなくてもやってやらァ!」


 俺に何度蹴られても、何度倒れても立ち向かってくる。根性は確かにあるらしい。これならにも一役買ってくれそうだ。


「何なんだ!?お前は!?なぜ俺の邪魔立てをする!正義の見方面か!?」


「正義の味方?俺は誰の味方でもない。俺は俺だ」

 

 男は腹への貫手や顔面へのストレート、フック、アッパー、フェイントなども織り交ぜている。試行錯誤してどうにかしてハルへ一撃だけでも触れたいという気持ちがアリアリと伝わる。


「もう実力差は分かっただろう?その能力も結局、当たらなければどうということはないんだよ」


 ハルは顔面にパンチが飛んできたところで、首を左に曲げ躱わす。カウンターとばかりに男の顎に掌底を入れると男は、一瞬意識が飛び体が揺らぐ。もう一撃腹に前蹴りを入れると奴は地面に倒れ込んだ。


「グボェ!」


 男は地面に倒れると同時に思わず手をついてしまった。男は何やら焦った顔で手を地面から離したかと思えば、腕の粒子は地面に吸収され地面がドロドロに溶け出す。

 そして気になっていたのが溶け出すと同時に地面から溢れ出す粒子。それも奴の腕を纏う薄紫ではなく、ハル達を追尾した粒子と同じ濃い紫色だった。


「何だ?」


 先ほどと同じ現象だ。濃い紫の粒子が石畳に次々と移っていく。だが、それらは溶かすことはなく。増殖と感染を繰り返していた。


「おい。お前の能力だろ?なんとかできないのか?」


「この能力は使い勝手が悪いんだよ!」


「どんな効果なんだ?」


「なんでそれをお前に───ゲボ!」


 俺は奴の腹を踏みつける。それと同時に奴の身体に褐色の粒子を付与し腕を使えなくする。

 男は口を開き汚い呻き声をあげる。


「なんとかできないなら、お前を殺して解除するしかない」


 男は顔を上げる。怒りの滲んだ顔だ。ただハルには敵わないというやるせなさも感じられる。仕方なさげに男は声を振り絞る。

 

「粒子を纏った手で対象に触れることが、能力発動のきっかけだ。薄紫の粒子は対象を酸で侵し溶かすと同時にまた別の粒子を発生させる」


 ここまでは見た通りだ。気になるのはこの後の効果。


「ここからが真骨頂だ。その別の粒子は対象と同一構造の物を追跡し付着する。付着した先でウイルスや細菌のように繁殖、別の同一対象に感染しまた増殖を繰り返す。俺が感染者に手で触れ任意のタイミングで発動させるか、追跡対象がいなくなる、つまり同一構造状の物が半径10メートル以内になければ増殖を止め感染先を、薄い紫の粒子で最初に溶かした物体と同じ溶かし方をする。最初溶かしたモノが人間なら人間に感染し溶かす。石であれば石を溶かす」


 だから騎士たちは皆顔面が溶かされていたのかと納得する。そして単独での死体が見つかることも多かったのもコイツがあの手この手で対象を集団から引き剥がし、独立させていたからなのだと知る。


「なるほど。あのテロにもそういう仕組みがあったわけか」


「お前の知っての通りネックなのは自分の意志で粒子を移動させることができない事だ。つまり回収も同じように不可能だ」


「じゃあ結局お前を殺すしかないな」


 俺は手のひらに赤い粒子を溜め奴に向ける。


「ま、待て!」


「そう慌てるな。願い通り待ってやろう。お前が俺の言うことを聞いてくれればな」


 俺はフッと手を振ると溜めた粒子が霧散する。男は安堵し唇が緩むもどんな要求をされるのかと、額に脂汗が浮かぶ。


「俺が言っただろう?能力者は他にいると」


「あ、ああ。それがどうしたんだよ?」


「多分この後怪しげな格好をした奴が来る。騎士の格好をした奴もいるかもしれないな。お前は負傷した浮浪者のフリをして奴らにその能力で触れろ」


 こいつの能力は初見で触れられてしまえば対応不可能。だから、能力者であることを知られる前に勝負をつけるのだ。


「……それだけでいいんだな?」


「ああ。嘘はつかない。お前のしたことも黙認するし殺しもしない。生きたいように生きればいい」


 ハルの言う奴らとは食客の事である。前に襲われた食客も殺してしまったし、街もこの有様だ。間違いなく飛んでくる。

 だから囮が必要だった。即席の作戦だが力を試したところ思ったよりコイツも役に立ちそうなので、利用することにしたのだ。散々挑発したのも能力を見るためだったが、それは口にはしない。


