ブッコロー:ミラクルおじさんになる

@hakensyain

ブッコロのきせき

「あなた、今日も競馬場に行くの?」

 ブッコローの嫁が呆れ顔でこちらをみてくる

「いいじゃないか、これが俺の生き甲斐なんだから」

 ぶっきらぼうにいう、俺ことブッコローの中の人は、趣味に生きるのだ。

「別にいいけど、そのお金は私が出しているのよ?」

 不満そうにいうのも、ブッコロー自身は理解できている。

 というのも、ここ最近は負けが続き、嫁に借金して、賭け事をおこなっているのだ

「ま、まぁ今日こそは勝つから・・・」

「それ、先週も聞いたよ?」

「ぐぬぬ・・」

 ブッコローは、でも生活費はきちんと出しているし別にいいじゃないかと言いかけたが、グッと堪える。

 居心地が悪くなった俺は、逃げるにように競馬場に向かった。

 

 競馬場にて

「やぁ、ブッコローさん」

「まっさん、その名前を外で出すのは、やめてくださいって言ってるでしょう?」

 競馬場で、知り合いに出会う。

 俺の本性を知ってるこの男は、まっさんという人で、競馬のことを俺に教えてくれた「人だ。ただ、まっさんの本名は、知らない。もう10年以上も付き合っているのにだ。

「今日は誰にかけるの?」

 まっさんが、いつもの挨拶のように俺に問いかける。

「そうだな。とりあえずあの馬がいいな」

 俺は、パドックにいる一際毛並みのいい馬を指差す。

「ほんと、お前は過去の戦績とかみないよな。あの馬は、過去のレースで惨敗した馬だぞ?」

「それでも、あの馬がいい。何より見た目が気に入った」

「そうか、好きにしろ。わしは、1番人気のあの馬にするぞ」

 ふと、娘の誕生日が近いことを思い出す。

 なぜこのタイミングで思い出しのか不思議だった。

 これは、何かお告げだろ思い、娘の誕生日と同じ番号の3連単を買った。

あくまでも、記念の購入なので、100円くらいだが・・・。

 なんやかんやで、馬券を買い、観客席に向かう。

そうこうしていると、レースが始まった。

1番人気のメチャニンキが、先行する。

いつものレース展開だ。

観客は、今日もメチャニンキが1着をとり、残りを争う。

ブッコローを含めた、観客は皆そう思っていた。

ところが、レース第四コーナーを回った時、異変が起きた。

大外にいた13番人気のピンクジェットが一気に駆け上がる。

みるみるうちに、他の馬たちを抜き去り、ゴール盤をかけるころには1着をとっていた。

実は、驚きはこれだけでなく、2着には、メチャニンキが獲得したが、なんと3着には、14番人気(最低)のメチャフニンキが入っている。

終わって見ると、ブッコローが賭けた馬たちが、全て当たり払い戻し金は1000万を超えていた。


「ういーす、帰ったぞ〜。」

あの後、競馬仲間と飲みに行き、ベロベロになるまで、楽しんだ。

ブッコローは、千鳥足で家路につく。

「どうしたの。そんなに酔っ払って。もしかし、派手に負けたの?」

「あー、違う。当たったんだよ。1000万が」

 「え?1000万?」

嫁子は、何が起こったのかわからないといった感じでことらをみてくる。

「ほ〜ら。ドーン!」

ブッコローは、カバンから万札を高らかに掲げた後、床にどかっとおく。

嫁子はポカンとしている。

「パパ、おかえり〜。あれ、どうしたの?そのお金?」

やりとりと

 次の日。

 朝日照らされて、目を覚ます。

 あのあと、なんとか自分の部屋まで、たどりつくことができたらしい。

 玄関にたどり着いた移行の記憶が全くない。

 すると、上機嫌な嫁子が笑顔で挨拶をしてきた。

 嫁子がこんな顔をしたのは、いつ以来だろう。

「あなた、こんな車が欲しいのだけど、どう?」

 嫁子が見せてきたのは、車のカタログだった。

 値段は、500万ほどだが、維持費などを考えると、10年ほど乗ると考えると、1000万の費用が必要になってくるだろう。

 嫁子は、車好きではあったが、俺の収入が低いことが原因で半ば諦めていた。

 アルファードを選んできているのは、家族での移動も考えてのことだろう。

 嫁子は昔から美人だったので、こんな車をポンっと変える男を選ぼうと思えばできた。

 だが、「私が好きなのは、お金じゃなくて、あなたなの」といい、俺と結婚してくれた。

 そういえば、昨日酔った勢いで、嫁子に好きな車を買ってやるといい、カタログを渡した気がする。

「えぇ〜、ずるいママ! ねぇ、パパ💓家のリフォームをして、私の部屋を作ってくれんでしょ?」

 娘が猫撫で声でこちらをみてくる。

 確かに昨日帰ったあと娘に対してそんなことを言ってあげた気もする。

 この家は中古で安く買えたものの、古さ故に娘たちには不便を強いていたことも事実である。

 普段は、そのことを隠そうとしているが、昔から娘は隠し事が苦手なのだ。

 娘も多感な時期だ。そろそろ自分の部屋が欲しくなる時期だろう。

こちらも、なんだかんだで費用は1000万程度かかるだろう。

 「いい?娘子?ここはママのいうことを聞きなさい?」

「ママはいつもそうやって、私を言いくるめようとして!こういうときくらい譲ってよ!」

だんだんと嫁子と娘の口喧嘩が始まった。

「まぁまぁ、二人とも落ち着いて・・・」

「「パパは黙ってて!!」」

「・・・はい。」

こうなっては、しばらく、続くだろうと思い、ブッコローは、喧騒から逃げるように家を出た。

 

