第30話 秘書
自分は席から立ち上がると、そのナイスな三人組の方へと歩み寄る。しかし自分の前には一人の女性が三人組の方を向いて、自分の方へは背を向けて立ちはだかった。女性は上着は来ていないが、黒いスーツだと分かるパンツと上は白いYシャツ姿だった。仕事のできるOLと言った感じだ。
「さっきからちょろちょろうるさいですね。しつこい男は嫌われるって知りませんか?」彼女は三人組にそう言った。
「なんですか?代わりにおねーさんが遊んでくれるんですか?」一番ガタイのいい奴がその女性に声を掛けた。
「あら、何して遊ぶのかしら」そう言って女性は4人掛けテーブルの空いている席に座った。
「あなたたち高校生よね?このあたりだと鬼越工業高校かな?」女性は三人に向かってそう問いかける。
「そうですよ。ただいま絶賛夏休み中で遊び相手募集中でーす」一人がおどけながらそう言った。
女性はフムッと頷いてから
「君たち未成年だしね。ちょっと待っててね聞いてみるから」そう言って女性はスマホをバッグから取り出して、しばらく連絡先を検索する仕草をした後にどこかに電話をかけ始めた。
「文部科学大臣秘書官の草壁と申しますが鬼越工業高校さんでしょうか?校長先生に繋いでもらえますか?」それを聞いて三人は慌て始める。
「いや、僕たち食事も終わったんで今から帰るところだったんです」
草壁と名乗る女性が席を立って道を空けると、三人はそそくさとレジの方へ去って行った。
そうして一連の出来事を彼女の後方で呆然と眺めていた自分の方を見て
「出番とってごめんなさいね」と言った。自分がそれに答える前に、彼女はシャツの胸ポケットから名刺を取り出して田村さんに渡す。
「先ほど名乗った通り文部科学大臣秘書官の草壁と申します。田村さんにちょっとお話があるので、時間のあるときにでも名刺のアドレスに空メールを送って頂けませんか」そう言った後自分の方をちらりと見て
「さっきの連中は隠し撮りしておいたので、後で身元も調査しておきます。また何かちょっかい出してくる様なら連絡をください。彼氏にも名刺を渡しておきますね」と言った。
それには食い気味に田村さんが反応した。
「あ、彼氏とかではないです」確かにそうだけども、そんなに早くそして強く否定しなくてもいいんじゃないかと思った。
草壁さんは自分にも名刺を渡しながら、その目で自分の顔をジロジロと眺めてくる。そこで初めて気が付いたが彼女はとても端正な顔立ちをしていた。
「どこかでお会いしてませんでしたっけ?」草壁さんにそう聞かれて
「いえ、初対面だと思います」と自分は答えた。
こんな時に『過去に会っていたらこんな美人は忘れませんよ』ぐらいの切り返しができたならもてる男なんだろうか?いや、なんかそれはそれでもてないような気がする。
「先ほどはありがとうございました」田村さんは草壁さんにそう言って頭を下げると、
「ほら、茂木先輩も席に戻って下さい。後で注文取りに伺いますから」そう言ってにっこりと微笑んだ。その言葉には草壁さんが反応した。
「ああ、茂木…。なるほど」草壁さんは一人で納得した様子でそうつぶやくと
「私も食事は終わっているので会計をお願いできますか?」と言って、自分の席の荷物と上着を回収しつつレジの方へと進んでいく。田村さんはその後を追った。先ほどの三人の姿はレジ前にはもう無かった。
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