夢を喰べるバク
大岫千河貢
第1話-① 私の日常
長い鎌を持ち、フードを被った顔の見えない全身黒尽くめの男に、私たちは追いかけられている。
夜の街を颯爽と走る車を気にもせず、私たちは足をもつらせながらも、ただひたすらに逃げ続けていた。
***
やっとの思いで逃げ切ることができ、私たちは何処だかわからない地下の部屋へとたどり着いていた。
明かりがないはずなのに、目が暗闇に慣れたのか、部屋の中がペンダントライトの三段階目をつけているくらいの明るさに感じる。
逃げ切ったばかりだというのに、私たちは何故か当たり前のように床に置かれたござをお腹にかけ、寝始めた。
ふと横に目をやると、先客がいたようだ。その先客は、うつ伏せになりながら眠っている。
その先客に対し私は、まるで液晶画面が下になったスマホをひっくり返すかのように、何事もなく手をかけながら仰向けの姿勢へと変えていた。
その瞬間、私は目を見開いた。
なんとその先客は、生きた人間ではなかったのだ。性別も年齢もわからないはずなのに、なぜか“お婆さんだ”ということだけはわかる。
そのお婆さんは、よくテレビで特集されているミイラと特徴が同じだ。
───あ、目が覚める……。
私は、私の意思を持って目を開ける。
なんちゅう夢だ。
何の脈絡も、辻褄もない。ただただ怖いとだけ感じる、訳の分からない夢。
ホラー映画よりは怖くないだろうが、鎌を持った男に追いかけられた恐怖も、ミイラのお婆さんを見た恐怖も強烈に残っている。
私は、よく悪夢を見る。
最近は目が覚めてしばらくすると「なんか怖かった」という感想だけで済むが、小さい頃は悪夢が本当に起きた出来事かのように、目が覚めた後はとにかく不安で、安心を得られない限りは頭の中が恐怖だけに支配されていた。
そういえばと、私は幼少期に悪夢を見たときのことを思い返した。
私がまだ両親と眠っていた頃の話。
私は悪夢を見てものすごく怖くて、隣で眠っていたお母さんの体を、小さな手で全力で揺すった。
そのときに、お母さんが教えてくれたんだ。
「怖い夢を見たときは、バクと三回唱えると、その怖い夢をバクが食べてくれるよ」
って。
それから一人で眠るようになって、両親にバクの形をした枕を買ってもらった。今は四角い普通の枕を使っているけれど、そのときのバクの枕はぬいぐるみと共に、ベッドの端に並んでいる。
そんな幼少期の思い出を頭に巡らせながら目覚まし時計を確認すると、アラームの鳴る五分前の数字が表示されていた。
たった五分の数字でも、なんだか勿体無い気がして、でもアラームに無理やり叩き起こされることのない嬉しさも抱えながら、私は学校へ行く準備を始めた。
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