 ブッコロー(の中の人)は悩んでいた。

 普段喧嘩なんかしない嫁子や娘が、たかが1000万くらいで喧嘩するとは思いもしなかった。

 いや、ブッコロー自身にとっては、1000万という数字は、大きい。

 だが、小説とかで題材になるのは、少なくとも1億だとかそういう数字だ。

 以前紹介した、「元彼の遺言状」という小説でも数100億とかいう数字だったと思う。

 あるいは、もう少し、それこそ、2000万円くらいであったのなら、そんなことは起きなかったのかもしれない。

「いや、それはないか・・・」

 ぽつりとつぶやく。

 お金というのは、金額がいくらだろうが、揉める時は揉めるのだ。

 2000万だったら、2000万円の何かに変わって、彼女たちは言い争うだろう。

 これはもう寄付でもして、チャラにした方がいいかもしれない。

 元々無かったことにしてしまっても元に戻ることはないのは、わかっている。

 しかし、問題の解決というのは、時間がかかればかかるど、傷が癒える時間がかかるのだ。

 ブッコローは、チャラことに決めた。

 しかし、ここで問題になるのは、どこに寄付するのかということである。

 適当なところに寄付してもいいが、その寄付先が反社と繋がっており、変なことに使われると、目覚めがわるい。

 知り合いにあげてもいいが、これまでの関係が崩れる可能性があるので、だめだ。

 自分は、お金を手に入れるのは、不得手だが、使うのは得意だと思っていたが、どうも、使う方も不得手らしい。

 ふと、気がつくと、ブッコローは、いつもの競馬場にいた。

 こんな気分の時でも、体は競馬を求めいるだろう。

 思えば、ブックローの人生は、いつも競馬と共にあった。

 受験の前に、リラックスするためにやってきたり、彼女との初デートもここだったし(まぁすぐに振られたんだけど)

 結婚指輪の費用もここで稼いだものを使った。(嫁子には、このことは秘密にしている)

「そうだ!!」

 ブッコローは、思わず言葉を紡いだ。

 これしかない。

 何を悩んでいたのだ。お金の使い道なんてこれしかないじゃないか。

 そう思い、ブッコローは、馬券売り場に駆け足で向かった。

 


「はぁ? 今なんていった?」

家に帰り、ブッコローは嫁子たちに報告した。

「だから、お前らが喧嘩するから、馬に全額賭けたんだよ。」

 そう、ブッコローはお馬さんに儲けさせてもらったものは、お馬さんにお返しするべきだと思い、税金などの必要経費を引いた金額全てを馬券購入に費やしたのだ。

「でもでも、また当たる馬を選んだんでしょ?」

 長女がまだ希望の眼差しで見つめてくる。

「いや、泡沫候補のウマに単勝で全額かけたさ。」

「はぁああああ!」

 娘が、聞いたことがない声で、どなり散らしてくる。

 本当は、この1000万をもたらした馬に賭けるのが、恩返しになると思った。

 しかし、また、この馬が勝ってしまったら、それこそ問題が膨れ上がるだけなのだ。

 そこで、泡沫候補のなかから、適当に選んだのだ。

「見てくれ、このウマはマジミラクルというらしい。もしかしたら、またミラクルが起きるかもしれないぞ?」

「は、そんなわけないでしょ?」

 長女が先ほどの羨望の眼差しから、侮蔑の眼差しに変わった。

 ブッコローは、辛い気持ちになったが、長女の気持ちもわからなくもない。

 色々と欲しいものが溢れる年頃だ。

 全額とはいかずとも、多少なりとも自分にもおこぼれがあると、思っていたに違いない。

 自分が逆の立場であっても、そのように考えるだろう。

「あなた、今度からお小遣い半分ね」

 嫁子が、テンションの低い声で、死の宣告を告げた。

「え!」

「当たり前でしょ? これだけ期待を持しておいて、その期待をこんな紙屑にしたんだから・・・」

「でもまだ、紙屑になったわけじゃn」

「それは、あなたが1番わかってるでしょ?」

「ぐ・・・」

 その通りである。競合揃いのこのレースで、この馬が勝つ確率は、F欄高校の生徒が東大に受かるほどの確率である。(やや言い過ぎな部分もあるが)

 実際、オッズはブッコローが一人で1000万ほど購入しているにも関わらず、20倍になっている。

「はぁ、もういいわ。」

 嫁子と長女は、呆れた様子で居間を出て行った。

「これでよかったんだ・・・」

 ブッコローは、居間のソファに体を預ける。

「疲れたなぁ」

 思えば、ここ数日、お金に振り回されてばかりだった。

 しばらく、競馬は、やめよう。

 本当は、やめたくはないが、家族がこれ以上壊れるのは、辛い。

 

 ありがとう、競馬。

 僕の趣味であり、青春であり、人生であった競馬。

 

 もう2度と交わることはないであろう馬たちに、手まえにあったグラスを手に取り、乾杯をした。

 

 

 数日後、

 

 くる、くる、マジミラクル!!

 マジミラクル勝ちました!!

 

 ブッコローが賭けた馬が走るレースが行われた。

 ブッコローが賭けた馬は見事勝利し、払い戻し金が2億円ほど発生した。

(これは賞金額1億8000万よりも多い金額である)

 

 ネットでは、マジミラクルに賭けた謎の人が話題になり、「ミラクルおじさん」と呼称されているのだが、ブッコローはそのことは知らない。

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