「ただし気を抜いていいわけではない。失敗すれば……その瞬間目にするのはお前の大好きな神が迎えにきている場面だろう」


 暗に失敗すれば殺すと釘を刺しておく。プレッシャーになるかもしれないがこの方がより演技にリアリティが出るはずだ。

 男は喉を鳴らすとゆっくりと2回頷いた。


「それと一つ助言するが能力発動は、対象に触れてからにした方がいい。その粒子は恐らく俺のように能力者には見える」


「分かった。任せてくれ」


 これであとは奴らを待ち伏せするだけだ。




「ハル。来たよ」


 空から見覚えのある鳥が地上目指して降り立つ。背に跨っていた二人が地に足をつけた。


「またアイツか。ストーカーヤロウめ」


 俺たちは路地裏に身を隠す。顔を少しだけ出しその現場を見た。


「だが、バリア使いがいない。代わりに知らない奴がいるが」


 ハンプソンの隣にいる長髪の女。青いドレスを着て赤いヒールを履きいかにも、金をかけて美しくなりましたと体現する女だ。


「そこのお前。ちょっと聞きたいことがあるんだが」


「な、なんだ!アンタらは!そ、空から……!」


「悪いがその話は後にしてくれ……この街の有様。随分ヒデェことになってるが、何があったんだ」


「お、俺は襲われたんだ!このテロを引き起こした犯人に!」


 なかなか様になった演技だ。違和感のない震え声でとても情けない。この調子なら奴に触れられるだろう。


「頼む。助けてくれ……頼むゥゥゥ……」


 触れた。足に力が入らないフリをして膝で歩き奴の胸に倒れ込むように。そして見直すまでもなく手で体を触れている!


「わーったって。そう慌てんな。その犯人はどこに行ったんだ?」


「分からない……何も分からないんだ。騎士たちを何かで溶かした後どっかいっちまって」


 ボンヤリ男の腕に粒子が付き纏う。これで能力発動条件は満たした。

 しかしこれで一安心だとはまだ言えない。ハルたちは油断せずことの成り行きを見守る。


「溶かすって……アツい!アツッ…ウボァォァアア!!」


 ハル達はあの男の半径10メートルより外側にいるから襲われる心配はない。男が叫ぶのと同時に発生した濃い紫色の粒子が女にも触れる。


 だがおかしい……あの女の体は確かに溶け始めている。なのに呻き声ひとつ上げないどころか顔色すら変えていない。


「犯人はアナタなのね。化けの皮がそんなすぐ剥がれるとは思わなかったわ」


 女は溶け始めた醜い顔でそう言うが、まるで怯えた様子はない。

 すると女は全身が溶けた。骨すら残らず……になった。


「液化した?」


 思わず呟く。


 液体となった女が一人でに焼き爛れた男を包み始めた。すると、液体が離れ始めた頃に男の爛れた傷は火傷のあと一つなく再生したのだ。


 女が水のような輪郭を人間に模ると元通りのすました姿に戻る。男と同じように火傷や爛れた傷は見られない。


「あ……あぁ!」

 

 恐ろしいものを見た男は、尻餅をつき後退る。信じられない表情を浮かべて目の前の憤怒が爆発しかけている男を見上げる。


「す、すみま」


「死ね」


 ハンプソンがそう言うと、男の体は膨張し弾ける。血が男や女に降り注ぐほどの破裂であった。

 その死体のそばにはこれまた見たことないペンギンモドキがいたのであった。

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