第21話 リ・ハオラン

 静まり返った会場を後にして、トキネさんはVIP席の方に戻ってきた。しかし会場と同じく部屋内もシーンと静まり返っていて、誰も言葉は発しない。


「また1時間待たないといけないんですよね。この格好のままで下に降りる訳にもいかないしどう時間を潰したものか…」トキネさんがそうこぼした瞬間に、最初にこのVIPルームに案内してくれた従業員が入ってきてこう言った。


「ボスのハオランがお呼びです」


VIP室から出た通路は、下のカジノゾーンに降りていくのとは逆方向にも続いていた。そちらに進んで、一旦闘技場とカジノが一緒になった大空間の外に出る。更にしばらく進むと突き当りに扉があった。従業員は扉を開けて手を差し出し、トキネさんを中に促した。トキネさんが部屋に入ったところで従業員は扉を閉めて立ち去った。


 部屋の中には一人の男の姿があった。年のころは30前後。先ほどのカズマやマーリンの様に暗い色のジャージを上下に着ているが、一つ違うのは表面も裏面も通して金色の龍の刺繡が施されているところだ。

「あなたがハオランでいいのかしら?」トキネさんは男に話しかける。

「お会いできて光栄です。あなたの話は王の方から聞いています。先日は何かの手違いで部下が失礼をしたそうでお詫び申し上げます」そう言ってハオランは深々と頭を下げた。


「あら?私が誰だかお分かりみたいですね。マスクは外していないのにどうしてかしら?」

「先ほどのマーリンとの戦いを見れば分かりますよ。彼はああ見えて王ご自慢の懐刀です。もう二度と部下には粗相をしないように言い聞かせますので、今日の所はお引き取り願えないでしょうか?」


「まぁ今日ここに来たのはあなたにお聞きしたいことがあったからです。全部答えてくれるなら帰らないこともないですよ」トキネさんは言った。

「内容によりますね」ハオランはそう返した。

「喜田議員はあなたが殺したのかしら?」トキネさんは相も変わらず直球で聞く。


「ああ、その事ですか。ならばそれは違います。我々は一切手なんか出してません。彼が勝手に自分で命を絶っただけです」ハオランは笑いながら答えた。

「死に方の話じゃなくて、死を選んだ理由を聞いてるんだけど?」トキネさんはハオランの笑いを制するように、厳しい口調でそう言った。


ハオランは少しだけ考えてからこう答えた。

「それは言えませんね…」


「じゃあ交渉決裂ですね。あなたに勝てば組織ごともらっていいんでしょう?そのうえで他の人に聞くとします」トキネさんは続ける

「あなたは随分な腕自慢だって聞いてますよ。マーリンの参加を止めなかったという事は、彼には確実に勝てる自信があったって事でしょうし…面白そうだから最後までやりましょう」


「それはそれでも構いませんが、私とあなたがやり合えば多分どちらかが命を落とすところまで行ってしまいますよ。相手があなたとなると加減はできそうにない。流石に死人が出ると後が面倒ですからね…」ハオランは表情を変えずにそう言った。


「大した自信ですね。ますますここで帰るわけには行かなくなりました」そう言うとトキネさんは後ろに振り返り、入ってきた扉の方へ向かって歩き始めた。そうして扉の前まで来たところで立ち止まり、ハオランの方は振り向かずこう言った。

「喜田議員のお孫さんはまだ3歳だそうですね」トキネさんは右手の中指を立てて。後ろにいるハオランに見えるように肘を曲げて腕を上げた。


「死にたくないなら最初から殺す気で来なさい」

そう言って扉を開けて部屋の外へ出た。

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