第50話 謎

「そういえばまだユーナムの話についてはあなたから何も聞いてませんよね。何か私にちょっかいでも出してくる予定なんでしょうか?」

 トキネさんは入れ終わったコーヒーを草壁さんの前に差し出しながらそう聞いた。


「いえ、一応小佐波さんは財団の調査対象になってはいたので、個人的な興味から自分で手をあげただけです。大量虐殺とか世界征服を企んでいる様であれば報告しないといけませんが…」

 草壁さんは笑いながら答える。虐殺は大量でなければ許されるんだろうか?


「前に遊びに行った闇カジノのハオランとかいうやつも、財団がいう所のギフト持ちだったんですよね?」

 トキネさんが言った。どうも彼女の中では闇カジノは遊びに行ったということになっているようだ。


「彼はもうずいぶんと前に財団とは関係を絶っています。財団の思想とは反りが合わなかったんでしょうね」草壁さんが答える。

「思想?」

 トキネさんが聞き返す。


「思想というか理想ですね。HPにも書いてありますよ。『世界平和と持続可能な社会の実現』。闇カジノの経営とは相いれないでしょう。小佐波さんも財団の活動に参加して頂けるならば、詳しい話をさせて頂きます。あなたほどの人材であれば財団は大歓迎ですから」

 前に道場でも勧誘して断られたように記憶しているが、草壁さんはここぞとばかりにまくしたてた。


「なんかそういうの胡散臭いんですよね。平和も善悪も人それぞれです。丁重にお断りさせて頂きます」

 そう言ってトキネさんはニッコリと笑った。


「あのーちょっと思い出したことがあるんですが」

 そう言いながら突如ダニエルがそっと手を挙げて話し始めた。

「モギという苗字は日本ではメジャーなんでしょうか?」

 そうダニエルに聞かれて

「全然ということは無いですが、そんなに多くは無いですね」

 と僕が答える。


「前に…もう二年以上前だと思いますが、イリヤの道場にいたときにモギと名乗る男が現れて手合わせをしたことがあります。あの市川の道場の少年のお父さんが行方知れずだって言ってましたよね。日本人の男性の顔はあまり見分けがつかないんで、似ているかどうかも分からないんですが…」

 ダニエルが言う。


「その男の下の名前は?」

 僕が聞く。琢磨君の父親であれば下の名前は春野(ハルヤ)さんだ。僕から見ると父親の従兄弟にあたる。現在の苗字は違うが岩崎師範代のお兄さんだ。彼が失踪した理由は、この中では親戚筋である僕だけが何となく知っている。

「それはちょっと覚えてません。イリヤなら覚えているかも…今度聞いておきます。なんでも彼は世界中を旅して武者修行をしているとか言ってました」

 ダニエルは続ける。


「イリヤのシステマや柔術よりも、私が元グリーンベレーと聞いて、ナイフ術の方に興味を持ったようでした。それがとんでもなく強くて、今思うとあれも合気の為せる技だったのかもしれないなと……」


「もしかしたら琢磨君のお父さんの春野さんかもしれませんね」

 僕は言った。

「まぁ琢磨君には話さないでおきましょう。本人が望んで失踪しているんだし、帰ってきたくなったら帰ってくるでしょう」

 と、トキネさんは言った。


「その人が道場に現れた詳しい日付なんかも分かりますかね?」

 草壁さんがダニエルに聞く。

「イリヤは道場の日誌をつけているので、彼に聞けばわかると思います」

「琢磨君の父親であれば、同じギフトを持っている可能性もありますね。アメリカにいた時期が分かればちょっと財団の方でも調べてみます」

 と、草壁さんが言った。


「ところで財団はどうやってギフトを持っている人間を探し出しているんですか?」僕は草壁さんに聞いて見た。琢磨君の実力は分かるけれども、大きな大会で優勝したなどの話は親戚内でも聞いた覚えがない。一体どこから彼の能力を知ることになったのだろうか?


「私が知っているのは、ギフトを持っている人を鑑定できるギフトを持つ人間がいるという事だけです。具体的なところは分かりません。まぁ知っていても言わないかもしれませんが……」

 草壁さんは含みのある言い方をした。どうもユーナム財団にも謎な部分が多い

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る