転生☆GM(ゲームマスター)~生贄少女は自分だけ知ってるシナリオチャートで破滅回避~

天平

序章:あるゲームマスターの終焉

第1話:終章、あるいは始まる前の物語

 熱気に満ちた空間。周囲は剣山のような岩山に囲われ、ここは己と仲間たち。そして討ち果たすべき仇敵しかいない。

 5人組の冒険者は今、彼らの住むイムヌス大陸全土を滅ぼそうとする大悪魔アーチデヴィルマモンと対峙していた。

 巨大な体躯に2本の角。真紅の肉体と紺碧の翼。まさに悪魔の中の悪魔といった風貌と言えよう。

 マモンはこれまで慎重に暗躍していた。それでなお、この窮地に追い詰められたのは冒険者たちの地道な活躍あってのことだろう。各地で暗躍していた悪魔やその共謀者の討伐をきっかけに、ここまでたどり着くことができたのだ。

 だが、この状況下であってもマモンは嗤う。


「ふ、ふはは。ふはははは!!」


「なんだ、なにがおかしい!?」


 冒険者のリーダー、聖騎士パラディンのタケルはマモンの嗤いの理由を問う。己の信念に従い、弱気を助け悪を挫いてきた彼には、悪魔の嗤いがわからなかった。


「よもや、慎重に慎重を重ねていたつもりだったのだがな。まさかたった5人の人間に追い詰められるとは思わなんだ」


 悪魔は一呼吸する。少し力を込めれば、ただの呼吸ですら竜の吐息ブレスに匹敵する行為。だが、ここで敢えてその脅威を示す様子はない。

 悪魔も僅かなりと冒険者を味方にしたいつもりなのだろう。


「どうだ。人類を裏切って我につかないか?」


「どういう意味だ!」


「文字通りの意味にほかならんよ」


「タケル、悪魔の言うことを聞く必要はないわ!!」


 困惑するタケルを静止するのは神官クレリックのライラ。一方で、タケルの隣りにいた小さな影は悩むそぶりをする。


「ちょうど人間の配下が死んで、新たな右手を探していたのだよ」


 ここに来る直前、人間を裏切って悪魔と共謀していた邪悪な魔術師を倒した。彼の代わりになれ、ということなのだろう。


「えー、俺はどうしよっかなー」


「オーゴロシ!!」


「冗談だっ……て!!」


 オーゴロシと呼ばれた影……リリパットという、子供のような青年は否定の言葉とともに駈け、そして悪魔マモンの懐に潜り込んで両手のダガーを振り上げる。

 悪漢ローグらしい奇襲戦法が彼の得意技だ。

 マモンの不意をついた攻撃。それは悪漢ローグである暗殺者であるオーゴロシにとってはより深い傷を与えるチャンスでもある。


「ッ!! 警戒はしていたが、一枚上手ということか」


「交渉決裂、ですね」


「オレは馬鹿だからよく分かんねえけどよ、どのみち従う理由なんてなかったろ?」


 魔術師ウィザードの青年アンジと蛮人バーバリアンの少女サーシャも構え、ついに世界の命運を賭けた戦いは火蓋を切る。


 悪漢の撹乱、魔術師の強大な呪文、神官の支援、蛮人の豪快な戦い。そして、聖騎士の信念は強大な大悪魔を徐々に押していき……そうして、長き戦闘の末決着を迎えた。


「喰らえ、神聖痛打ディヴァイン・ヒット!!」


 決め手は聖騎士パラディンタケルの得意技。自らが使える魔法の力を武器に乗せ、敵を打ち倒す攻撃。

 最大の魔法力を込めて振るった一撃は、悪魔フィーンドであるマモンには特に強烈に響いたようだ。


「我が、負けるだと!?」


 困惑の声を上げながらも、光輝の攻撃で沈められたマモンは光の粒子となって消えていく。


「だが、我が消えたとて他の大悪魔が必ず、貴様らを……」


 滅ぼすぞ、と言いかけたようだが、最後まで言葉が発せられることはなかった。


「正義は勝つ! ってやつだよな!!」


「貴方はよく、悪さをしますけどね」


 お調子者の悪漢オーゴロシは勝利に酔い、一方で冷静な魔術師ウィザードアンジは彼をたしなめる。

 これが、冒険を始めてからここまで続いてきた彼らの日常である。

 はじめはよくあるゴブリン退治。彼ら5人が住む村落近辺の洞窟に住みついたゴブリンを追い払うだけの、ありふれた冒険。

 しかしそれがきっかけで知ってしまった、魔界の陰謀を巡った彼らの冒険はこれまで数々の苦難と名声を得てきた。

 それも、ここで終わりを迎えることを思うと彼らもどこか感傷的な表情を見せている。

 だが、主を失った魔界は彼らを待ってはくれない。不安定になった空間は徐々に崩れていき、虚無に包まれつつある。もしもこの虚空に呑み込まれると、大英雄である彼らもどうなってしまうかはわからない。


「さて、早く脱出しますよ」


「飯、食うぞ! 肉だ肉!!」


 アンジは脱出を促し、サーシャに関しては既に戦勝式の想像をしている。

 他の二人も急いで魔界と地上を繋ぐ魔界門に向かっているが、タケルはまだ寂しそうな顔を見せる。


「どうしたの、タケル。急がないと出られなくなるわよ」


「ん、ああ。いや、俺たちはこれからも一緒に冒険できるのかなって」


 タケルの様子を訝しんだライラは脱出を催促するが、やはりタケルの表情は芳しくない。


「そんなの当たり前でしょ。成り行きに任せてたら世界救っちゃったけど、私たちは冒険者なんだから」


「ああ、そうだよな!」


 また一緒に集まれば、冒険ができる。タケルも、ライラも……他の仲間達も皆そう思っていた。

 すべてを見守っていたモノゲームマスターだって、きっと同じことを考えていただろう。

 そうして、魔界から脱出した彼らの戦勝式を描いて物語は終わりを迎えた。

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