第7話 変化

 新学期まで一週間を残して漸く静岡に帰ってきた。心配しないで父さん、母さん、私達頑張るから。淋しくなるのと心配なので母さんがおたおたしていた。最後は山井君に宜しく頼むだなんて娘を託していた。

 山井君との異常接近を早苗に咎められはしないかとドギマギしながら、それでも何とかなるさって開き直ったのは、この夏一線超えた強みだろうと我ながら驚いた。山井君の張り詰めた気持ちもどことなく柔らいで親にも体当たりしてみる気になったと、離婚になったとしてもウジウジしないでいられるように言いたいことは言うんだと言っていた。

 

 荷物を抱えて店の扉を開けると新しいバイトの子の元気な声がした。

「いらっしゃいませ!」

 この声はまさか…

「早苗!あんたバイトなんかしてていいの」

「バイトなんかって…」

 おばさんの声。

「おばさん早苗受験生なんだよ。バイトなんかやらせて大丈夫なの」

 興奮してる私の横で早苗が悠然と、

「ちゃんと午前中予備校行ってるって、夏の集中講座の間休ませてもらったし、あんたよりは絶対やってる」

 ただいまどころじゃなくてこういう展開もあったかと驚いていた。

「私この先職なくすのかなあ」

「なに情けないこと言ってるのよ。はいジュース」

 いきなり出てきたおばさんのジュースに顔が青くなった。

「おばさんのジュース美味しいよね」

 という早苗におばさんはニンマリ。おばさんのジュースが美味しいなんてただごとじゃない。

「晴子座れば」

 早苗に言われてカウンターに腰を下ろした。

「これ、何のジュース?」

 どきどきしながら聞くと、

「マンゴーとアボガドとキウイのスペシャルブレンド。砂糖無し」

 そうか、アボガドか前のはまずかったよな。なんかねっとりして……心配しながら一口飲むと、サマンサに帰ってきた気がした。

「まずい……」

 やっぱまずいわ。でも懐かしい。おばさんの味。嬉しくてセンチになった。

「どうしたの晴子悲しいくらいまずいの?」

 早苗の言葉にかなり気を悪くしたおばさん。

「ううん、サマンサに帰ってきたって思ったの。あーただいまって懐かしくて」

 と言うと、

「晴子何かあったのこの夏休みに」

 と、おばさんの心に沁みる一言。話したいことはいっぱいある。上手く言えないとは思うけど、私口下手だし。早苗とおばさんが代わる代わる私の顔を心配そうに眺めていた。

「晴子のこんな乙女チックな顔は珍しいよ。いつも醒めてる方だから、よっぽど綺麗な星空に心を奪われたとか」

 またあ、おばさんはそう言った。

「この子ファザコンだから父と別れて淋しいんじゃない」

 と、二人で勝手に色々話している。良いよ、良いよ、なんとでも言って、でも、新しい目標見つけてそれに向かってやっていくんだ。おばさんのジュースを顔をしかめて飲みながら色々あった夏休みを思い出していた。

「晴子ずっと一緒にやっていこう、俺これからは自分のこともっと考えるよ」

 そう言った山井君の明るい顔が私の胸をいっぱいにした。

 その後、善ちゃんが店にやってきて、こっそり早苗と付き合い出した話を聞いた。まさか…自分のことよりぶったまげてこれで当分私の話題の出る幕はなくなったと思った。

 しかし……おばさんよく許したよな。これからデビューするかもしれないって時に。アイドルで売り出す訳じゃないから彼女いてもいいのかな、ロックンローラーだからな。

 善ちゃんありがとう。善ちゃんの歌も不安な気持ちを支えてくれたよ。私は二人の幸せそうな顔が自分のことのように嬉しかった。

 バイトに復帰してからも、早苗は毎日のように善ちゃんのところに通って来た。善ちゃんのバラードを英語で翻訳したりして、いよいよ善ちゃんのバンドも格調高くなってきたよな。

 いつか、山井君のこと、北海道のこと、いつか、早苗にいわなくちゃと思いながら、言えずに毎日が過ぎていった。

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